講演情報

[27-O-A002-06]未来ある在宅復帰を目指して

山口県 釘宮 志乃, 松本 寿美子 (介護老人保健施設なんわ荘)
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【はじめに】
老健において在宅復帰は重要な機能のひとつである。多くの利用者は自宅に帰りたいと望んでいるが、現実には困難な事例も多い。当施設の認知症専門棟においても自宅へ帰られる人が少ない中、「自宅で夫と過ごしたい」という本人の希望に沿って支援を行い在宅復帰を目指した取り組みを報告する。
【対象者】
A氏(女性)75歳 要介護4  HDS-R=13/30点 
気難しい性格。失語症があり言葉が出にくい。
病名)脳梗塞後遺症、認知症(診断なし)、高血圧症、脂質異常症
【入所経緯】
夫と二人暮らし。自宅で転倒し、体動困難なため入院。骨折はなかったが独居困難なため当施設へ入所となる。
本人)家に帰りたい。夫と暮らしたい。
家族)父は入院中なので母が一人暮らしをするのは難しいと思う。リハビリで少しでも動けるようになると良いが、今後のことは父の状態も含めて考えていきたい。
【入所時の様子】
自宅ではベッドから降りていざって移動していたため、怪我を防止するために超低床ベッドを使用し、ベッドサイドにはマットを平行に敷いて段差をなくし居室の環境を整えた。
移動は車椅子介助。排泄は尿意・便意ありリハビリパンツとパッド使用し希望時や定時のトイレ誘導を行い夜間はオムツで対応していた。
活動参加は拒否的で、体操やレク活動へは声掛けするも首を横に振り、見ているだけであった。
パズルや軽作業を提供しても払いのけられた。
【A氏本人の希望を叶える(家に帰りたい)ための取り組み】
(1)まず、活動への参加ができるようになるための取り組みスタッフとのコミュニケーションが図れるように、塗り絵の提供に対して「この部分はどの色で塗ってみますか?この部分はこの色がいいと思う」など、会話をしながら進めてみることで、自分で色を選んで塗ることが出来るようになった。
パズルは数が少ないピースの大きいパズルを提供してみるが、難しく途中で諦められるので、完成したパズルのピースを何枚か抜き取り提供し一緒に完成させると、完成したことにうれしかったのか、笑顔が見られた。
また、リハビリが進むにつれ、本人のモチベーションも上がり表情も明るくなりスタッフとの何気ない会話もでき、レク活動にも参加できるようになった。                       
(2)自立歩行ができるようになるための取り組み(リハビリ)                                                 
下肢筋力の強化と立位バランスの強化・移動・移乗動作訓練のリハビリを実施することで、一ヶ月後には歩行が出来るようになり立位バランスも向上したため、施設内はシルバーカー歩行介助ができるまでになった。
(3)排泄動作の改善を目指した取り組み
日中は希望時や定時のトイレ誘導をすることでパッドの汚染が少なくなった。
夜間はオムツ内での排便があったが、排便コントロールで日中に排便できるようになった。
覚醒時にはトイレ誘導を行うことで汚染することはほとんどなくなった。
【A氏の改善成果に対して家族の意識の変化】
本人のADLは明らかに改善しており家に帰りたいという希望も変わっていないが、家族の受け入れ意識が課題となってくるため、実際のA氏の動きを見学してもらうことを計画した。
そのために、夜間もオムツからリハビリパンツに変更し、怪我防止用マットも撤去し薄いジョイントマットを設置し、シルバーカーを使用しやすいように進行方向に向けて設置するようにした。セラピストからのシルバーカー歩行時の注意点として右に傾きがありシルバーカーの操作が難しいためA氏の右側に付き身体を支えながら歩行援助を行う様ように助言があった。その結果、自力でシルバーカーの操作が出来るようになり、身体を支えなくてもシルバーカー歩行が出来るようになった。排泄動作は手すりにつかまり、片方の手でズボンやリハビリパンツを上げ下げが出来るように動作の一つ一つに声掛けを行った。その支援をスタッフが統一して行うことで移動と排泄が自分で出来るようになった。ご家族の面会時にシルバーカーで談話室へ移動し、スタッフからご家族へ説明しながらリハビリを見学してもらった結果、ご家族からはこの状態なら連れて帰ることが出来るかもしれないという前向きな意見が見られた。
「考察・まとめ」
A氏は入所当時より自身の気に入らないことがあれば、拒否をする自己中心的な行動がみられることがあったため、スタッフからは気難しい性格で関わりにくいという先入観があったと思う。しかし、拒否でも相手に意思を伝えることができるということに着目し、A氏の家に帰りたいという意思に寄り添うことでA氏と信頼関係を構築できたことが良い結果に繋がったと思う。ケアの統一は重要と知りながらも当施設の課題でもあり、今回のように本人とスタッフで同じ目標をもつことで、改めてケアの統一の重要性を理解することになった。
実際には自立しても家族の意向が重視され家には帰れないケースは多く、スタッフのモチベーションを下げることもある。
結果的には夫側の事情もあり協議し、夫婦で一緒の施設に入ることになった。希望した自宅ではなかったが、A氏の未来に繋がる結果になったと思う。本人、家族ともに満足した結果になったことがすべてだと思う。今回の取組みを活かし継続することが今後の課題である。