講演情報

[27-O-C003-03]看取り文化の醸成に向けた取り組み

神奈川県 山崎 香織, 川島 将斗, 井上 新, 小松崎 勉 (老人保健施設 レストア川崎)
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【目的(はじめに)】
超高齢社会、多死社会に突入し看取りの場の確保が問題となり、病院を含めた地域全体で医療、看護、ケアを提供できる地域包括システムの構築が進められ「看取りの場」も多様化している。A施設では、2015年に終末期ケア委員会が設置され施設での看取りが始まった。老人保健施設(以下,老健)は多職種で構成されており看取りの経験、知識に差があった。また、老健は自立支援、在宅復帰を目的として設置された事から「なぜ老健で看取りをするのか」といった声もきかれた。職員が同じ方向性のもと利用者に最善のケアを提供していくという施設のあるべき姿とはギャップがあった。今回、どうしたら利用者中心のケアを提供できるのか考え取り組んだ。
【方法】全職員を対象に2022年と2023年「終末期について」、納棺師による「より良いエンゼルケアにより尊厳を保つために」、緩和ケア病棟の認定看護師を招きグループ4施設合同ZOOMで「終末期を学ぶ」、2024年「看取りケアについて」勉強会・アンケートを実施。外部研修に終末期委員を派遣した。次に、看取り後の振り返り方法を見直した。振り返りカンファレンス出席者のみが思いを語りまとめてきたが、関わった職員全員に思いを記入してもらいカンファレンスを行った。しかし、職員の思いの共有は図れたが利用者や家族の思いには至れず、島田の「看取りの振り返りを有効に実施するためのケア」(島田,2016)を参考に振り返りシートを導入した。
【結果】初回勉強会後のアンケートでは、看取りに対する不安がある者が49%を占めた。その内容は「死に対する不安」「状態の変化に気付けるか」「家族への対応」「適切なケアであったか」であった。看取り開始後、勉強会は開催されておらず、看取りの知識を得て不安軽減を図るため勉強会を実施し施設全体での共有化を図った。勉強会ごとに、「施設の看取りや考えが分かった」「知識不足なので良かった」等の回答が得られた。勉強会継続後、不安や悩みがある者は38.4%と減少したが不安の内容に変化はなかった。施設での看取りに対する気持ちの変化として「抵抗が少しずつなくなった」「その人らしい最期を考えるようになった」等と前向きな内容の回答が得られた。
「振り返りシートを使ってみて」のアンケートでは、自分のケアの振り返りができている者が90.9%「利用者や家族の思いも考えるようになった」「他職員の思いに共感し、感じ方の違いやケアの方法が勉強になる」「看取りに対する考え方が変化している事に気付く」等の回答があった。
2023年度14名の振り返りから、その人らしさを意識し尊重したケアを提供できた・まあまあできたと答えた割合は症例により26.3%~100%、看取りケアを自己評価し十分・まあまあできたと答えた割合は症例により10%~91.5%であった。「病院から帰ってきてくれた。最期は私達が看たい」「家族の看取りに対する思いなど多職種が理解し質の高いケアに繋がった」等の回答があった。家族からは「自分の家のように過ごせた」「穏やかに逝くことができました」「病院だったら拘束されていた。綺麗にして頂いてありがとうございます」「最期まで付き添い呼吸の変化を見届ける事ができました」等の言葉が聞かれた。
【考察】勉強会で看取りを取り巻く現状や制度の改正について触れ、老健が看取りの場としての役割を担っている事が理解されてきたと考える。
職員の看取りに対する不安が軽減できた理由として2点あると考えた。1点目は、勉強会で看取りケアの知識が得られプロセスを理解できた事である。勉強会は看取りケアを前向きに捉えられる一つの方法であるため今後も継続していく必要がある。2点目は、樋田らが「体験を言語化し思いを表出し共有することにより悲嘆や精神的負担などを緩和でき、ケア実践者全体が学びとなり成長できる」(樋田他,2017)と言うように、振り返りしシートの導入により自分のケアを振り返り、カンファレンス、まとめから自分のケアは良かったのだという自己肯定感を高められた事、そして次の看取りに再度向き合える心の整理と準備をする事ができた為だと考えられる。しかし、家族の対応に関しては不安が残っており、日頃からの関わりの積み重ねが不安を軽減させるために重要なプロセスだと考える事ができた。
振り返りシートから、「その人らしさを意識し尊重したケア」「ケアの自己評価」では症例によって出来た値に差があり、長い入所期間でも体調の急速な変化で看取り期間が短い、又はフロアが感染症対応時において低かった。東森が、「老健では回復、自立を目指す方向からの切り替えという点でより難しさがある」(東森他,2023)というように、意思決定支援の難しさを感じている。利用者と家族のニーズに合ったケアを行うためには、利用者個々の状態に合わせタイムリーに意思を捉え直す事、日頃からの利用者や家族とのやり取りから得られた情報を多職種カンファレンスにより共有する事が必要で、その時期にあったケアを出来ると考える。
最期の表情は穏やかであったと96%の回答があった。島田は、「最期の表情は、自分たちの提供したケアが本人にとって良かったのか確認する一つの情報になる」(島田,2016)と述べている。穏やかで綺麗な表情からは、利用者にとって適切なケアが提供できていると考えられる。
【結論】今回の取り組みで、看取りケアの知識や方向性を施設全体で共有できた事は、利用者を中心とした看取りケアの質の向上に繋がり、看取り文化が醸成されていることを確認できた。意思決定支援への関わり、退所後の家族ケア等、今後の課題も見えた。今後も利用者を中心に最善のケアを提供できるように取り組んでいきたい。