講演情報

[27-O-A003-01]「癒し」を超えたセラピー犬の存在

岡山県 松井 美佳 (介護老人保健施設おとなの学校岡山校)
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【始めに】
当施設では2017年から施設飼育型のドッグセラピーを導入し、2023年からはセラピー犬を介したリハビリプログラムを本格的に展開している。ドッグセラピストは、セラピー犬の育成や飼育管理、ご利用者とのふれあいやリハビリ介入を実施し、日々の介護業務にも携わっている。ドッグセラピストとして入職し7年目、副主任を任され3年目となり、副主任としての視点を持つことで、ドッグセラピーの活動は「癒し」の効果を超えて施設運営にも大きな効果をもたらしていることが明らかになった。
1.リハビリ効果と意欲の向上、サービス内容の向上
ドッグセラピストは介護業務も行っており、日常的にご利用者と関わることで、日々の様子を把握し、多職種と密な連携を図ることができている。ご利用者の体調や心情の変化にもいち早く気づき、それに応じて柔軟な対応や支援が可能であり、情報共有をしながらご利用者に合った関わりや、より深いドッグセラピーを実施することができている。中でもセラピー犬のリハビリ介入はご利用者へ大きな効果を発揮していると実感している。歩行や姿勢維持、可動域向上のリハビリに介入することで、普段のリハビリの内容とは異なる応用の動きの練習に繋がる。そして、セラピー犬と共に出来るようになる達成感とその過程を共有でき、リハビリを頑張る意欲、新しいことに挑戦する意欲向上にも繋がる。また、セラピー犬がいることで、他のご利用者が自然と集まり、リハビリに取り組むご利用者を応援し、楽しい時間を共有するコミュニケーションのきっかにもなっている。これらの活動は、ご利用者間の人間関係の構築といった社会的効果や、利用者の自律の支援、在宅復帰の助力、そしてサービス全体の質の向上にも繋がっている。
2.施設の魅力強化
副主任という立場になり、外部との関わりや、相談業務を行う中で、ドッグセラピーの活動の充実は、新規ご利用者の獲得や、継続した利用に繋がっていることが明確となった。「犬がいるからここの施設を選んだ」という声をご家族より頂くようになり、新規入所されたご利用者がセラピー犬との深い関わりにより、退所後も「犬に会いたい」「ここのデイケアに通いたい」と希望し、入所・デイケア共に、継続的に当施設のサービスを利用して頂けるケースも増えてきている。ご家族やご利用者に「選ばれる」、ご利用者への「安心感」や「楽しみ」そして「目標」を持って利用して頂けることに繋がっている。そして、現在はホームページやSNSでの広報活動を通じて外部からの訪問セラピー活動の依頼も増えてきている。施設内の活動で得た経験を活かし、地域での活動へと広げていくことを目標に準備を進めている。
3.ターミナルケアのご利用者が最期まで安心して過ごせる環境作り
医師や看護師の了承の下、ターミナルケアのご利用者へベットサイドでのドッグセラピーも実施している。セラピー犬と居室へ伺うと、他スタッフの声掛けに反応されなかったご利用者に変化が見られた。「犬を連れてきました」とお声掛けすると開眼され、セラピー犬に視線を向ける、目を合わせる、ベットサイドで寄り添うセラピー犬を撫でる様子が見られた。ご家族からは、「ええ顔をしとる」「この子(セラピー犬)が大好きだったから」「お家にもたくさんの写真を飾って毎日見ていた」などのお言葉をいただいた。セラピー犬がそっと寄り添い、穏やかな時間を共有することで、ご利用者の感情に働きかけ、傍で感じるぬくもりが安心感へと繋がり、あたたかいターミナルケアを支える重要な存在となっている。
4.セラピー犬の看取りから見えたご利用者との関係性の変化
当施設ではセラピー犬は終生飼育を行っている。セラピー犬も限りある命の中でご利用者と大切な時間を過ごし、双方にとって大切な家族のような存在となっていく。そして歳を重ねていく中で、ご利用者に「寄り添う側」であったセラピー犬が、ご利用者から「寄り添われる側」へと関係性が変化していく。「ご飯食べて、元気にならないけんで」「みんなも元気にしよるけんな、元気になれよ」と、ご利用者がセラピー犬を励まし応援する様子が増え、共に支え合い、お互いの命を尊重し合う温かな繋がりが生まれる。セラピー犬にとっても最期まで慣れ親しんだ場所で、ご利用者と関わりを持ち続けられることで尊厳ある老いを迎えられたのではないかと考える。そして、セラピー犬の老いは私達スタッフにとっても特別な意味をもつ。共に過ごしてきた「仲間」としての存在をどのように支え、どのように看取るのか、ここには福祉の現場における命の尊厳や、その人らしく最期を迎えることに通ずるものもあるのではないかと考える。ご利用者にとってもセラピー犬との別れには悲しい気持ちもあるが、それは深く良い関係が築けたことの証明にもなっている。
【終わりに】
ドッグセラピーの活動は「犬の持つ力」だけではなく、施設の多職種が連携し、それぞれの専門性を活かしながらご利用者と関わることで、最大の効果を発揮し活動することが出来ている。副主任となり、ドッグセラピーの活動が単体の活動ではなく、施設のサービス内容の質や、魅力を高める役割へと変化していることが明確となった。セラピー犬との毎日の深い関わりや、ターミナルケア、リハビリ介入を取り入れたチームケアが実践出来ることは、当施設の強みであり、大きな魅力である。今後も、現場と運営の視点を両立しながら、セラピー犬の存在が癒しを超えてご利用者の生活を支える日常のケアとしての価値を高め、多職種と連携しながらより良いチームケアを実践していきたい。