講演情報
[15-P-C001-03]長期尿道カテーテル管理 Guilty ? or Not Guilty ?
*小松原 利英1 (1. 栃木県 介護老人保健施設やすらぎの里八州苑)
当施設で尿道カテーテル管理を行った91例を対象に調査を行った。対象の半数以上が死亡退所されている一方で、3カ月以上の長期留置となった利用者の合併症発症率は64%だった。在宅復帰した事例は14例で、予後とのバランスを考慮すると、介護量軽減を目的とするカテーテル長期留置には一定の妥当性があると考えた。長期留置の医学的リスクはあるものの、在宅復帰に寄与するのであれば重要な選択肢の一つである。
【はじめに】
老健入所者が在宅復帰するにあたり、排泄ケアは大きな障壁の一つである。ケアの負担軽減のため、介護度の高い在宅療養者に尿道カテーテル管理が行われている光景は珍しくない。当施設においても、厳密には医学的適応外であるとしても、在宅復帰目的に尿道カテーテル管理を提案することがある。しかしながら、尿道カテーテルは尿閉などの医学的適応が無くなった時点で抜去することが原則である。長期の尿道カテーテル留置における合併症の頻度は100%という報告も存在し1)長期の留置については医学的見地からは厳に慎むべきである。このように、排泄ケアの簡便性と医学的な安全性はトレードオフの関係にあるが、そもそも高齢者においては尿道カテーテルが留置されていないとしても尿路感染症を発症する頻度は高い。このような背景から、老健入所を要するような要介護者の長期尿道カテーテル管理が、どの程度のリスクとベネフィットがあるのか把握することは重要と考える。そこで、当施設の入所者で尿道カテーテル管理となった症例を対象に、その臨床学的特徴と合併症の発生状況についてレトロスペクティブに調査を行った。考察を加え報告する。
【対象と方法】
対象は、対象は2022年1月1日から2023年12月31日までの2年間に当施設へ入所し、尿道カテーテルが留置されていた利用者とした。それぞれの臨床学的特徴と経過(性別、年齢、介護度、尿道カテーテル管理となった原因、留置期間、合併症の有無と種類、転帰)について調査し、カテーテル留置期間と合併症発症の推移について解析を行った。
【結果】
対象は91例で、内訳は男性38例(42%)、女性53例(58%)だった。平均年齢は85.7歳(56-100)で、平均介護度は3.9、カテーテル管理となった原因は尿閉が28例(31%)、尿路感染症が21例(23%)で、この2つで半数以上を占めていた。尿道カテーテルの留置期間については、10日未満が12例(13%)、10日以上30日未満が15例(16%)、30日以上90日未満が42例(46%)、90日以上が22例(24%)で、合併症を発症した事例は、それぞれ12例中1例(8%)、15例中1例(7%)、42例中13例(31%)、22例中14例(64%)だった。合併症を発症した29例中26例(89%)が尿路感染症で大多数を占めていた。転帰に関しては、死亡した事例が49例(54%)、施設退所が21例(23%)、在宅復帰が14例(15%)、入院が4例(4%)、その他が3例(3%)だった。なお、本研究においてはサービス付き高齢者向け住宅やグループホームなどの「高齢者向けの住まい」に退所した場合も「施設」としてカウントした。
【考察】
当施設では、入所者の在宅復帰を検討する際には「必要なケアが居宅介護サービスで代替可能なのか」を意識するようにしている。居宅サービスの中で、頻用される通所系サービスは1日の大半をカバーできる有用なものであるが、夜間の介護量が多いケースの場合、負担軽減に寄与しないことが多い。夜間の介護量を増大させ得る原因の最も大きなものの一つが「排泄ケア」である。当施設においても、排泄ケアの負担から在宅復帰を断念した事例は枚挙に暇がない。一方で、尿道カテーテル管理による「排泄ケアの簡略化」により在宅復帰した事例もいくつか経験している。前述の通り、このような目的による尿道カテーテルの留置はは厳密には適応と言い難いが、今回の検証結果から鑑みるに選択肢の一つとして考慮することは許容可能なのではないかと思われた。
