講演情報

[27-O-D002-01]認知症の人の視点に立ったケアの実践事例報告

東京都 小美濃 智子 (介護老人保健施設花水木)
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【はじめに】
パーソンセンタードケアとは認知症の人を1人の人として尊重し、その人の視点に立って関わることを重視するケアの考え方である。利用者の強い不安、繰り返し夫を呼ぶ、大声、幻覚・妄想、立ち上がるなどの言動が周囲へ不穏な影響を与え、職員はその対処に苦慮していた。コミュニケーションを図り安心してその人らしく過ごしてもらいたいと思い、統一したケアを実践した結果、BPSD減少や心理的ニーズを満たしてよい状態となり効果が見られたため報告する。
【目的】
認知症の人のパーソンフッド(1人の人として周囲に受け容れられ、尊重されること)を保つケアの実践が、BPSD減少や5つの心理的ニーズを満たしよい状態でその人らしく過ごせるのか効果を明らかにする。
【対象】
T氏 女性 84歳 要介護度2 レベルIIIa―B1
病歴:認知症 右大腿骨転子部骨折 腰部脊柱管狭窄症 高血圧症
加齢黄斑変性症 緑内障 白内障
BPSD:不安 幻覚 妄想 繰り返し尋ねる 易怒性
趣味:編み物・勤行・歌謡曲を聴く
性格:社交的で世話好き
ADL:コミュニケーションはその場のみ、両目ともに見えづらい
車椅子移動全介助、移乗一部介助、つかまり立ち可能
食事・排泄は一部介助、入浴・更衣は全介助
期間:R7年1月25日~4月25日
倫理的配慮:利用者、家族へ研究目的と内容の説明行い同意を得た
【方法】
1.職員へ勉強会を5回行う、朝礼時に「個人の価値を高める行為と低める行為」各17項目を1日1項目読み上げ共通認識して関わる
2.情報収集とアセスメント
パーソンセンタードモデル【身体の状態・生活歴・性格傾向・脳の障害・社会心理(人間関係・物理的環境)】
夫にメッセージノート(以下ノートと表記)、家族や家の写真、教本を用意してもらう
ケアの開始日と終了日の、車椅子からの立ち上がりのヒヤリハットと大声の回数、BPSD13Qによる重症度の数値
3.カンファレンス<統一したケアの実践>
(1)ケア時は積極的にコミュニケーションを図る
(2)T氏:「目が見えないからわからない」「腰が痛い」など身体的不安
ケア:傾聴し「不安な時は話を聞きますよ」と医療介護職が見守っていると伝える
(3)T氏:「ツトムー」と夫がそばにいると思い繰り返し呼ぶ、大声、車椅子から立ち上がる行為
ケア:すぐにそばへ行き優しく「どうしましたか」と尋ね、話を否定せずに聞き「夫は家にいます」と声掛けする、ノートや家の写真を一緒に見て話す、習慣だった勤行、指編みで小物作り、レク実施時は最前列で歌謡曲を聴く、ごぼう体操を行う
(4)T氏:「男の人がいる」「お金を盗られる、警察呼んで」と怯える
ケア:話を否定せずに聞き一緒に確認する、「お金は夫が管理しています」と安心できる声掛けをする
(5)「夕飯を作らないと」と食事の用意を心配
ケア:「夕飯は自分達で用意するそうですよ」とノート活用し声掛けする
(6)リハビリへもノート活用・勤行・歌謡曲を流しての指編みや伝い歩き訓練実施を協力依頼して情報共有する
4.カンファレンス<評価とアンケート>
5つの心理的ニーズを満たし、よい状態でその人らしく過ごす事の評価は、強い不安感に「大丈夫ですよ」と声掛けや対応時のT氏の表情・態度・発言から行う
【結果】
ケアの実践開始日(1)2/10、実践終了日(2)4/25
1.車椅子からの立ち上がりのヒヤリハット (1)11回/日(2)3回/日
2.大声の回数 (1)12回/日(2)3回/日
3.BPSD13Q重症度 (1)20(2)11
4.5つの心理的ニーズ
<くつろぎ、結びつき>
強い不安感に「大丈夫ですよ」と傾聴やすぐの対応で「私のこと知っているのね、ありがとう」と笑顔になり、繰り返し夫を呼ぶ、大声や立ち上がりも減り静かに過ごす時間が増えた。幻覚・妄想はその場で一緒に確認すると「それならいいわ」と落ち着き頻度も減少した。夫の用意したノートや家の写真を眺めて「嬉しいわ、家族は元気かしら」と喜ぶ。
<アイデンティティ>
好きな水色の毛糸で集中して指編みする。手先が器用と伝えると「目が良くなれば教えてあげる」と笑顔で話をする。勤行は教本を見ることは困難だが職員と一緒に冒頭を唱えた後は暗唱し「生きがいよ」と凛とした表情で話す。
<たずさわること>
「腰が痛いけどやらないとね」とゆっくりと起居動作やおしぼりたたみをする。
<共にあること>
「楽しいからあなたもご一緒に」と笑顔で他者交流が増えた。
【考察】
参考文献より鈴木は「愛のニーズを中心に5つの心理的ニーズが満たされると、心理的な安定を得てQOLが向上し、よい状態となることが期待できる、誰もがこれらのニーズを持ち1つが満たされると他のニーズにも好影響を与える」と述べている。
認知症の人のよい状態は「喜び楽しさを表す」などとされている。T氏の「目が良くなれば教えてあげる」と笑顔を見せて喜びを表す言葉が聞かれたことは、アイデンティティのニーズが満たされることによりパーソンフッドを保つことができたと考える。
くつろぎ、結びつきのニーズが満たされると、不安感を取り除き心理的にリラックスできるとされている。T氏の「私のこと知っているのね、ありがとう」の言葉から人生背景や価値観に寄り添ったケアを実践したことで、自分らしく安心できる環境を提供できたと考える。
認知症の人は認知機能障害のため心理的ニーズを自分では満たせない。今回、その人の視点に立ち「どんな気持ちなのか」を尊重したケアを実践した結果、車椅子からの立ち上がり、大声、BPSD減少につながった。1人の人として関わることでパーソンフッドを維持し良い状態となり効果が認められた。
【終わりに】
利用者の施設生活がよりよいものとなるように、その人の人生背景や価値観を知り、その人の視点に立った個別性のある質の高いケアを提供できるよう今後も取り組んでいきたい。
【参考文献】
「認知症看護・介護に役立つよくわかるパーソンセンタードケア」鈴木みずえ監修(2020)