講演情報

[27-O-C002-02]ACPに添った看取りケアと認知症マフを活用した一例

福岡県 法村 冨美香, 大石 文芽, 山口 美穂, 武本 美知代, 池田 佳織, 城尾 鶴代 (介護老人保健施設ささぐり泯江苑)
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【はじめに】2009年から介護老人保健施設(老健施設)でも看取り加算が開始され、2017年には約7割の老健施設が看取り機能を有し、人生最期を過ごす高齢者が増えている。施設でも人生会議(ACP)を開始すべきだが、看取りに関して本人ではなく家族に確認をしている施設が多い。これまで当施設では2018年以降19例の看取りを行ったが家族の意向が重視されていた。今回ACPを実施し、本人の意思と希望に添った看取りケアに取り組み、不安の軽減に対して認知症マフ(マフ)を活用し有効だった事例を報告する。
【倫理的配慮】個人を特定できないように配慮した上で本人と家族から書面で同意を得ている。
【事例紹介】A氏 女性 100歳代 要介護2 病名:慢性心不全 MMSE 23/30点 難聴があるが補聴器を使用し会話は可能だった。日中は車椅子で編み物をして過ごし食事は自立、トイレで排泄していた。X年3月当施設に入所後、心不全増悪のため5ヶ月間で3回入院したが、A氏の強い希望でX年12月老健施設へ再入所した。再入所時にA氏にACPを実施し、趣味や嗜好品などの他「最期まで施設で過ごしたい」という希望を確認したため、「症状増悪時には入院治療の他,施設での看取りも選択出来る」ことを医師からキーパーソンである次男夫婦(KP)に説明した。長男は病院での治療を望んだが、ACP用紙を共有すると「本人の希望を尊重し、穏やかに最期まで日常を過ごしてほしい」という家族の統一した意向を確認できたため、X年12月施設で看取りの方針となった。
【ケア実践】
1. ACPを元に施設で出来ることがないかを多職種で話し合い、X年12月最も希望していた夫の墓参りへ遠方の家族の代わりに同行した。帰りに好物のリンゴやまんじゅうを購入し車窓から見える景色を喜んでいた。その後、徐々に病状が悪化し臥床して過ごすことが多くなり「またお墓参りに行きたい」と希望するようになった。今後心不全の増悪が懸念されるため、本人の意向を尊重しX+1年3月、2回目の墓参りに同行する承諾をKPから得た。それまでしばらく活気がなかったが、翌日の墓参りの予定を聞くと喜び、当日は墓前で線香を手向け何度も「早く迎えに来てください」と拝み、帰りに自ら好物を選んで購入し笑顔も多く会話も弾んだ。以降も多職種で居室に家族の写真や季節の花を飾り、好きな音楽を流すなど心地よい環境づくりを支援した。
2. 2回目の墓参りの翌日夜より心不全悪化のため酸素を開始しベッド上の生活となった。食欲低下のため摂取量は1割程度だったがA氏は点滴を希望しなかったので、食べたい物をその都度尋ね施設や家族で購入し提供した。
3. 夕食後から夜間にかけてコールが頻回となり、病状の変化による不安を理解し対応するために可能な限り職員が付き添ったが、A氏は抗不安薬を希望するようになった。コールボタンを握りしめていたため、何か持つ物があると安心が得られるかもしれないと考え、認知症の人がリラックスする目的で使用されるマフを渡すと、毛糸で編まれたマフの中に両手を自ら入れた。終日、マフの中で右手はコールボタンを手にし、左手は握り棒などを握っていた。KPには夜間の様子や施設の対応について随時報告した。
【結果】
1. 最も望んでいた夫の墓参りへ家族に代わり施設職員が2回同行した。A氏の病状を考えて2回目を決断したことで墓参り当日は活気や発語も増し、墓参り後は食べたい物を購入し自ら食べた。環境づくりなどにもA氏の希望を取り入れACPを実践した。
2. 治療食にこだわらずA氏に食べたい物を尋ね、家族の理解と協力を得ながら可能な限り提供し、取り入れることで食事量は一時的に回復した。その後徐々に食欲は低下したが食べたい物だけ進んで介助で食べることが出来た。
3. マフを渡すと自ら手を中に入れ握り棒を握りしめて眠るようになった。寂しさの訴えは減少し、夜間に抗不安薬を使用することなく良眠し日中もマフを手放すことはなかった。その後X+1年6月永眠し、KPは「毎日使っていたものだから」とマフを棺に入れるために持ち帰った。
【考察】
1. 老健施設など高齢者施設は生活の場であり本人の望むことをケアに取り入れやすいので、人生をどのように生きるかという意思決定の支援が重要である。このためにはACPを実施し、多職種が協働して本人の意向を尊重し支援するケアを探り可能な限り実践することが望まれる。
2. 悪性腫瘍や認知症、心不全などの慢性疾患は進行し死は避けられないので、終末期は本人の意向を尊重することが必要である。 悪性腫瘍などの終末期には心地よい時を能動的に過ごし最期への準備をするために穏やかでいられる範囲で食べること、また認知症の終末期には食べる楽しみを目的としたComfort Feeding Onlyに重要な意味があると知られている。心不全の終末期であるA氏に対し栄養にこだわらずその都度食べたい物を尋ね提供したことは、自ら穏やかな日常を過ごすというA氏の想いを実現する支援に繋がったのではないかと考える。
3. 近年、認知症の人の不安などを軽減するマフの有効性が報告されている。A氏は認知症ではないが、慣れ親しんだ毛糸で編まれたマフを使い始めてから眠るようになり、安心感がもたらされたと考える。感覚刺激が心地よい感情を引き出し心身の緊張を解きほぐすマフは発達障害児の支援にも活用されており、終末期の高齢者の看取りケアにも有効かもしれない。
【まとめ】
1. 看取りにおいてその人らしい最期を支えるためには、ACPを実施し多職種で本人の価値観を尊重した医療やケアをその都度提供すること、家族の理解と協力を得ることが重要である。
2. 看取り期のケアにはその人の生活背景を踏まえた柔軟な対応が大切である。