講演情報
[27-O-D002-02]利用者ニーズを汲み取るための倫理的取り組みカンファレンスで探る利用者の真のニーズ
愛知県 ○長尾 知典 (介護老人保健施設あおみ)
【はじめに】
日本介護福祉士会倫理綱領には、介護福祉士の役割として「利用者本位、自立支援」、「利用者ニーズの代弁」が掲げられている。しかし、施設という集団生活の場においては、個人のニーズより集団の安全が優先されることがある。やむを得ず本人の望む生活を制限せざるを得ない場面もあり、私たち介護職はたびたび倫理的ジレンマに直面する。また、認知症によって、真のニーズを把握すること自体が難しいという現実もある。
本報告では、認知症があり、暴力行為のある利用者に対して「本人の真のニーズは何か」、「利用者本位のケアとは何か」という倫理的視点に基づいて、カンファレンスを重ねて検討した結果をまとめたものである。
【利用者紹介】
Aさん:女性、83歳、アルツハイマー型認知症
著しい収集行為や突発的な暴力行為のため、精神科病院へ入退院を経て2024年8月に再入所した。入院によりADLが著しく低下し、生活全般にわたり介護が必要な状態となった。
【実践】
目的:倫理的視点に基づいて今までのケアを検証し、今後のケアの方向性を定める。
方法:計3回のカンファレンスごとにテーマを設定し、段階的に検討を行った。
期間:2024年9月~10月
カンファレンス第1回
テーマ:「今までのケアの検証、以前のAさんのニーズとは何か?」
・入所当初は、塗り絵や絵葉書に興味を持っていた。レクリエーションに参加し、歌唱や体操などを楽しむことが好きであった。
・食事が配膳されるのをとても楽しみしていて、集中し食べることができていた。
・他の利用者とのトラブルを防ぐ目的から、居室での個別対応を行っていた。そのため、本人の希望やニーズを十分に満たすことができない状況が続いていたが、施設生活を円滑に進める上ではやむを得ない対応であった。
・現在はベッド上で過ごす生活となっており、「本人らしさ」が失われているのではないか。
カンファレンス第2回
テーマ:「現在のニーズは何か?ニーズを満たすためにどうすべきか?」
・今でも「食事」という言葉に良い反応が見られる。
・可能な限り自分で食事をとれるようにしたいが、暴力行為へのリスクを回避する必要がある
・歩行が困難となった現在では、他利用者とのトラブル発生のリスクは低下しており、車椅子での離床は検討可能ではないか。
・「わからない」と言いつつも、職員の声掛けには笑顔を見せることがあり、他者と交流することを望んでいるのではないか。
カンファレンス第3回
テーマ:「今後の課題、利用者本位なケアとは何か?」
・ベッド上での生活は廃用性が進み、自力摂取を妨げる要因にもなるため、毎食時に離床して食事を介助してはどうか。
・現在のAさんの状態を考慮すれば、他者とのトラブルは予防可能だと予測される。
・離床を試みて食事を提供したところ、自分で必死に食べようとしていた。他利用者と同じテーブルで食事をすることは、Aさんの真のニーズであり、利用者本位のケアではないか。
【考察】
第1回では、入所当初のAさんが見せていた「食事を楽しむ」「レクリエーションを喜ぶ」といった反応に着目し、現在のベッド上生活によって失われている本人らしさに対する問題提起がなされた。以前のケアでは、本人の行動は制限され、「本人の希望や楽しみ」が十分に尊重されにくい状況が続いていた。この対応は施設運営上やむを得ない判断であったとはいえ、本人の自己決定や尊厳を保つうえでは課題が残る対応であったと言える。
第2回では、Aさんの細やかな変化に着目した。非言語的な反応からニーズを汲み取る「意思決定支援」という倫理的実践を行うことができた。また、安全面とのバランスをどうとるかという議論も、個人の尊厳と集団の安全という、施設ケアにおける倫理的課題が示された。
第3回では、「廃用の進行を防ぐことは、結果的に本人の自立と尊厳を守ることになるのではないか」という視点と経験的なケアの予測から、毎食時の離床と食事支援が具体的に提案された。これは倫理基準にある「人としての尊厳を大切する、利用者本位」に通じる。
【結果】
自分たちのケアを検証し、Aさんの反応や細かな変化から真のニーズを受けとめ代弁することができた。Aさんの経過を丁寧に観察しながらカンファレンスを重ねたことで、今後のケアの方向性を示すことができ、具体的な支援につなげることができた。このプロセスは、Aさんの自立と尊厳を守るケアの実現につながった。
毎食時に離床して食事支援を実施したところ、Aさんは次第に自己摂取が可能な状態にまで回復した。
【まとめ】
本事例を通して、認知症を伴う利用者に対しても「その人らしさ」や「真のニーズ」に目を向けることの重要性を再認識した。生活歴や日々の反応を丁寧に観察し、スタッフ間で何度も話し合いを重ねることで、「自分で食べたい」「人とともに過ごしたい」という本来の思いに寄り添った支援につながった。一方で、集団生活の場における安全確保や他利用者との関係性、職員の不安といった要因が、個別のニーズの尊重を難しくしている課題も見られた。今後も私たち介護職は、「利用者本位」「尊厳の保持」といった倫理的視点を持ち続け、多職種との連携と対話を重ねながら、利用者一人ひとりの「真のニーズ」をくみ取り代弁していく役割を果たしていきたい。