その理由として、排泄ケア軽減のため尿道カテーテルの留置を検討するような事例は一般に介護度が高く、予後も不良であることが多いことが予想されるためである。排泄のたびに介助を要するようなケースはそのほとんどが介護度3以上であることがほとんどであり、介護度5の5年生存率は20%程度と報告されている2)。本研究において尿道カテーテル管理となった原因はさまざまであるが、平均介護度は3.9でその半数以上が研究対象期間中に死亡している。これらの結果を踏まえると、家族が排泄ケアを負担と感じるほど介護量が大きいケースに関しては、長期生存が期待できない事例も少なくなく、予後を優先するよりも本人・家族の意向を叶えることを優先することに妥当性があるのではないかと考える。つまり、在宅復帰を考慮する際に「医学的正当性」よりも「介護量の軽減」を優先し得るということである。
今回検証では、3カ月以上というかなり長期にわたって尿道カテーテル管理を行った集団の合併症発症は64%であり、それなりに高い数字であったものの、在宅復帰した事例が14例存在したという事実を鑑みるとリスク&ベネフィットのバランスは容認できるレベルではないだろうか。
一方で、1カ月未満で尿道カテーテルを抜去したケースではほとんど尿道カテーテル留置に伴う合併症を発症しておらず、医学的見地からはカテーテルの早期抜去が望ましいことは間違いない。尿道カテーテル留置自体が利用者のADL改善の妨げになる可能性もあるため、留置継続には慎重な判断が必要である。しかしながら、これら長期留置のリスクやデメリットを十分に理解してなお、われわれ老健の本懐ともいえる在宅復帰を達成するため尿道カテーテル留置の継続を提案することは、重要なことであると同時に与えなければならない選択肢の一つではないだろうか。個々の事例によって何が最優先事項であるかはさまざまであり、今後も排泄ケアにかぎらず柔軟な発想でベストなケアが提案できるよう努力していきたい。
1)Delimore K. H. et al. A scoping review of important urinary catheter induced complication. Journal of Materials Science: Materials in Medicine. 24 (8), 1825-1835 (2013)
2)鈴木真 他 要介護認定者の5年生存率上昇後の人口構造に関する確率シミュレーション・モデルを用いた検討 保険医療学雑誌 15 (1), 43-52 (2024)
老健入所者が在宅復帰するにあたり、排泄ケアは大きな障壁の一つである。ケアの負担軽減のため、介護度の高い在宅療養者に尿道カテーテル管理が行われている光景は珍しくない。当施設においても、厳密には医学的適応外であるとしても、在宅復帰目的に尿道カテーテル管理を提案することがある。しかしながら、尿道カテーテルは尿閉などの医学的適応が無くなった時点で抜去することが原則である。長期の尿道カテーテル留置における合併症の頻度は100%という報告も存在し1)長期の留置については医学的見地からは厳に慎むべきである。このように、排泄ケアの簡便性と医学的な安全性はトレードオフの関係にあるが、そもそも高齢者においては尿道カテーテルが留置されていないとしても尿路感染症を発症する頻度は高い。このような背景から、老健入所を要するような要介護者の長期尿道カテーテル管理が、どの程度のリスクとベネフィットがあるのか把握することは重要と考える。そこで、当施設の入所者で尿道カテーテル管理となった症例を対象に、その臨床学的特徴と合併症の発生状況についてレトロスペクティブに調査を行った。考察を加え報告する。
【対象と方法】
対象は、対象は2022年1月1日から2023年12月31日までの2年間に当施設へ入所し、尿道カテーテルが留置されていた利用者とした。それぞれの臨床学的特徴と経過(性別、年齢、介護度、尿道カテーテル管理となった原因、留置期間、合併症の有無と種類、転帰)について調査し、カテーテル留置期間と合併症発症の推移について解析を行った。
【結果】
