講演情報
[15-P-C001-05]他職種連携により重度の褥瘡が寛解した1事例
*高畑 知子1、中谷 幸子1 (1. 富山県 老人保健施設みしま野苑一穂)
今回,重度の褥瘡を発症した利用者に対し,多職種で連携し関わった.褥瘡の形状を細かく観察し,発症や悪化につながる介助方法を見直した.また,見直しした介助方法についても,実施状況を確認したり,継続が難しい場合には褥瘡に負担をかけない他の方法に変更した.また,家族に精神的ケアの協力を依頼した.結果,特別な薬剤や福祉用具を導入せずとも,重度の褥瘡が緩解状態まで改善することができ,利用者にも笑顔が戻った.
【はじめに】近年,他職種の連携によるチーム医療で多くの褥瘡が治癒するようになってきたが,重度の場合,治癒しないこともある.今回、重度の褥瘡を発症した利用者に対し,褥瘡の形状から多職種で原因を分析し連携した結果,特別な薬剤や用具を導入せず褥瘡の改善を認めたので,ここに報告する.【事例】90歳代後半,女性.褥瘡発症時、体重38.8kg,Alb 2.7g/dl.60歳台から高血圧,糖尿病,両変形性膝関節症で通院.6年前に脳梗塞左片麻痺発症し,保存的に治療し,当苑にリハビリ目的で入所した.今回の褥瘡発症2か月前に左大腿骨骨折し,保存的に加療していた.【経過】左大腿骨骨折によるギプス除去後標準型車いすを使用していたが,標準型車いす使用1週間後,左座骨部に周囲に発赤を伴う裂傷を発症(発症0日目とした),発症15日目にDESIGN-RではDDTIE6s6I3G5N6p0のラグビーボール型の褥瘡に悪化した.毎日入所スタッフで行っているカンファレンスで褥瘡の形状から原因を探り,移乗介助時のおむつのギャザーのよるずれや摩擦と考え,移乗時の方法をスライディングボード,車いすをティルトリクライニング車いすに変更した.また、ゲーベンクリームに吸収パッドでの処置を1日1回実施した。その後、週1回午前の看護師・介護職・作業療法士・医師での褥瘡チェック,および同日午後に多職種での話し合いを続けたところ徐々に改善し,48日目にはD4e3s3I3G4N3P6となった.50日目ごろに入所棟内で新型コロナウィルス蔓延による居室内のみでの生活になり褥瘡は急に改善し66日目にはD4e3s3I3CG4N3p0となったが,表情は行動範囲狭小化によるストレスで曇っていることが多かった.その後,新型コロナウィルス収束により日中ティルトリクライニング車いすで過ごす時間が増加,同時に褥瘡は急激に悪化し73日目はD4e3s3I3CG4N6P6,発熱も続き,食欲も低下した.スタッフ間で話し合い,移乗時方法や姿勢の再確認を何度も行い,家族にも面会や食事介助による精神的ケアの協力を依頼したところ全身状態や褥瘡サイズの縮小とゆっくり快方に向かったが、ポケットの縮小は滞っていた.107日目に再度スタッフ間で検討し傷の形状からベッドと車いすの高低差のある中でスライディングボードでの移乗が原因と考え,バスタオルで2人介助での移乗に変更した.また、114日目に褥瘡の処置をイソジンシュガーに吸水パッドで1日1回の処置に変更した。その結果,240日目にはD4e3s3i1g1n0p0とほぼ緩解状態まで改善し,笑顔もよくみられるようになった.【考察】褥瘡の発生要因は単純ではなく,複数の要因を多角的にとらえることが必要であり,他職種で、局所・全身・環境をみることが褥瘡ケアには重要としている.今回,局所を褥瘡の大きさや感染状態だけではなく,褥瘡の形やポケットの位置・形,全身をバイタイルサインや栄養状態のみならず精神状態も含め,環境をベッドや福祉用具だけでなくスタッフの能力差も日常の介助状況ととらえ,多角的に何度も多職種で継続的に計画的に検討した.結果,途中褥瘡のみならず全身状態も悪化することもあったが,特別な薬剤や福祉用具を導入せずとも,重度であった褥瘡を改善することができた.また,多職種のみならず家族の協力も得られ,「本人らしい」関わりを継続したことで褥瘡の改善と並行し事例の笑顔も引き出すことができたと考えられる.