講演情報

[27-O-A002-03]ノーリフティングケア定着へ向けての組織づくり~抱え上げ介助ゼロを目指して~

新潟県 金子 純也 (介護老人保健施設てらどまり)
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【はじめに】
 当施設では2009年頃より抱え上げ介助による「利用者の重度化対策と職員の腰痛予防」として、電動ベッドやスライディングボード等の福祉用具を導入し、棟内で勉強会を実施した。しかし、福祉用具の台数・種類は少なく、使用に対するルールも無かったため、一部の利用者に留まった。そのため「利用者の重度化対策と職員の腰痛予防」への効果は乏しかった。
 2018年に新潟県老健協会主催の「ノーリフティングケアマネジメント研修」に参加した。そこで「組織体制、目的の明確化と共有、教育の体制整備、腰痛健康管理の体制整備」について学んだ。同年にノーリフトケア推進委員会を設立させた。委員会を発足させてから7年間(2018~2024年)の取り組みと、「職員の腰痛予防」と「利用者の重度化予防」に改善がみられたため、その成果について報告する。
【取り組み】
1.事業計画に明文化
 事業計画に「ノーリフティングケアの知識・技術を習得し実践する」と明記された。これにより施設が認めた委員会組織となり、施設全体・職員全員で取り組む土台をつくった。
2.組織図の作成と実践
 委員会を機能させるため「腰痛調査・リスク把握、職員教育、個別アセスメント、福祉用具の導入・管理」の4つの担当を明確にし、組織図に組み込んだ。組織で実践したことを次に報告する。
1)腰痛調査・リスク把握
 「ノーリフトケアマネジメントマニュアル 組織における職員の腰痛予防対策(一般社団法人ナチュラルハートナチュラルフルケアネットワーク編集)」に記載されている簡易腰痛調査、リスク把握を基にアンケートを実施した。全職員に腰痛調査を実施することで、腰痛保持率を確認した。また腰痛リスクの芽を洗い出すために、身体的につらいと思う介助、業務場面について自由記載として回答を得た。
2)職員教育
 ノーリフティングケアを行う目的として「ご利用者・職員双方にとって、安全で快適なケアが行われ健康的な生活が送れている」と定め、全職員へ理解と共有を図った。またノーリフトケアのテキストを基に施設独自の「正しい身体の使い方」と「リフト等の福祉用具の手順書」を作成した。委員が全職員へ伝達・技術チェックを行い、合格した者から使用できるようにルール化した。2020年以降は毎年5月頃に新規採用職員研修として、ノーリフティングケア研修を実施している。
3)個別アセスメント・プランニング
 プランナーにより移乗や排泄ケアのアセスメント方法が異なると、介護事故の原因となる。ケア決定の標準化ができるように、移乗と排泄、入浴介助のフローチャートを作成した。また移乗後の利用者の姿勢を安定させるため、車いすの選定についてはHofferの座位能力分類を使用して「モジュール車いす、チルト式リクライニング車いす」のどれを使用するか決定した。
4)福祉用具の導入・管理
 1)で行ったアンケートを基に、リスクが高く、負担と感じている介助・業務に対して、作業環境を見直し、福祉用具を導入した。「電動ベッド、床走行式リフト、スリングシート、スタンディングリフト、スライディングボード、車いす等」の福祉用具の台帳をExcelで管理した。台帳では「どこに、何が、いくつあるか」、また「購入年月日等」を把握できるようにした。
 3)のフローチャートや評価指標を基に全利用者をアセスメントし、福祉用具の導入計画を立てた。不足している物品について予算を申請し、徐々に整備を行った。また台帳にて、故障や点検の頻度を把握できるようにした。
【成果】
 〈福祉用具数2018年⇒2024年〉電動ベッド:40⇒100台、床走行式リフト:1⇒5台、移乗用リフトのスリングシート:2⇒43枚、スタンディングリフト:0⇒3台、入浴用リフト:0⇒3台(各1台:天井、門型、床走行式)、スライディングボード:19⇒25枚、モジュール車いす:48⇒72台、チルト式リクライニング車いす:20⇒37台
〈職員の技術〉2022年までに介護・リハビリ職員がリフト技術を習得した。異動職員は異動後1か月以内、新人職員は入職4か月以内を目安にリフト技術を習得している。
〈職員の腰痛保持率〉職員の腰痛保持率は69%(2018年)⇒43%(2023年)へ改善した。また新規採用職員研修を実施して以降、入職1~4年目の職員の腰痛保持率は5人中0人であり0%であった。
〈利用者への効果〉
・リフトを使用して移乗し、利用者に合った車いすを使用する等の24時間の姿勢管理をすることで、関節拘縮が改善した事例がみられた。
・スタンディングリフトを使用することで、本来ならばベッド上オムツ交換となる利用者に対して、トイレ排泄を継続することができた。廃用症候群で立位が困難だった利用者は、再びトイレ動作を自立~一部介助で可能になった事例がみられた。
【考察】
 委員会として組織でノーリフティングケアを取り組めた事が、成果につながった最大の要因と思われる。特に「腰痛調査・リスク把握、職員教育、個別アセスメント、福祉用具の導入・管理」の4つの役割を明確にしたことで、福祉用具が整備され、職員の技術チェックや新人研修の日程が仕組み化でき、施設の人的・物的環境の質が向上したと考える。
 またケアに関して、例えば1人の職員のみがノーリフティングケアを実施しても、その他大勢の職員が抱え上げ介助を行えば、利用者は痛みや不快感を回避するため、筋肉をこわばらせて、関節拘縮などの二次障害・重度化を助長させてしまう。当施設では、以前より抱え上げ介助の頻度が減少したことで、利用者の重度化予防や自立支援につながったと思われる。
 しかし、まだ浴室によっては抱え上げ介助をせざる得ない場面が残存し、また人員不足による勤務内の教育時間の確保が難しくなる等の課題も残っている。今後も組織で継続的に取り組み、課題を解決して24時間365日ノーリフティングケアを提供、抱え上げ介助ゼロを目指していきたい。