講演情報

[27-O-C004-06]褥瘡予防に悩んだ私たちが出した答え現場主導で進めた製品導入とその成果

大阪府 高木 桃咲子 (東雄苑都島)
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【はじめに】
介護老人保健施設において褥瘡や皮膚トラブルの予防は日常的な課題であるが、医療保険が適用されない老健においては、保湿剤や高価なドレッシング材の確保が難しい状況が続いている。治療薬は優先的に発注される一方で、保湿剤も10割負担となるため、十分な備えができず、常に利用者の皮膚の乾燥が課題となっていた。
加えて、家族が遠方に住んでいる、疎遠である、経済的困窮状態にある、あるいは身寄りがないなどの理由から、保湿剤の持参を依頼できないケースも多く、「持ち込みに頼るケア」自体が現場で成立しにくいという現状があった。こうした環境下では、失禁や便失禁による皮膚の脆弱化が進行しやすく、保湿が不十分な状態で表皮剥離が発生し、処置が長期化・複雑化することも少なくなかった。ガーゼや軟膏の消費が増え、業務も煩雑化していた。

【課題の背景】
皮膚トラブル予防にワセリンやアズノール軟膏を使用していたが、ワセリンは保湿効果が乏しく、アズノールは治療薬であるため予防的使用には限界がある。現場では「予防的なワセリン」「予防的にアズ」といった言葉が常用されるほど、本来治療用である薬剤を日常的に使わざるを得ない状況が続いており、業務は次第に煩雑化していた。さらに、ワセリンは一度の拭き取りで効果が失われやすく、オムツ交換のたびに塗布が必要であった。また、ガーゼが失禁で汚染されやすく、毎日の交換や処置が必要で、業務量が増加。褥瘡が発生すれば、臥床時間の確保や体位変換、エアマット管理、栄養管理、創傷処置、記録、家族対応、受診調整などが発生し、全職種に多大な負担がかかっていた。これらの状況は、利用者・家族の精神的負担、ADL低下、在宅復帰の遅れ、施設の稼働率にも影響を与えていた。

【導入の動機】
筆者は以前勤務していた病院において、全介助の陰部洗浄後に撥水性スキンケア製品「リモイス®バリア」を使用し、皮膚トラブル予防に有効であった経験があった。そこで、課題を抱える当施設でも導入を提案した。「リモイス®バリア」は化粧品分類であり、医薬品としての管理を必要とせず、制度上の制限が少ない点も利点であった。特に保湿成分を含みつつ撥水性があり、洗浄後も皮膚を保護できるという特徴は、老健のような環境下で継続可能なケアとして適していると考えた。
加えて、排泄物などのアルカリ性の強い刺激をやわらげ、皮膚を弱酸性に保とうとするpH緩衝能という特性も持ち、皮膚のバリア機能を維持する上で大きな期待が持てた。

【試験導入の経過】
まず一部の利用者を対象に1週間の試験運用を実施した。対象者は、褥瘡や皮膚トラブルの既往があり、オムツ内失禁やターミナル期の利用者で選定。朝のオムツ交換または入浴後に1日1回、約0.5g(1FTU)を肛門周囲に塗布した。その結果、新たな皮膚トラブルの発生はなく、皮膚の乾燥状態も全体的に改善が認められた。これを受けて施設全体へ導入を拡大した。

【運用体制】
リモイス®バリアを入浴後および日常のオムツ交換時に塗布を行う体制とし、対象者は範囲を広げ、褥瘡リスクが高く皮膚状態が不安定な利用者とした。ケアの手順や量をマニュアル化し、介護士にも目的を説明し、協力体制を構築した。評価は看護師が実施し、褥瘡対策委員会で対象者や効果の共有・見直しを行った。また最近では、介護士から「この利用者にも使いたい」といった声がカンファレンスで上がるようになり、現場全体で定着しつつある。

【結果と効果】
導入後6か月のコスト比較では、ワセリンは6個(約3kg)使用→0に、アズノールは110本→57本に減少し、計約12,890円の削減につながった。また、ガーゼ処置の頻度も減少し、利用者の皮膚状態は安定。業務時間短縮や物品の在庫管理の効率化にもつながった。リモイスバリア自体は月平均2から3本程度の使用で済み、経済的にも継続可能であった。

【考察】
老健では保湿剤やドレッシング剤の確保が困難な制度的制約がある中、撥水性・保湿性に加えてpH緩衝能を備えた製品を活用することで、褥瘡予防・皮膚ケアの質が向上した。現場の苦悩から出た提案をもとに、実践→評価→定着という流れでケアの標準化が進んだことは、多職種連携・業務効率・QOL改善にも寄与した。利用者やその家族、職員のためにも、現場からの視点で継続可能なケアを模索することが重要である。