講演情報

[15-P-C001-02]ADL維持のための糖尿病合併症との向き合い方

*齋藤 晴美1、佐藤 真美1、佐藤 悟1、高橋 里奈1、會田 智子1、加藤 貞子1 (1. 山形県 介護老人保健施設フローラさいせい)
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糖尿病合併症による足趾の皮膚潰瘍形成の利用者に対する取り組みについて報告する。潰瘍発見時より、創に合わせた処置方法の選択、患部への圧迫等外的要因の除去、閉塞性動脈硬化による血行障害への対応、血糖コントロールをしながらの栄養管理等を医療・看護・介護・リハビリ・栄養等、多方面からアプローチした。糖尿病及び血行障害による皮膚潰瘍に対しては、悪化させないことがADL維持へ繋がることを認識した症例を報告した。
【はじめに】
慢性疾患である糖尿病には、様々な合併症があり難治性であることから、生活機能に支障をきたす原因となることが多く、病状の進行によりADLが低下し、身体的・精神的に機能低下を招く例が少なくない。
当施設入所中の利用者の約2割に糖尿病の既往があり、その中で、足趾の皮膚潰瘍形成が見られた利用者の症状悪化防止に取り組んだ症例について報告する。
【症例紹介】
S様 93歳女性 要介護1 2023年4月6日~リハビリ目的で入所となる。
現病・既往歴:糖尿病(2003年から)、高血圧症、アルツハイマー型認知症、乳癌、大腸癌
処方内容:インスリン グラルギンBS注(0-12-0)、ジャヌビア、オルメサルタン、アムロジピン、ゾルピデム、センノシド、ラベプラゾール
ADL状況:移動時車椅子使用。移乗は立位保持可にて軽介助。
   排泄は日中トイレ誘導し夜間おむつ使用。日中は車椅子乗車して過ごす。
栄養面:糖尿病食1600Kcal提供。摂取率平均80%にて、1300Kcal程度。
【発生状況】
2024年2月12日、入浴の際左足先の痛みを訴える。全体的に白癬爪で、左足第1趾爪周囲より化膿した様子で発赤・腫脹が見られる。軽く触れただけで痛みがあり、臥床していても痛みがあるとのこと。
2月20日、左足第1趾爪周囲よりガーゼに血液付着あり、爪が浮いている様子あり。
2月24日、爪周囲より排膿あり、爪が一部剥がれかかっているため、カットしながら除去してみると、爪の内側中央部がくぼんでおり、穴が開いた状態でゾンデが1.5センチメートル程挿入できる深さあり。
【方法】
1 医療・看護面
(1) 下肢の血行障害がみられるため、ABI(足関節・上腕血圧比)を測定した結果、0.24(正常値1.0~1.4 /0.4以下重症例)で、重度の下肢虚血であることがわかり、治療方針としては、感染させない・悪化させないことが目標となる。
(2) 併設病院の皮膚・排泄ケア認定看護師より評価を受け、処置で使用する軟膏類の確認や虚血による足先の血行不良があるため、日中でも数時間下肢を安静にすること等のアドバイスを受ける。
(3) 看護師による処置及び経過
 2/12 創部を洗浄し、ゲンタシン塗布、ガーゼ保護。
 2/14 左足趾全体に抗真菌剤(ラノコナゾール)を塗布し、第1趾創部にポピドンヨードゲル塗布、ガーゼ保護。
 2/24 第1趾爪除去後に、穴の内側も、ジェルコ針外筒をつけたシリンジを使用し洗浄。周囲の発赤・腫脹がおさまってきており感染兆候なし。
 3/3 創からの浸出液少量、中央部黒っぽく壊死組織と思われ、ゲーベンクリームを使用。
 4/24 中央部の壊死組織が軟化し除去されたため、軟膏をポピドンヨードゲルへ変更。
 5/5 創からの浸出液吸収のため、軟膏をユーパスタへ変更。
(4) 痛みに対する対応
 認知面での理解力低下もあり、処置の際痛みを感じると不穏になり、離床・入浴等の介護拒否もみられるため、鎮痛剤(カロナール)に加え、ツムラ抑肝散1包1日1回セットし、痛みの軽減及び精神的安定を図った。又、処置の際、創部を撮影し、本人へ画像を見せながら説明し、理解してもらえるよう努めた。
2 リハビリ面
鎮痛剤の効果を見ながら、左足趾に荷重をかけすぎないようにするなど、痛みを観察しながら、時間を設定し対応、痛みが強い日には他職種と情報交換しながら疼痛の状態に対応した内容で行うようにした。
3 介護面
(1) 日中にも臥床し安静にする時間を作るようにした。
(2) シューズや靴下の検討を行い、先のとがった靴ではなく、圧迫されない形や素材の物へ変更した。
(3) 痛みの訴えや不穏時の対応として、傾聴や学習療法により、痛みに集中しないような関りを持つようにした。
(4) 食事の際、手を止めてしまうことがあり、声掛けや見守りで、摂取量の安定に気を配った。
(5) 入浴後、創部の観察や看護師への報告、情報提供など行った。
【考察】
介護の現場より、入浴時に左足先に痛みがあるとの情報があり、すぐに爪の状態を観察できたことが早期発見につながり、職種間で情報を共有できた。
その後の対応として、医師や認定看護師の助言を受けながら、軟膏の選択等、タイミングを逃さず処置できたこと、又、その間、痛みに合わせたリハビリの介入や靴の選択、日中の過ごし方等、各職種の視点で多方面からのアプローチにより感染が予防でき、壊疽まで悪化することなく現状維持できていることは、S様にとってのADL維持につながっていると思われる。
【おわりに】
利用者を中心とした同現場において、多職種がそれぞれの視点で強みを活かし、見える形で関わりあえる老健だからこそ、下肢虚血を伴う糖尿病の合併症と向き合えたのではないかと考える。
今後も、利用者の変化に気づき、情報を間近で交換し合い、早期に対処できる環境であり続けることで、利用者のADL維持・向上に努めていきたい。