講演情報

[15-P-C001-04]薬剤師が処方前に長期的に介入することで見えた有用性高齢者施設の服薬簡素化提言の発出を踏まえて

*小林 紘子1、鈴木 慶介1、大橋 佐和子1、中野 博美1、玉井 杏奈1、片見 厚夫1 (1. 東京都 台東区立老人保健施設千束)
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与薬者の判断で徐放性製剤を粉砕投与し、効果が過剰に発現するアクシデントが繰り返し報告されている。当施設でも同様の問題があり2022年9月より看護師から服用方法を聞き取り、服用方法に沿った処方を医師に提案する処方前介入を始めた。処方提案の動向を明らかにするために、開始直後の6か月間と1年後の同月6か月間の提案内容を調査した。粉砕回避件数、服用回数減少件数は減少したが提案受諾率は上昇していることが分かった。
【はじめに】
台東区立老人保健施設千束(当老健)は病院併設型老人保健施設である。地下1階地上8階の建物であり、1~5階が病院で、6~8階に老健を併設している。処方薬の供給は、病院と老健を兼務する薬剤師が、同一の薬剤室で両施設の調剤を行っている。病院は薬剤師が病棟に赴き薬剤管理指導や病棟薬剤業務を行っているが、老健においては医師からの処方を調剤し払い出すに過ぎず、能動的に薬物治療に係ることはなかった。そのような中、与薬者の判断で徐放性製剤を粉砕投与し、効果が過剰に発現するアクシデントが医療安全情報で報告された。当施設においても同様の問題があったため、2022年9月より看護師から服用方法を聞き取り、その服用方法に合った処方を医師に提案する処方前介入を始め、服薬介助者が粉砕不適薬剤を粉砕してしまうことを回避する効果とポリファーマシー対策(一日服用回数の減少、服薬種類数の減少、薬剤費の減少)の効果を認め、第34回全国老人保健施設大会にて口頭発表を行った。

【目的】
2022年9月より薬剤師による処方前介入を開始して間もなく2年が経とうとしている(抄録作成時点)。薬剤師による処方提案の内容や件数の動向を明らかにすることを目的として、処方介入状況を調査した。

【方法】
看護師、薬剤師、医師間で情報をやり取りするために使用した処方内容が印字された「処方指示一覧」に、薬剤師が書き込んだ処方提案と医師の提案受諾について調査した。調査期間は、介入開始直後の2022年9月~2023年2月の6か月間と、開始後1年経過した2023年9月~2024年2月の6か月間とした。調査項目は(1)処方提案件数、(2)処方提案受諾件数、(3)粉砕不適薬剤の粉砕回避件数、(4)一日服用回数減少件数とした。

【結果】
各項目を前期6ヶ月と後期6ヶ月の合計で比較すると、(1)処方提案件数(前期180件、後期163件)、(2)処方提案受諾件数(前期111件、後期112件)、(3)粉砕不適薬剤の粉砕回避件数(前期31件、後期14件)(4)一日服用回数減少件数(前期57件、後期33件)であった。

【考察と課題】
(1)処方提案件数は後期で減少している。しかし、全処方数に対する割合は前期25.0%(180/719件)から後期25.7%(163/635件)と横ばいであり、薬剤師が処方提案する活動度は変わっていないことが分かった。(2)薬剤師の処方提案に対する受諾件数はほぼ横ばいであったが、受諾率は前期61.7%(111/180件)から後期68.7%(112/163件)と上昇している。これは医師との信頼関係が構築され、更には処方最適化(ポリファーマシー対策)の文化が根付き提案が受け入れやすい環境になったことが考えられる。受諾に至らなくても電子カルテに処方に関するコメントが記載されることが多くなった。(3)粉砕回避件数は減少した。これは、老健は長期入所(平均在所日数245日)している利用者がほとんどのため、薬剤師による粉砕不適薬剤の粉砕回避活動が進むにつれて、粉砕を回避すべきケース自体が少なくなっていることが影響していると考える。 (4)服用回数の減少数は減少した。これも粉砕回避件数と同様に、薬剤師が介入すべきケースが少なくなっていることが影響していると考える。
本活動は、十分ではない人員で如何に効率よく処方最適化に介入できるかを検討したことがポイントである。上記の結果も踏まえ、2年経過しても当施設における薬剤師の処方前介入の活動度が下がることはなく、長期に継続できていることがうかがえた。これは、薬剤師、看護師、介護士、医師らと多職種で協働していることが活動を続けられるポイントだと考える。看護師や介護士においては、服薬後に吐き出しがないか、ムセがないかなどもより積極的に観察するようになっている。また、睡眠や排便、疼痛などコントロール具合の情報を積極的に薬剤師に伝えてくれるようになり、処方提案をする際に非常に役立っている。
2024年5月、「高齢者施設の服薬簡素化提言」が日本老年薬学会から発出された。当活動においても一日服用回数は減少しており、利用者の負担や職員の負担が軽減できている。その分、より質の高い介護を提供するための時間となることを期待する。また、服薬回数が多いほど薬が正しく飲めなくなることが報告されており、服薬回数を減らすことで、入所中だけでなく退所後の服薬管理にも好影響を与えているものと考える。
老健はリハビリテーションを行い生活復帰を支援する場であるため、コンスタントに入所と退所は繰り返される。そのため、粉砕不適薬剤が内服直前に服薬支援者によってつぶされているケースや、処方の見直しがなされることなく「漫然と投与されている薬剤」や「潜在的に不適切な薬剤(potentially inappropriate medications:PIMs)」を含む症例が無くなる事は考えにくく、処方最適化のための処方前介入を継続する事の重要性を再認識した。