講演情報
[27-O-A004-04]笑顔を取り戻した老健の力
和歌山県 ○森田 有飛, 谷本 司 (老人保健施設和佐の里)
【はじめに】
脳卒中の後遺症としての抑うつ状態は、回復期に一過性に起きるもの、脳梗塞によって誘発されたもの、身体機能障害に対する落胆から生じるものの3つに大別される。周囲への関心の低さや意欲低下、活動性が乏しく態度が消極的などの特徴があり、周囲からの肯定的サポートをすることが重要になってくると言われている。今回、脳梗塞発症後再入所となった利用者から消えていた笑顔を多職種で取り戻せたため報告する。
【目的】
多職種連携し個別性を重視したアプローチに尽力し、利用者の自己効力感の回復とQOLを向上させ利用者の笑顔を取り戻す。
【症例】
A氏は89歳女性。要介護4、障害者自立度B2、認知症自立度3b。令和6年9月に脳梗塞を発症し自施設を退所される。利き腕である右の片麻痺と構音障害の後遺症が残り自施設に再入所となった。再入所時は嘔気や食欲不振を訴え、抗うつ薬であるパキシルを服用中であった。悲観的な発言が多く、意欲低下があり表情が乏しく笑顔がまったく見られなかった。
【方法】
A氏を担当する音楽療法士、園芸療法士、言語聴覚士、理学療法士、歯科衛生士、介護福祉士、看護師が集まり、A氏の現状の共有と笑顔を取り戻すアプローチをまず検討した。音楽療法士は、A氏が以前好まれていた歌唱活動に着目し、週1回の音楽療法を実施した。園芸療法士は生花のアレンジメントや脱穀・もみすりといったA氏の趣味であった土いじりに結びつく作業を週2回実施した。言語聴覚士と看護師が意見を出し合い、「超きざみ・とろみ付き」から「一口大・とろみ付き」へ段階的に形態を変更し食欲低下に取り組んだ。また、看護師はVAS(気分評価尺度)、老年期うつ病評価尺度(GDS) を用いて定期的に心理状態を把握することとし、多職種での共有と内服薬の検討を医師に依頼した。介護福祉士は、朝の整容時にA氏が好む化粧道具を用い、自身で化粧をするサポートをした。歯科衛生士は、義歯洗浄が自身でできるよう口腔ケア物品の置き場所を変更した。理学療法士は、麻痺側に使用している三角巾をA氏が好む柄を取り入れリハビリ時に交換した。多職種で定期的に集まり、A氏の状況をタイムリーに共有するように努めた。
【結果】
再入所時、A氏はVASスコア8.1点、GDS7点とうつ症状の存在が明確であった。しかし、多職種連携の関わりにより再入所後2ヶ月以降はVASスコア0~2点と安定し、GDSについても明確な数値は確認できないものの、表情や言動からうつ症状の改善が見られた。抗うつ薬も再入所後2ヶ月後中止し、離脱症状も見られなかった。音楽療法では、開始時は傾聴していたが次第に歌を口ずさむようになった。回を重ねるにつれ「歌詞カードもらっていいですか」「昔はよく家で歌っていたの」という発言がみられるようになった。園芸療法では、促しに応じる取り組みから、「これ、昔よくやったわ」と笑顔で取り組まれる姿に変化した。さらに、自ら次の工程を確認するなど積極的な姿がみられるようになった。「またやりたい」という意欲も示され回を重ねるごとに表情が豊かになっていった。食事面では嘔気の訴えは1ヶ月後頃からなくなり食事量が徐々に増加し最終的には全量摂取するようになった。整容時は、促しに無表情で応じる姿から、「綺麗になったわ」と鏡に映る自分に微笑むようになった。口腔ケア時は、身振りでの支援が必要であったが最小限の声かけで実施できるようになった。デイルームで過ごす時間も増え、職員に手を振り話しかける姿を見かけるようになった。
【考察】
「その人らしさ」に着目し、回想法を中心とした個別的な関わりが、心理的ストレスの軽減と自己効力感の回復に大きく寄与したと考える。音楽療法や園芸療法を通じて、A氏が過去に大切にしていた体験を現在に繋げることで、情緒の安定や活動への意欲が高まり、自発的な言動が増加した。回想法は自己の価値を再認識する機会となり、自己効力感の回復につながった。特に、VASやGDSを用い定期的に数字でA氏の状況を可視化し共有したことは、多職種共通の認識ができ効果的なかかわりにつながった。さらに、A氏の笑顔を取り戻したいという職員の強い思いが多職種の連携を強め、老健の特色を最大限に活かしたケアを実施できた。
【結語】
私たちの日々のケアは、「専門職がケアする」という一方的なものではなく、「ともに生活をつくる」というものが根底にある。今後も利用者一人一人の「心」と「生活」に寄り添い、老健の最大の特色である多職種連携をさらに強化し利用者の笑顔を引き出していきたい。