日本介護福祉士会倫理綱領には、介護福祉士の役割として「利用者本位、自立支援」、「利用者ニーズの代弁」が掲げられている。しかし、施設という集団生活の場においては、個人のニーズより集団の安全が優先されることがある。やむを得ず本人の望む生活を制限せざるを得ない場面もあり、私たち介護職はたびたび倫理的ジレンマに直面する。また、認知症によって、真のニーズを把握すること自体が難しいという現実もある。
本報告では、認知症があり、暴力行為のある利用者に対して「本人の真のニーズは何か」、「利用者本位のケアとは何か」という倫理的視点に基づいて、カンファレンスを重ねて検討した結果をまとめたものである。
【利用者紹介】
Aさん:女性、83歳、アルツハイマー型認知症
著しい収集行為や突発的な暴力行為のため、精神科病院へ入退院を経て2024年8月に再入所した。入院によりADLが著しく低下し、生活全般にわたり介護が必要な状態となった。
【実践】
目的:倫理的視点に基づいて今までのケアを検証し、今後のケアの方向性を定める。
方法:計3回のカンファレンスごとにテーマを設定し、段階的に検討を行った。
期間:2024年9月~10月
カンファレンス第1回
テーマ:「今までのケアの検証、以前のAさんのニーズとは何か?」
・入所当初は、塗り絵や絵葉書に興味を持っていた。レクリエーションに参加し、歌唱や体操などを楽しむことが好きであった。
・食事が配膳されるのをとても楽しみしていて、集中し食べることができていた。
・他の利用者とのトラブルを防ぐ目的から、居室での個別対応を行っていた。そのため、本人の希望やニーズを十分に満たすことができない状況が続いていたが、施設生活を円滑に進める上ではやむを得ない対応であった。
・現在はベッド上で過ごす生活となっており、「本人らしさ」が失われているのではないか。
カンファレンス第2回
テーマ:「現在のニーズは何か?ニーズを満たすためにどうすべきか?」
・今でも「食事」という言葉に良い反応が見られる。
・可能な限り自分で食事をとれるようにしたいが、暴力行為へのリスクを回避する必要がある
・歩行が困難となった現在では、他利用者とのトラブル発生のリスクは低下しており、車椅子での離床は検討可能ではないか。
・「わからない」と言いつつも、職員の声掛けには笑顔を見せることがあり、他者と交流することを望んでいるのではないか。
カンファレンス第3回
テーマ:「今後の課題、利用者本位なケアとは何か?」
・ベッド上での生活は廃用性が進み、自力摂取を妨げる要因にもなるため、毎食時に離床して食事を介助してはどうか。
・現在のAさんの状態を考慮すれば、他者とのトラブルは予防可能だと予測される。
・離床を試みて食事を提供したところ、自分で必死に食べようとしていた。他利用者と同じテーブルで食事をすることは、Aさんの真のニーズであり、利用者本位のケアではないか。
【考察】
第1回では、入所当初のAさんが見せていた「食事を楽しむ」「レクリエーションを喜ぶ」といった反応に着目し、現在のベッド上生活によって失われている本人らしさに対する問題提起がなされた。以前のケアでは、本人の行動は制限され、「本人の希望や楽しみ」が十分に尊重されにくい状況が続いていた。この対応は施設運営上やむを得ない判断であったとはいえ、本人の自己決定や尊厳を保つうえでは課題が残る対応であったと言える。
第2回では、Aさんの細やかな変化に着目した。非言語的な反応からニーズを汲み取る「意思決定支援」という倫理的実践を行うことができた。また、安全面とのバランスをどうとるかという議論も、個人の尊厳と集団の安全という、施設ケアにおける倫理的課題が示された。
第3回では、「廃用の進行を防ぐことは、結果的に本人の自立と尊厳を守ることになるのではないか」という視点と経験的なケアの予測から、毎食時の離床と食事支援が具体的に提案された。これは倫理基準にある「人としての尊厳を大切する、利用者本位」に通じる。
【結果】
自分たちのケアを検証し、Aさんの反応や細かな変化から真のニーズを受けとめ代弁することができた。Aさんの経過を丁寧に観察しながらカンファレンスを重ねたことで、今後のケアの方向性を示すことができ、具体的な支援につなげることができた。このプロセスは、Aさんの自立と尊厳を守るケアの実現につながった。
毎食時に離床して食事支援を実施したところ、Aさんは次第に自己摂取が可能な状態にまで回復した。
【まとめ】
本事例を通して、認知症を伴う利用者に対しても「その人らしさ」や「真のニーズ」に目を向けることの重要性を再認識した。生活歴や日々の反応を丁寧に観察し、スタッフ間で何度も話し合いを重ねることで、「自分で食べたい」「人とともに過ごしたい」という本来の思いに寄り添った支援につながった。一方で、集団生活の場における安全確保や他利用者との関係性、職員の不安といった要因が、個別のニーズの尊重を難しくしている課題も見られた。今後も私たち介護職は、「利用者本位」「尊厳の保持」といった倫理的視点を持ち続け、多職種との連携と対話を重ねながら、利用者一人ひとりの「真のニーズ」をくみ取り代弁していく役割を果たしていきたい。
