講演情報

[15-P-J001-01]食欲不振高齢者に対する希望を取り入れた食事支援~食欲回復食の取り組み~

*橋爪  真由子1、高橋 広美1、濱口 亜倫沙1、権頭 佳奈1 (1. 熊本県 介護老人保健施設ケアセンター赤とんぼ)
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高齢者の食欲不振の原因は、疾患、薬剤、うつ、加齢に伴うものなどさまざまである。当施設ではこれまで、食欲不振の原因を探り、個々に合わせた食支援を多職種連携で行ってきた。しかしながら、近年の新型コロナウイルス感染をきっかけに食欲低下の入所者が増加し、これまでの食事支援では改善が難しいケースが増えてきた。今回「食欲回復食」を導入し、利用者の食事摂取量に改善が見られたので報告する。
【施設紹介】
当施設は、熊本県熊本市東区に位置し、入所定員100名、通所定員130名の介護老人保健施設である。入所利用者の平均年齢は88.08歳、平均介護度3.1であり、同敷地に腎臓内科(人工透析・慢性腎臓病) / 内科(生活習慣病・糖尿病)を併設し、入所者の3割が人工透析治療を行っている。当施設は医療と福祉の融合施設として地域に根差したケアを目指している。
【はじめに】
食欲不振とは、一般的には食欲が平常時に比べて低下した状態を示す。本発表では、栄養要求量を満たす摂取量を確保できない場合も食欲不振に含める。食欲不振の原因は、悪液質(カヘキシア)、加齢、ストレス、うつ、生活リズム(活動量不足、睡眠量不足)、発熱、便秘、味付け、嗜好、食事内容、食形態、味覚の低下、咀嚼嚥下能力の低下、義歯の不具合、薬剤性(鎮痛剤、強心剤、抗がん剤、向精神薬、抗菌薬などの副作用)など多岐にわたる。
当施設の食事提供の流れは、入所前に家族や関係医療機関から食事情報を収集し、以前の食事となるべく変わらないものを提供するように心がけている。入所当日、多職種(医師、看護師、介護士、ケアマネージャー、管理栄養士、リハビリ、歯科等)でモニタリングし本人の身体状況合わせた食事内容を確認。毎週1回、多職種カンファレンスにて経過を共有し、栄養マネジメントしている。
【目的】
当施設ではこれまで、食欲不振の方に対し主食や食形態の変更、ハーフ食、分割食対応、経口的栄養補助(以下ONS)付加、家族への持ち込み依頼などで対応してきた。そんな中、当施設においても2022年頃から新型コロナウイルス感染者が発生し、罹患中は発熱や倦怠感から食事量が低下し、完治した後も食欲が回復しない症例が多くみられた。その際、どんな食事なら摂取可能かを確認し、食欲回復食を新しくメニューとして取り入れた。
当施設の食欲回復食は 
1.味がはっきりしている 2.高齢者が好むメニュー 3.ONSの付加 4.嗜好を取り入れた食事が選択可能 などの特徴がある。
【方法】
時期:2023年5月~2024年5月 
対象者:入所・通所利用者 低栄養状態の評価基準 中・高リスク者のうち、摂取量3割未満の方 
方法:5種類の食欲回復食から選択。
1)おかゆセット 2)パン食セット 3)温麺セット 4)冷麺セット 5)カレーライスセット
食事摂取量、体重変化、栄養状態等観察する。
食事オーダーシステムは、「介護業務支援ソフトほのぼのNEXT」を活用した。
【結果】
食欲回復食を導入し、13か月で200食近くのニーズがあった。5つのメニューの中で温麺、カレーライスが人気であり、のど越しの良いものやしっかりした味付けのものを好まれる傾向がみられた。ONSのメイバランスアイス(たんぱく質、カルシウム、ビタミン、鉄、亜鉛添加)は好評で、他のものは口にしない利用者もアイスから手を伸ばされ、食事摂取のきっかけとなった。冷たくて甘い、口どけの良いものは食事摂取量の低下した利用者の嗜好に合っていたと考えられる。新型コロナウイルス感染やその他の原因により、一時的に食事摂取量が低下した利用者に、食べたいものを選択できる食欲回復食を提供し、摂取量が改善したケースが多数みられた。今回の取り組みを通して、食欲低下時は食べられるものが限られ、高齢者は特に体重減少や低栄養に繋がるリスクが高いため、できるだけ早期の介入が重要であり、その原因を分析し、個々に合った対策をとることが大切であると再認識した。
【結論】
介護老人保健施設において高齢者の食欲不振への対応としての食欲回復食は効果的であった。食欲回復食をきっかけに、食べる意欲を引き出し、QOL向上から活動意欲につなげることができた。
また、食欲回復食のオーダーシステムには、既存の介護支援ソフトを活用したため、スムーズであり介護士や看護師の負担軽減につながった。
【今後の課題】
嗜好を取り入れた食事は、栄養価が不十分な傾向がある。そのため、必要栄養量を補う食材や補食の選定のほか、少量高エネルギー食などの新しいメニュー開発も今後検討する。
嚥下機能により提供できない方もいるため、形態別の食欲回復食の在り方を検討する。
認知症の方の中には、選択することが難しいケースもある。利用者の好みの味付けや料理名の調査など家族の協力が必要である。
また、2024年8月以降、当施設の食事提供方法が、従来のクックサーブからニュークックチルシステムに変更した。新システムでの食欲回復食の在り方を模索中である。