講演情報

[27-O-C002-04]この方の人生このままで良いの?再び紡いだ家族の関係

奈良県 宗像 マミ, 酒井 一徳 (医療法人豊生会 介護老人保健施設 でぃあほうむ吉野)
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【はじめに】
当施設では、令和4年から年間約12名の方の看取りに対応した。どのご家族にもそれぞれの背景や関係性がある。ケースはそれぞれで、本当に利用者や家族が望んだ最期を迎えられたのか。いつも自問自答する。
今回、家庭崩壊となり疎遠になっていたご家族に介入し、再び家族としてご主人の最期を家族と共に看取られた事例を報告する。【目的】
ご利用者の最期がこのままで良いのかの疑問から、最期に会わせたいと思う職員の思いと、施設の目標である「ワンチームでオーダーメイド」としての取り組み。【課題】
・疎遠の家族にどのように接触できるか。
・弁護士の後見人制度の活用によりスム-ズに物事が進まない。
・これまでのケースから、看取りに対し各専門職の視点の違いがある。【入所期間】
令和2年7月2日から令和7年6月8日【経過】
認知症の周辺症状により家庭崩壊をまねき、妻・子供達はご本人の元を離れていった。長らく疎遠状態が続いており、当施設に入所を機に後見人制度を活用し、以後のことは弁護士や支援員が仲介人となっていた。
令和7年3月末に下血を認め、腫瘍マーカーの異常値、貧血を認めた。精密検査の必要性があり、弁護士とコンタクトを取るが、先方が多忙なため速やかに進めることが出来なかった。大量の下血を起こす恐れもあったため、早急に行動したい思いでいた。職員の中には「家族に会わせることは出来ないのか」「家族も会わなくても後悔しないのか」と言う声がカンファレンスで上がった。弁護士の方からご家族に伝えてもらう形になり、直接ご家族とのコミュニケーションを取れないためご家族の心理面をくみ取ることが難しかった。結果は、精密検査を望まず施設での看取りとの希望であった。面会をすることについては、あまり望まない様子ではあったが、以前からのご本人とは状態が違うことをお伝えし、面会の機会を取り付けた。ご本人が入所時から再三娘の名前を呼んでいたことを伝えると、孫を連れての面会が可能となった。娘家族との面会にご本人の笑顔は格別であった。孫にもらったマスコットのぬいぐるみを大切に胸ポケットに入れた。帰られてからも肌身離さず持っておられた。短期記憶障害著明なご本人ではあるが、忘れることなく傍に置いた。
最期の時は急変となった。食事はほとんど摂れずにいたが、その日の朝は介助で全量摂取していた。昼食は離床したが、摂取できずその後全身脱力状態になり、急遽家族を呼んだ。受け答えはできる状態で家族に会うことが出来た。遠方の娘家族も駆け付けられ、何年ぶりになるのか家族だけの時間を持つことが出来た。2カ月前まではこの日を想像できたであろうか。手を握り見つめあう姿。疎遠になっていた家族とは思えない光景。帰宅された娘はビデオ通話で息を引き取る瞬間に立ち会われた。
各部署の役割として、医療面は大腸癌に対するケア(排便コントロール、疼痛緩和、内服薬の投与)糖尿病に対するケア(血糖値管理・インスリン投与)介護職は生活環境の調整、普段の生活を制限せず安全に過ごす環境。栄養士は食形態の変更や食べたいもの、食べることのできるものの調査。リハビリ科は体調を見ながらの無理のない程度のリハビリ、ポジショニング。相談員は弁護士、支援員との連絡の窓口と、家族への支援を行った。それらは、すべての者が家族に会わせてあげたいという強い気持ちが中心となっていた。【考察】
多くの看取りに関わって来た中でも、今回のケースは、家族の関係性、後見人制度の活用によりストレートに家族の思いがくみ取れないのが一番の問題であったと考える。コロナ禍以降面会制限などあり、窓口である相談員と家族は関係性が保てている。現場スタッフと家族との接点が少なく関係性が築き難い状態が続いている。唯一の接点である相談員の窓口がワンクッションあることで家族の気持ちが感じにくい。時には踏み込んだ発想も必要であると感じた。また、多くの看取りケースでは各職種の専門性により意見の違いが生じ、最終的には医療側が上位になりがちであったが、今回のケースにおいてご利用者の願いを1つでも叶えられるよう日ごろからの会話の大切さを再認識した。【おわりに】
どの家庭にも様々なエピソードがあり、今回の様な結果に結びつく事は稀である。特に認知症の方の思いをくみ取るのは非常に難しい。しかし、今現在の利用者の気持ちをくみ取ることができるのは現場の職員の私たちである。些細のこともピックアップ出来るスキルを身に着ける事が求められる。