対象は91例で、内訳は男性38例(42%)、女性53例(58%)だった。平均年齢は85.7歳(56-100)で、平均介護度は3.9、カテーテル管理となった原因は尿閉が28例(31%)、尿路感染症が21例(23%)で、この2つで半数以上を占めていた。尿道カテーテルの留置期間については、10日未満が12例(13%)、10日以上30日未満が15例(16%)、30日以上90日未満が42例(46%)、90日以上が22例(24%)で、合併症を発症した事例は、それぞれ12例中1例(8%)、15例中1例(7%)、42例中13例(31%)、22例中14例(64%)だった。合併症を発症した29例中26例(89%)が尿路感染症で大多数を占めていた。転帰に関しては、死亡した事例が49例(54%)、施設退所が21例(23%)、在宅復帰が14例(15%)、入院が4例(4%)、その他が3例(3%)だった。なお、本研究においてはサービス付き高齢者向け住宅やグループホームなどの「高齢者向けの住まい」に退所した場合も「施設」としてカウントした。
【考察】
当施設では、入所者の在宅復帰を検討する際には「必要なケアが居宅介護サービスで代替可能なのか」を意識するようにしている。居宅サービスの中で、頻用される通所系サービスは1日の大半をカバーできる有用なものであるが、夜間の介護量が多いケースの場合、負担軽減に寄与しないことが多い。夜間の介護量を増大させ得る原因の最も大きなものの一つが「排泄ケア」である。当施設においても、排泄ケアの負担から在宅復帰を断念した事例は枚挙に暇がない。一方で、尿道カテーテル管理による「排泄ケアの簡略化」により在宅復帰した事例もいくつか経験している。前述の通り、このような目的による尿道カテーテルの留置はは厳密には適応と言い難いが、今回の検証結果から鑑みるに選択肢の一つとして考慮することは許容可能なのではないかと思われた。
その理由として、排泄ケア軽減のため尿道カテーテルの留置を検討するような事例は一般に介護度が高く、予後も不良であることが多いことが予想されるためである。排泄のたびに介助を要するようなケースはそのほとんどが介護度3以上であることがほとんどであり、介護度5の5年生存率は20%程度と報告されている2)。本研究において尿道カテーテル管理となった原因はさまざまであるが、平均介護度は3.9でその半数以上が研究対象期間中に死亡している。これらの結果を踏まえると、家族が排泄ケアを負担と感じるほど介護量が大きいケースに関しては、長期生存が期待できない事例も少なくなく、予後を優先するよりも本人・家族の意向を叶えることを優先することに妥当性があるのではないかと考える。つまり、在宅復帰を考慮する際に「医学的正当性」よりも「介護量の軽減」を優先し得るということである。
今回検証では、3カ月以上というかなり長期にわたって尿道カテーテル管理を行った集団の合併症発症は64%であり、それなりに高い数字であったものの、在宅復帰した事例が14例存在したという事実を鑑みるとリスク&ベネフィットのバランスは容認できるレベルではないだろうか。
一方で、1カ月未満で尿道カテーテルを抜去したケースではほとんど尿道カテーテル留置に伴う合併症を発症しておらず、医学的見地からはカテーテルの早期抜去が望ましいことは間違いない。尿道カテーテル留置自体が利用者のADL改善の妨げになる可能性もあるため、留置継続には慎重な判断が必要である。しかしながら、これら長期留置のリスクやデメリットを十分に理解してなお、われわれ老健の本懐ともいえる在宅復帰を達成するため尿道カテーテル留置の継続を提案することは、重要なことであると同時に与えなければならない選択肢の一つではないだろうか。個々の事例によって何が最優先事項であるかはさまざまであり、今後も排泄ケアにかぎらず柔軟な発想でベストなケアが提案できるよう努力していきたい。
1)Delimore K. H. et al. A scoping review of important urinary catheter induced complication. Journal of Materials Science: Materials in Medicine. 24 (8), 1825-1835 (2013)
2)鈴木真 他 要介護認定者の5年生存率上昇後の人口構造に関する確率シミュレーション・モデルを用いた検討 保険医療学雑誌 15 (1), 43-52 (2024)