講演情報
[27-O-D002-05]BPSD悪化後に金銭管理を多職種連携で行い改善した事例
三重県 ○田中 佐知 (介護老人保健施設あのう)
【はじめに】行動・心理症状(以下BPSD)の治療は環境への不適応ととらえ、環境を整える、対応方法を工夫することが原則である。そして「その人らしさ」を大切にし、認知症という疾患ではなく認知症をもつ「人」をみつめ、その人の生活の質を高めることを目標とした治療を目指すことが重要である。今回、当施設において入所時からBPSDが出現していた利用者が転倒事故後に物盗られ妄想を中心に症状を悪化し介護負担も増強した症例を経験した。これに対し手作りのお札と通帳を作成し、金庫の管理やお札の取り換えといった役割を介護士や支援相談員に担ってもらい本人と一緒に金銭管理することでBPSDが改善し、介護負担の軽減にも繋げることができたため報告する。
【症例紹介】80代女性。現病歴アルツハイマー型認知症、直腸腫瘍、高血圧症。保続があり主訴の確認が困難。生活背景は自宅で趣味である畑仕事をしながら生活してきたが、認知症の症状悪化により有料老人ホームに入所。他者との交流多く、塗り絵等の趣味を楽しまれる。直腸腫瘍の手術施行し退院するも脱抑制的な行動やトイレ動作の介助量が増加し、当施設入所に至る。
【入所当初の日常生活状況と評価】移動方法は独歩。夜間の起き上がりが頻回であるため、眠りSCANとナースコール・マットを設置。入所から1週間はトイレの場所が理解できず放尿行為が頻回にあり「えらいことした」「こわかった」と話される。トイレ誘導を要し、汚染した尿パッドを触る不潔行為がみられた。主訴の確認が保続により困難であったため口頭での興味・関心の質問ではなく、生活背景から作業項目を写真で提示し反応を評価した。その結果「畑仕事」「塗り絵」「他者交流」「カラオケ」「クイズ」に興味を示し、「好きな歌手がいる」「簡単な計算クイズが好き」と話された。以上から「安全な歩行動作・トイレ動作を獲得でき穏やかな生活を送れる」「趣味活動により他者との交流を持つことができる」ことをリハビリテーション(以下リハビリ)の目標とした。リハビリProgramは歩行訓練、趣味活動を実施。評価方法はNPI-NH、BPSD25Q、MMSE、Barthel Index(以下BI)を実施した。NPI-NH: 重症度9/30負担度13/50、BPSD25Q:重症度36/125負担度44/125、MMSE:12/30、BI:65/100
【転倒前後の日常生活状況と評価】入所1か月後、放尿行為と夜間の起き上がりが減少し穏やかにフロアで過ごされるようになっていたが、直腸腫瘍の影響による排泄後の出血がみられた。「なんかこわい」「心配なんです」と話し、不穏・徘徊と多弁の度合いが強まった。夜間に転倒し前頭部を負傷。救急搬送され縫合処置後に帰所された。朝から何度もお金の所在を確認され物盗られ妄想がみられた。その後、夜間の起き上がり頻回となり前額部の負傷による視界不良と不眠の影響で歩行不安定となった。保続と興奮状態の悪化により、リハビリに誘うことが困難となった。転倒後の評価は以下。NPI-NH: 重症度17/30負担度28/50、BPSD25Q:重症度58/125負担度56/125、MMSE:実施困難、BI:50/100
【金銭管理の介入開始と実践方法、その後の評価】物盗られ妄想の介入として、手作りのお札と通帳を作成し、共に金銭管理を行うこととした。認知症フロアであるため本物のお札と通帳の管理は本人だけでなく他利用者による破損や収集、置き忘れ等が考えられたため実施困難と考えた。また手元にいつでも金庫があり、一緒に管理してくれる人がいることで安心感を得られると考え、金庫の管理を介護士、お札の預金や出金、破損の取り換えといった銀行員役を支援相談員に担ってもらい、歩行訓練も兼ねて訪れることとした。通帳はお金がしっかり残っていることを大きな文字で記載し、好きな歌手の名前や画像も加えることで前向きな感情が働くよう工夫を行った。介入1か月後の評価は以下。NPI-NH:重症度16/30負担度21/50、BPSD25Q:重症度42/125負担度38/125、MMSE:12/30、BI:65/100
【結果】介入後のNPI-NHとBPSD25Qともに重症度と負担度が減少するという結果となった。転倒後のMMSEはBPSDの悪化から実施困難であったが、介入後のMMSEは入所当初と同得点であった。BIも転倒後は「移乗」「平地歩行」「階段昇降」で介助量が上がったが、介入後は自立度が上がり同得点となった。歩行訓練等が可能となり手持ちのお札を活用した計算問題も実施すると穏やかな表情で取り組まれた。介護士からは「夜間帯に頻回に起き上がりがあっても、座ってお札を数えてくれるようになったので見守りが楽になった」という声が聞かれた。
【考察】「物盗られ妄想」の発現機序を解釈する上で、1認知症による脳機能の変化、2認知症と関係しない別の障害、3環境に対する個人の反応の3つの側面を考える必要があると示唆されている。今回1においては入所当初から「不潔行為」といったBPSDの症状が強く見られており、自己肯定感が損なわれていた可能性が考えられる。2においては排泄時の出血、前頭部の負傷と歩行不安定があげられ不安の増幅に影響したと考えられる。3においては荷物は倉庫に収納され、管理は職員が行っており自分の物の所在が分からない状態であった、また夜間帯はほとんどの他利用者は就寝し、職員1人で対応しており孤独感を感じていた可能性が考えられる。これら3つの側面に対して介入後、1自分で金銭管理ができるという安心感と自己肯定感の高まり、2安定した歩行の獲得、3自分の所持物を常時確認できる環境の改善、多職種で金銭管理に関わったことにより孤独感が減少したと考えられる。物盗られ妄想では、誘因を減じる介入と妄想にとらわれている時間から遠ざける介入が有用であると示唆されている。今回、金銭管理を本人が行えるように環境を整えたことと、多職種連携で一緒に金銭管理することで誘因を減少させることができ、穏やかな生活に繋がったと考える。
