講演情報
[27-O-C001-06]介護老人保健施設の看取りケア看取りケアにおける他職種連携の大切さ
北海道 ○今井 習人 (介護老人保健施設友愛ナーシングホーム)
本発表では、当施設における「看取りケア」の実践事例とそこから得られた学びを報告する。「看取りケア」とは、一人の人間が人生をどう終えたいか、その声に耳を傾け、可能な限り叶えていく、日々の積み重ねである。私たちはこれを「死」に向き合うケアではなく、「生きる」を最期まで支えるケアとして捉えている。今回は、それぞれ異なる背景と想いを持った2名のご利用者の事例を通じて、看取りケアにおける「大切なこと」と「気づき」を提示する。【事例1】A様(94歳・女性)A様は、令和4年に当施設へ入所された。A様自身が夫を自宅で看取ったことを誇りに思っていることから、当施設への入所に対し家族から見捨てられたと入所時には、施設での生活に抵抗があった。月日が流れるにつれ「過ごしやすい。ここにきてよかった」と話されるようになり、徐々に生活の場として、施設での暮らしを受け入れることができてきた。 令和5年肺炎で緊急入院、入院中は絶飲食の状態であり、病院からは余命1ヶ月の診断を受けた。家族の強い希望により施設へ再入所されたA様は、家族が、過去の入院中「飲み物が飲めなく、喉が渇いて辛かった」とA様が話されていたという体験から「最期まで少しでも口から水分をとらせてあげたい」という強い願いを家族がお持ちだった。当施設の医師との協議を経て、再入所の翌日にトロミ15cc (5.0g)をつけ、経口からの水分摂取を少しずつ再開すると、数日後には1杯200mlの水分を飲水できるようになった。食事もミキサー食で少量ずつ提供し、食事も数日後には摂取量が安定していき、発語や表情にも改善が見られた。その後は体調の波がある中、多職種が連携し適切な褥瘡予防処置や口腔ケアを行うとともに、居室ではラジオや好きな音楽を流し「人との関わり」や「音に触れる」時間を大切にした関わりを継続した。A様の看取りケアで最も重要だったのは、「本人と家族の声を、きちんと聴くこと」であり、病院では難しい判断であっても本人のQOLを優先する選択が、最期の「自分らしさ」を支えることにつながったと実感している。【事例2】B様 (90歳・女性) 体調不良が続くB様の家族は、以前から「母の事を最期は家で看取りたい」と強く職員に希望されていた。本人の容態を家族に伝え、自宅で最期を看取る運びとなり、介護士・看護師・療法職から相談員への迅速な情報連携が行われた。その情報をもとに、相談員が居宅介護支援事業所と掛け合い、早急に自宅へ戻るための調整が実現した。自宅に戻られた当日、B様は施設を出発する前まで職員の声掛けにも、うっすらと開眼される程度で発語もなかったが、自宅に帰ることができると開口一番に「家に帰って来られたんだね」としっかりとした言葉を発し、その日の夜に家族が見守るなか息を引き取られた。この事例は、退所支援を日常的に行っている介護老人保健施設だからこそ、外部を含めた多職種間の迅速な連携が、B様や家族が望む、在宅に戻り在宅で看取るという願いを実現できたと思われる。 A様の喉の渇きへの配慮や、B様の在宅に戻りたいという願いは、一見すぐに叶えられそうな小さな願いに見えても、本人や家族にとっては非常に大切なことであった。看取りケアにおいて私たちにできることは、「何ができるか」より先に、「何を望んでいるか」に耳を傾けることである。そして、その願いを実現する為に一緒に考えてくれる多職種の仲間がいるという安心感と、その連携こそが、看取りの質を高める大きな力になると強く実感した。人生の最期は誰にとっても一度きりである。その時間をどう過ごすか、どう見送るかの答えはマニュアルにはなく、人ひとりの声に耳を澄ませることから始まる。今後は、入所時から本人・家族と「最期をどう迎えたいか、どんな時間を大切にしたいか」を話し合う時間をしっかり設けること、また意思表示が難しい方に対しても、その人らしい看取りを支える知識と技術をより深めていく必要がある。私たちは、「看取り」は「死」に向き合うケアではなく、「生きる」を最期まで支えるケアであると信じ、今後も介護老人保健施設での看取りケアを取り組んでいく。