脳卒中の後遺症としての抑うつ状態は、回復期に一過性に起きるもの、脳梗塞によって誘発されたもの、身体機能障害に対する落胆から生じるものの3つに大別される。周囲への関心の低さや意欲低下、活動性が乏しく態度が消極的などの特徴があり、周囲からの肯定的サポートをすることが重要になってくると言われている。今回、脳梗塞発症後再入所となった利用者から消えていた笑顔を多職種で取り戻せたため報告する。
【目的】
多職種連携し個別性を重視したアプローチに尽力し、利用者の自己効力感の回復とQOLを向上させ利用者の笑顔を取り戻す。
【症例】
A氏は89歳女性。要介護4、障害者自立度B2、認知症自立度3b。令和6年9月に脳梗塞を発症し自施設を退所される。利き腕である右の片麻痺と構音障害の後遺症が残り自施設に再入所となった。再入所時は嘔気や食欲不振を訴え、抗うつ薬であるパキシルを服用中であった。悲観的な発言が多く、意欲低下があり表情が乏しく笑顔がまったく見られなかった。
【方法】
A氏を担当する音楽療法士、園芸療法士、言語聴覚士、理学療法士、歯科衛生士、介護福祉士、看護師が集まり、A氏の現状の共有と笑顔を取り戻すアプローチをまず検討した。音楽療法士は、A氏が以前好まれていた歌唱活動に着目し、週1回の音楽療法を実施した。園芸療法士は生花のアレンジメントや脱穀・もみすりといったA氏の趣味であった土いじりに結びつく作業を週2回実施した。言語聴覚士と看護師が意見を出し合い、「超きざみ・とろみ付き」から「一口大・とろみ付き」へ段階的に形態を変更し食欲低下に取り組んだ。また、看護師はVAS(気分評価尺度)、老年期うつ病評価尺度(GDS) を用いて定期的に心理状態を把握することとし、多職種での共有と内服薬の検討を医師に依頼した。介護福祉士は、朝の整容時にA氏が好む化粧道具を用い、自身で化粧をするサポートをした。歯科衛生士は、義歯洗浄が自身でできるよう口腔ケア物品の置き場所を変更した。理学療法士は、麻痺側に使用している三角巾をA氏が好む柄を取り入れリハビリ時に交換した。多職種で定期的に集まり、A氏の状況をタイムリーに共有するように努めた。
【結果】
再入所時、A氏はVASスコア8.1点、GDS7点とうつ症状の存在が明確であった。しかし、多職種連携の関わりにより再入所後2ヶ月以降はVASスコア0~2点と安定し、GDSについても明確な数値は確認できないものの、表情や言動からうつ症状の改善が見られた。抗うつ薬も再入所後2ヶ月後中止し、離脱症状も見られなかった。音楽療法では、開始時は傾聴していたが次第に歌を口ずさむようになった。回を重ねるにつれ「歌詞カードもらっていいですか」「昔はよく家で歌っていたの」という発言がみられるようになった。園芸療法では、促しに応じる取り組みから、「これ、昔よくやったわ」と笑顔で取り組まれる姿に変化した。さらに、自ら次の工程を確認するなど積極的な姿がみられるようになった。「またやりたい」という意欲も示され回を重ねるごとに表情が豊かになっていった。食事面では嘔気の訴えは1ヶ月後頃からなくなり食事量が徐々に増加し最終的には全量摂取するようになった。整容時は、促しに無表情で応じる姿から、「綺麗になったわ」と鏡に映る自分に微笑むようになった。口腔ケア時は、身振りでの支援が必要であったが最小限の声かけで実施できるようになった。デイルームで過ごす時間も増え、職員に手を振り話しかける姿を見かけるようになった。
【考察】
「その人らしさ」に着目し、回想法を中心とした個別的な関わりが、心理的ストレスの軽減と自己効力感の回復に大きく寄与したと考える。音楽療法や園芸療法を通じて、A氏が過去に大切にしていた体験を現在に繋げることで、情緒の安定や活動への意欲が高まり、自発的な言動が増加した。回想法は自己の価値を再認識する機会となり、自己効力感の回復につながった。特に、VASやGDSを用い定期的に数字でA氏の状況を可視化し共有したことは、多職種共通の認識ができ効果的なかかわりにつながった。さらに、A氏の笑顔を取り戻したいという職員の強い思いが多職種の連携を強め、老健の特色を最大限に活かしたケアを実施できた。
【結語】
私たちの日々のケアは、「専門職がケアする」という一方的なものではなく、「ともに生活をつくる」というものが根底にある。今後も利用者一人一人の「心」と「生活」に寄り添い、老健の最大の特色である多職種連携をさらに強化し利用者の笑顔を引き出していきたい。