【症例紹介】80代女性。現病歴アルツハイマー型認知症、直腸腫瘍、高血圧症。保続があり主訴の確認が困難。生活背景は自宅で趣味である畑仕事をしながら生活してきたが、認知症の症状悪化により有料老人ホームに入所。他者との交流多く、塗り絵等の趣味を楽しまれる。直腸腫瘍の手術施行し退院するも脱抑制的な行動やトイレ動作の介助量が増加し、当施設入所に至る。
【入所当初の日常生活状況と評価】移動方法は独歩。夜間の起き上がりが頻回であるため、眠りSCANとナースコール・マットを設置。入所から1週間はトイレの場所が理解できず放尿行為が頻回にあり「えらいことした」「こわかった」と話される。トイレ誘導を要し、汚染した尿パッドを触る不潔行為がみられた。主訴の確認が保続により困難であったため口頭での興味・関心の質問ではなく、生活背景から作業項目を写真で提示し反応を評価した。その結果「畑仕事」「塗り絵」「他者交流」「カラオケ」「クイズ」に興味を示し、「好きな歌手がいる」「簡単な計算クイズが好き」と話された。以上から「安全な歩行動作・トイレ動作を獲得でき穏やかな生活を送れる」「趣味活動により他者との交流を持つことができる」ことをリハビリテーション(以下リハビリ)の目標とした。リハビリProgramは歩行訓練、趣味活動を実施。評価方法はNPI-NH、BPSD25Q、MMSE、Barthel Index(以下BI)を実施した。NPI-NH: 重症度9/30負担度13/50、BPSD25Q:重症度36/125負担度44/125、MMSE:12/30、BI:65/100
【転倒前後の日常生活状況と評価】入所1か月後、放尿行為と夜間の起き上がりが減少し穏やかにフロアで過ごされるようになっていたが、直腸腫瘍の影響による排泄後の出血がみられた。「なんかこわい」「心配なんです」と話し、不穏・徘徊と多弁の度合いが強まった。夜間に転倒し前頭部を負傷。救急搬送され縫合処置後に帰所された。朝から何度もお金の所在を確認され物盗られ妄想がみられた。その後、夜間の起き上がり頻回となり前額部の負傷による視界不良と不眠の影響で歩行不安定となった。保続と興奮状態の悪化により、リハビリに誘うことが困難となった。転倒後の評価は以下。NPI-NH: 重症度17/30負担度28/50、BPSD25Q:重症度58/125負担度56/125、MMSE:実施困難、BI:50/100
【金銭管理の介入開始と実践方法、その後の評価】物盗られ妄想の介入として、手作りのお札と通帳を作成し、共に金銭管理を行うこととした。認知症フロアであるため本物のお札と通帳の管理は本人だけでなく他利用者による破損や収集、置き忘れ等が考えられたため実施困難と考えた。また手元にいつでも金庫があり、一緒に管理してくれる人がいることで安心感を得られると考え、金庫の管理を介護士、お札の預金や出金、破損の取り換えといった銀行員役を支援相談員に担ってもらい、歩行訓練も兼ねて訪れることとした。通帳はお金がしっかり残っていることを大きな文字で記載し、好きな歌手の名前や画像も加えることで前向きな感情が働くよう工夫を行った。介入1か月後の評価は以下。NPI-NH:重症度16/30負担度21/50、BPSD25Q:重症度42/125負担度38/125、MMSE:12/30、BI:65/100
【結果】介入後のNPI-NHとBPSD25Qともに重症度と負担度が減少するという結果となった。転倒後のMMSEはBPSDの悪化から実施困難であったが、介入後のMMSEは入所当初と同得点であった。BIも転倒後は「移乗」「平地歩行」「階段昇降」で介助量が上がったが、介入後は自立度が上がり同得点となった。歩行訓練等が可能となり手持ちのお札を活用した計算問題も実施すると穏やかな表情で取り組まれた。介護士からは「夜間帯に頻回に起き上がりがあっても、座ってお札を数えてくれるようになったので見守りが楽になった」という声が聞かれた。
【考察】「物盗られ妄想」の発現機序を解釈する上で、1認知症による脳機能の変化、2認知症と関係しない別の障害、3環境に対する個人の反応の3つの側面を考える必要があると示唆されている。今回1においては入所当初から「不潔行為」といったBPSDの症状が強く見られており、自己肯定感が損なわれていた可能性が考えられる。2においては排泄時の出血、前頭部の負傷と歩行不安定があげられ不安の増幅に影響したと考えられる。3においては荷物は倉庫に収納され、管理は職員が行っており自分の物の所在が分からない状態であった、また夜間帯はほとんどの他利用者は就寝し、職員1人で対応しており孤独感を感じていた可能性が考えられる。これら3つの側面に対して介入後、1自分で金銭管理ができるという安心感と自己肯定感の高まり、2安定した歩行の獲得、3自分の所持物を常時確認できる環境の改善、多職種で金銭管理に関わったことにより孤独感が減少したと考えられる。物盗られ妄想では、誘因を減じる介入と妄想にとらわれている時間から遠ざける介入が有用であると示唆されている。今回、金銭管理を本人が行えるように環境を整えたことと、多職種連携で一緒に金銭管理することで誘因を減少させることができ、穏やかな生活に繋がったと考える。
