講演情報
[27-O-C001-05]終末期透析利用者の栄養・離床介入に関する症例検討
神奈川県 ○工藤 晃太1, 矢部 広樹2, 筒井 麻理子1, 黒木 あずさ1 (1.介護老人保健施設ハートフル瀬谷, 2.聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部理学療法学科)
【はじめに】
高齢血液透析患者で介護老人保健施設に入所中の利用者(以下、高齢HD利用者)のうち、全身状態不良な症例は、ターミナルケアが必要となる場合がある。高齢HD利用者における、食事・水分管理や塩分制限、持ち込み食の禁止等の食事制限は、ターミナルケア移行期に緩和し、嗜好品を楽しんで頂く必要があると考えられる。また、ターミナルケアの高齢HD利用者の生活は、離床に対する苦痛から透析と長時間の臥床を繰り返す状況に陥りやすく、過度な安静確保と長期臥床はQOL悪化のリスクを伴う。しかしながら、高齢HD利用者におけるターミナルケアの生活支援について、栄養介入や離床介入のエビデンスは十分に蓄積されていない。
【目的】
食事摂取不良と離床拒否を主訴としたターミナルケア期の高齢HD利用者に対し、栄養介入と離床支援を統合した多職種連携による終末期リハビリテーション介入が、高齢HD利用者のQOL維持に果たす包括的意義を検証する。
【対象】
対象は80歳代男性の高齢HD利用者。既往歴はうっ血性心不全、糖尿病、高血圧、狭心症、腎性貧血、高尿酸血症。急性心不全による長期の入院後、X日に介護老人保健施設へ入所。入所時のFIMは50点で基本動作に軽介助から中等度介助を要した。認知機能評価は拒否により実施困難だが意思疎通は可能であった。入所早期から食事拒否と離床拒否が著明であった。嚥下機能評価のうえ、本人の希望する食形態への変更および栄養補助食品の併用を行ったが、食事摂取量の改善は認められなかった。そこで持ち込み食の提供を開始したものの、明確な摂取量の増加には至らなかった。利用者は食事摂取が生命維持に関わることを理解しており「良くなりたい。」との発言がみられたが、利用者および家族は延命治療を希望せず、多職種で協議のうえ、ターミナルケアへ移行した。
X+26日にターミナルケアに移行し、その後X+44日に逝去された。介入期間は入所初日(X日)から逝去(X+44日)までとし、ターミナルケア移行前(X~X+7日)、ターミナルケア移行期(X+26~X+33日)、終末期(X+37~X+44日)の3時点で評価した。
【リハビリテーション介入内容】
ターミナルケア移行前には、生活背景や嗜好品の聴取に努めた。栄養状態の改善はみられずターミナルケア移行期直前から、持ち込み食の提供が開始された。同時に他職種へ介護ベッドのギャッチアップによる簡易離床方法の指導を実施した。終末期では、肩関節ROMエクササイズ・前胸部ストレッチによるリラクゼーションを用いた段階的な離床を実施した。またターミナル移行期から終末期まで毎週カンファレンスを開催し、嗜好品の提供方法の見直しや離床支援に対する利用者の反応、ターミナルケアに対しての家族の反応を多職種と情報共有を図った。
【評価方法】
栄養介入の評価は、日常生活記録から主食・副食の一日摂取割合を評価し、nPCRとGNRIから栄養状態を判定した。離床介入の評価として、声掛けに対する拒否回数の割合を離床拒否率とし、離床に対する拒否反応を評価した。また利用者や家族、医療・介護スタッフの発言内容の変化もカルテより採集した。
【結果】
食事摂取割合は、ターミナルケア移行前の主食0.7割、副食0.6割から終末期には主食0.3割、副食0.2割へ低下し、栄養指標はターミナルケア移行前(nPCR0.67/GNRI76)からターミナルケア移行期(nPCR0.55/GNRI71)へ低下した。一方で、嗜好品の聴取を継続的に行うことで、利用者から食べたいものの訴えがみられた。家族からは、持ち込み食提供により「久しぶりに食事姿をみた」との発言がみられた。ターミナルケア移行期のカンファレンスではCWより「妻の焼きそばは摂取量が良好で利用者の笑顔が見られた」と報告があり、食事の肯定的体験が確認された。
