講演情報

[27-O-C004-03]介護老人保健施設におけるACPのあり方の模索認知症高齢者の意思決定をチームで支える取り組み

北海道 杉山 優希, 木曽 敦子, 高橋 信也, 立石 香 (老人保健施設母恋)
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【はじめに】
 介護老人保健施設(以下老健)は、厚生労働省で示されている基本方針として在宅復帰、在宅療養支援のための、中間施設と位置づけされている。老健の入所者における、認知症高齢者の日常生活自立度は、III以上が51.1%と半数を占めている。老健からの退所先では、医療機関への入院が39.6%、施設での死亡が8.5%という統計がある。このような社会背景のなかで、人生の最終段階の医療・ケアに対し本人の意向を示すシステムとして、Advance Care Planning(以下ACP)が、施設でも重要とされている。
 しかし認知症高齢者がACPで意向を示すことは困難な事例が多く、医療やケアの選好は家族に委ねられることが多い。また、自施設では、ACPには一部の職種しか関わっていなかった。
 本研究にて、老健でのACPのあり方と問題点を明らかにし、認知症高齢者の意思決定を支援する取り組みを実施したため報告する。
【研究方法】
1.方法:調査研究
2.研究期間:2024年3月~9月
3.研究対象:施設職員57名(医師、看護師、介護福祉士、介護士、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、管理栄養士、介護支援専門員、支援相談員)
4.データ収集方法
 1)ACPに対するアンケートを実施し、問題点を抽出
 2)研修会、問題に対する取り組みを実施
 3)再度アンケートを実施し、効果を調査
【結果】
 事前アンケートでは、ACPに参加している医師、看護師、介護支援専門員、支援相談員の「参加群」と、介護士、介護福祉士、リハビリ部門、管理栄養士の「非参加群」の2群に分類し集計を行った。参加群は全体の30%、非参加群は70%の構成比であった。
1.ACPに対するアンケートを実施し、問題点を抽出
 ACPという言葉は両群とも80%が「知っている」と回答した。しかし自施設のACPの取り組みに関する質問では、非参加群の半数以上が「わからない」と回答した。そこで「ACPという言葉は知っているが、知識や経験がない」ことを問題点とした。
 自由回答では、「病状や認知症の度合いによっては、本人より家族の意向が優先されることが多い」「入所時のACPでは適切に本人が意向を示せない時がある」という回答が多数あった。そこで、ACPの運用において「認知症高齢者の意思決定支援のあり方」と「ACPを実施するタイミング」を問題点とした。
2.問題に対する取り組み
 はじめに、ACPの基礎知識や自施設での実際を理解してもらうための研修会を実施した。次に、入所時のACPには、各職種が参加するようにした。さらに、3か月毎に実施しているサービス担当者会議で、各職種が利用者の言動から得た情報を共有し、入所時の意向に変化がないかを確認した。入所が長期化している利用者に対しては、ACPの再実施の必要性を検討した。また、入所時に意向確認が困難だった利用者に対し、入所後落ち着いた環境で再度本人とACPを実施した。取り組みを1か月行いアンケートを実施した。
3.アンケートの実施と効果を調査
 事前アンケートと比較するため、同様の質問を設けた。ACPの認知度は100%に増加した。自施設のACPへの取り組みに関する質問では、非参加群の「わからない」の回答が30%以下に減少した。新たに追加した「各職種がACPに参加するべきだと感じるか」では、対象者の90%以上が「各職種が参加するべき」と回答した。
 実践的な取り組みでは、医療を選好する場面で、看護師が主体となり多職種が持つ意見を引き出し、チームで共有することで、意思決定の支援ができた事例があった。さらに、ACPのタイミングを見直し、顔なじみとなった職員が、落ち着いた環境でACPを実施することで、入所時に意思決定が困難とされた利用者も、意向を示すことができた事例が多数あった。サービス担当者会議で、ACPの情報を多職種で共有する取り組みでは、看護師や介護支援専門員からの意見がある一方、介護職から自発的な意見は少なかった。
【考察】
 研修の実施や多職種がACPに参加する機会を設けたことで全職種がACPへの理解を示した。しかし、職種によっては、ACPは医療的な視点が強く、知識の普及だけでは、介護職等がACPの場で自発的に行動するのは難しい。そのため、経験や専門性のある職種が率先して情報を共有するように多職種へ働きかける必要がある。さらに、ACPに「医療的な内容」といった意識が根付いていることが、介護職等がACP参加に消極的になる要因と推察された。よって、定期的な研修やACPへの参加の継続が重要である。
 多職種から得た情報により、利用者の意思決定支援ができた事例から、利用者の生活に一番密着している介護職からの情報は、利用者の意向を探るために重要であったと示された。近年、本人が「なぜ」希望しているのか、その背景となる人生観や生活史,個人の趣味・趣向などを理解することに重きを置くACPの概念が重要視されている。そのため、ケアに一番密着している介護職がACPに参加し、認知症高齢者の意思決定を支援する体制の構築が必要と考える。
 ACPのタイミングでは、入所の機会にACPを実施することは必要だが、認知症高齢者にとって初めて来た環境で人生の最終段階に関する意向を示すことは困難である。そのため、環境やタイミングを調整し本人が意向を示せた事例から、ACPの実施する時間や場所の検討、さらに継続した意向確認が課題と示された。
 今回の取り組みにより、人生の最終段階の医療・ケアに本人の意向を反映できたか、期間が短く評価には至らなかった。そのため本研究で実施した内容を継続して、ACPのあり方を模索していくことが課題である。
【結論】
1.老健のACPは、多職種が介入する必要性があり、研修の実施や、多職種がACPに参加する機会を設ける必要がある。
2.老健のACPでは、多職種がチームとなって情報共有することが、意思決定支援につながる。
3.認知症高齢者が意向を示せるように、ACPを実施する環境やタイミングの調整が重要である。