講演情報

[27-O-A004-07]多職種や他機関との連携により在宅復帰となった症例

島根県 岩崎 春菜, 冨田 香織, 山尾 昭子, 吉村 はるか, 竹内 匡史 (介護老人保健施設コスモス苑)
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はじめに「今の状態で家に帰って来てもらっても困ります」。初回面談時に妻から発せられたこの一言が、本症例の支援の出発点であった。対象は60代男性。本人は在宅復帰を強く希望しており、職員一同もそれを叶えたいとの思いから、入所早期より多職種で連携し、他機関とも協力しながら支援を展開した。当苑は病院との中間施設としてリハビリ目的での利用が多く、令和6年度は病院からの入所が約40%を占めている。本症例は、右前十字靭帯(以下:ACL)断裂により入院し保存的治療を受けた男性が、当苑を経由して関係機関との連携によって在宅復帰に至った経過を報告する。症例紹介A様:60代男性、要介護3、妻(key person)と二人暮らし。入所期間:令和7年4月23日~7月7日。日常生活自立度:A2。主疾患:右ACL断裂(保存的治療)既往歴:左視床出血後遺症(右片麻痺)令和3年に左視床出血を発症。保存加療にて退院後、右不全麻痺と構音障害、嚥下障害が残存しつつも、自立した動作が可能となり、介護サービスを活用しながら在宅生活を送っていた。令和7年2月、右下肢脱力と膝折れを生じ、Y病院で右ACL断裂と診断。全身状態や病歴から手術適応外とされ、装具装着による保存的治療となった。退院許可が下り、4月に退院前の在宅訪問を実施したが、動作の不安定性と日中独居となる生活背景より、リハビリ目的で当苑へ入所することとなった。入所時ADLは構音障害(会話明瞭度尺度2)により発語に聞き取りにくさはあるが、文レベルでの会話は可能。右不全麻痺(Burunnstrom stage上肢4、手指4、下肢4)により短下肢装具着用、またACL断裂に対しては膝装具を併用。いずれの装具も着脱は自力で可能。ポータブルトイレでの排泄は自立しているが、苑内の移動は車椅子全介助。サイドケインを利用して約20m歩行可能も、右下肢接地時に動揺あり、転倒予防の為、常時見守りが必要。食事は左手にて箸を使用し自力摂取可能。嚥下機能低下(摂食状況のレベルLv.8)しており、ムセが見られる場面があった為、水分にはトロミ剤を使用していた。意向A様:「もう少ししっかり歩けるようになりたい。早く家に帰りたい。」妻:「台所やトイレまで自分で歩き、日中はトロミ茶を自分で作って飲んでほしい。身の回りのことは自分で行い、家でも自主訓練を続けてほしい。」支援内容1.生活リハビリの導入:短期間での在宅復帰を見据え、リハビリ時間外でも個別の支援として歩行の機会を確保。また、自主訓練として嚥下・構音訓練や上肢機能訓練を指導。2.経口維持会議:誤嚥予防の為、食事に集中出来るよう食事席の変更。また、施設でもA様自身がお茶のトロミ剤を調整出来るよう支援。3.内服管理:看護師が1週間ごとにセットした薬の自己管理。4.入所後の在宅訪問:A様と担当ケアマネジャー同行で在宅環境を確認。福祉用具導入箇所や在宅サービスを確認。5.福祉用具の調整:在宅で使用予定の杖を複数、福祉用具業者から用意し、A様に合わせて選定。6.退所前の在宅訪問:ベッド位置の変更、動線の見直し、ポータブルトイレの導入を妻に依頼。7.試験外泊の実施:福祉用具搬入後、一泊二日の外泊にて実地確認を行う。8.退所後の自主訓練メニュー作成:自主訓練として行っていた嚥下・構音訓練や上肢機能訓練、セラバンド体操などを在宅用として作成し指導。9.退所後の在宅訪問:最終的なベッドや手すり配置、ポータブルトイレ設置等を確認し、段差昇降の順序などを指導。まとめY病院では退院可能と判断されたものの、A様及び妻の強いリハビリ希望により当苑に入所となった症例であった。入所当初、妻は「今の状態で帰って来てもらっては困る」と強く懸念を示していた。日中就労しているため、A様が自立して生活できることが在宅復帰の条件であった。ACL断裂前は、冷蔵庫から弁当を出して食べる、トロミ剤を使用したお茶を作る、排泄もトイレで行う等の生活が可能であった。妻も同様の水準までの回復は困難であると考えていたが、A様の意欲や復帰への強い希望を尊重しながらも努力してほしいとの思いだった。中でも居室ベッドの配置変更は大きな転機であり、当初、妻は変更に否定的であったが、A様の前向きな姿勢と、福祉用具業者の助言を受けて徐々に理解を得ることができた。試験外泊では福祉用具業者の協力によりベッド、手すり、杖などを搬入し、転倒もなく過ごすことができた。A様からは「問題なかった。ベッドの向きが変わってトイレまでが近くなってよかった。」、妻からは「ベッドはこの向きで良かったようです。」と感想を得られた。その後の担当者会議にて当苑での支援内容や居室の環境変更、外泊での様子を共有し、在宅復帰が実現。現在、介護サービスとして通所リハビリ、ショートステイ、訪問リハビリを利用しながら転倒や誤嚥なく在宅で生活されており、冬季の体調管理とリハビリを目的とした再入所の希望も聞かれている。おわりに本症例を通じ、在宅復帰に向けて本人の意思や努力に加え、家族、多職種、他機関の連携が不可欠である事を再確認できた。今後も、本人と家族の思いに寄り添いながら、多職種協働による包括的な支援体制の構築を継続していきたい。