他職種への離床指導とリラクゼーション導入により、離床拒否率はターミナルケア移行前35%からターミナルケア移行期45%へ悪化したものの、終末期で45%を維持できた。ターミナルケア移行期のカンファレンスではCWから「介護ベッドのギャッチアップを活用した離床介助に変更することで拒否なく離床ができる。」との報告があった。ターミナルケア移行期後では、離床して家族とともに嗜好品を囲んで食卓を楽しむ場面が観察された。逝去後、家族からリハビリテーションについて「病院では、何もしてもらえなかった。施設ではリラクゼーション等の支援を受け、感謝している」との発言があった。
【考察】
HD患者は炎症性サイトカインの血中濃度上昇、尿毒症物質の蓄積、そして味覚障害などが背景にあり、食欲が低下しやすい。リハビリ介入時や他職種による密接なコミュニケーションを通して嗜好品を知ることで本人の「ほしいもの」を提供することができたと考える。その結果、持ち込み食の提供は、食べたいという意欲を引き出すことができた。嗜好品の提供は、家族の持参頻度に依存するため、持続性に限界があり、栄養状態の改善には至らなかったが、本人・家族のQOL維持の一助となったと考えられる。
離床支援では、離床拒否の要因を冷感や筋力低下、易疲労性によるものであると考え、防寒着の着用、他職種への離床方法指導、リラクゼーションを用いた段階的な離床支援を行った。
ターミナルケアでは単に時間的延命を考えるのではなく、その人らしさを最も重視しなければならない。そのためには、ターミナルケア移行前から利用者の生活背景や嗜好品を詳細に把握し、多職種で包括的な生活支援を協議することが不可欠である。本症例では、離床支援と栄養介入を併用することで離床機会を維持し、離床下で家族との食卓を再現することができた。こうした「家族とともに食卓を囲む食体験」は、終末期における本人らしい日常の再現となり、利用者の笑顔を引き出すとともに、家族からの肯定的評価にもつながり、QOL向上に寄与したと考えられる。
高齢血液透析患者で介護老人保健施設に入所中の利用者(以下、高齢HD利用者)のうち、全身状態不良な症例は、ターミナルケアが必要となる場合がある。高齢HD利用者における、食事・水分管理や塩分制限、持ち込み食の禁止等の食事制限は、ターミナルケア移行期に緩和し、嗜好品を楽しんで頂く必要があると考えられる。また、ターミナルケアの高齢HD利用者の生活は、離床に対する苦痛から透析と長時間の臥床を繰り返す状況に陥りやすく、過度な安静確保と長期臥床はQOL悪化のリスクを伴う。しかしながら、高齢HD利用者におけるターミナルケアの生活支援について、栄養介入や離床介入のエビデンスは十分に蓄積されていない。
【目的】
食事摂取不良と離床拒否を主訴としたターミナルケア期の高齢HD利用者に対し、栄養介入と離床支援を統合した多職種連携による終末期リハビリテーション介入が、高齢HD利用者のQOL維持に果たす包括的意義を検証する。
【対象】
対象は80歳代男性の高齢HD利用者。既往歴はうっ血性心不全、糖尿病、高血圧、狭心症、腎性貧血、高尿酸血症。急性心不全による長期の入院後、X日に介護老人保健施設へ入所。入所時のFIMは50点で基本動作に軽介助から中等度介助を要した。認知機能評価は拒否により実施困難だが意思疎通は可能であった。入所早期から食事拒否と離床拒否が著明であった。嚥下機能評価のうえ、本人の希望する食形態への変更および栄養補助食品の併用を行ったが、食事摂取量の改善は認められなかった。そこで持ち込み食の提供を開始したものの、明確な摂取量の増加には至らなかった。利用者は食事摂取が生命維持に関わることを理解しており「良くなりたい。」との発言がみられたが、利用者および家族は延命治療を希望せず、多職種で協議のうえ、ターミナルケアへ移行した。
X+26日にターミナルケアに移行し、その後X+44日に逝去された。介入期間は入所初日(X日)から逝去(X+44日)までとし、ターミナルケア移行前(X~X+7日)、ターミナルケア移行期(X+26~X+33日)、終末期(X+37~X+44日)の3時点で評価した。
【リハビリテーション介入内容】
ターミナルケア移行前には、生活背景や嗜好品の聴取に努めた。栄養状態の改善はみられずターミナルケア移行期直前から、持ち込み食の提供が開始された。同時に他職種へ介護ベッドのギャッチアップによる簡易離床方法の指導を実施した。終末期では、肩関節ROMエクササイズ・前胸部ストレッチによるリラクゼーションを用いた段階的な離床を実施した。またターミナル移行期から終末期まで毎週カンファレンスを開催し、嗜好品の提供方法の見直しや離床支援に対する利用者の反応、ターミナルケアに対しての家族の反応を多職種と情報共有を図った。
【評価方法】
栄養介入の評価は、日常生活記録から主食・副食の一日摂取割合を評価し、nPCRとGNRIから栄養状態を判定した。離床介入の評価として、声掛けに対する拒否回数の割合を離床拒否率とし、離床に対する拒否反応を評価した。また利用者や家族、医療・介護スタッフの発言内容の変化もカルテより採集した。
【結果】
食事摂取割合は、ターミナルケア移行前の主食0.7割、副食0.6割から終末期には主食0.3割、副食0.2割へ低下し、栄養指標はターミナルケア移行前(nPCR0.67/GNRI76)からターミナルケア移行期(nPCR0.55/GNRI71)へ低下した。一方で、嗜好品の聴取を継続的に行うことで、利用者から食べたいものの訴えがみられた。家族からは、持ち込み食提供により「久しぶりに食事姿をみた」との発言がみられた。ターミナルケア移行期のカンファレンスではCWより「妻の焼きそばは摂取量が良好で利用者の笑顔が見られた」と報告があり、食事の肯定的体験が確認された。
他職種への離床指導とリラクゼーション導入により、離床拒否率はターミナルケア移行前35%からターミナルケア移行期45%へ悪化したものの、終末期で45%を維持できた。ターミナルケア移行期のカンファレンスではCWから「介護ベッドのギャッチアップを活用した離床介助に変更することで拒否なく離床ができる。」との報告があった。ターミナルケア移行期後では、離床して家族とともに嗜好品を囲んで食卓を楽しむ場面が観察された。逝去後、家族からリハビリテーションについて「病院では、何もしてもらえなかった。施設ではリラクゼーション等の支援を受け、感謝している」との発言があった。
【考察】
HD患者は炎症性サイトカインの血中濃度上昇、尿毒症物質の蓄積、そして味覚障害などが背景にあり、食欲が低下しやすい。リハビリ介入時や他職種による密接なコミュニケーションを通して嗜好品を知ることで本人の「ほしいもの」を提供することができたと考える。その結果、持ち込み食の提供は、食べたいという意欲を引き出すことができた。嗜好品の提供は、家族の持参頻度に依存するため、持続性に限界があり、栄養状態の改善には至らなかったが、本人・家族のQOL維持の一助となったと考えられる。
離床支援では、離床拒否の要因を冷感や筋力低下、易疲労性によるものであると考え、防寒着の着用、他職種への離床方法指導、リラクゼーションを用いた段階的な離床支援を行った。
ターミナルケアでは単に時間的延命を考えるのではなく、その人らしさを最も重視しなければならない。そのためには、ターミナルケア移行前から利用者の生活背景や嗜好品を詳細に把握し、多職種で包括的な生活支援を協議することが不可欠である。本症例では、離床支援と栄養介入を併用することで離床機会を維持し、離床下で家族との食卓を再現することができた。こうした「家族とともに食卓を囲む食体験」は、終末期における本人らしい日常の再現となり、利用者の笑顔を引き出すとともに、家族からの肯定的評価にもつながり、QOL向上に寄与したと考えられる。
