講演情報

[27-O-D002-07]ひもときシートを用いたチームアプローチ

奈良県 西川 諭 (介護老人保健施設 鴻池荘)
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【はじめに】
認知症専門棟では利用者の状態により様々なBPSDが生じており、不定愁訴等の繰り返す訴えに対して職員の判断で対応する事も多く、悪循環に繋がりやすい現状がある。今回、不定愁訴が強い利用者に対し、ひもときシートを用いてチームアプローチをした結果、不定愁訴が軽減され過去の職業を用いた活動が定着する等のQOL向上に繋がったため報告する。
【倫理的配慮】
個人に関する情報を削除し対象を特定できないように配慮した
【事例紹介】
A氏80歳代女性
自立度:B‐1・認知度:IIIa
介護度:要介護2
疾患:アルツハイマー型認知症等
内服:胃薬2種類
生活歴:ナイチンゲールに憧れて子育てをしながら看護師として働く。退職後は家で日記や手紙をよく書いていた。物忘れが頻繁になった頃から施設へ入所するが転倒による骨折を繰り返す。胃痛の訴えが頻回に聞かれるようになり精神科病院に入院し内服調整後、当施設に入所。
【方法】
・ひもときシートを用いて、評価的理解・分析的理解・共感的理解を多職種でアセスメントしケア内容の検討と実践
・BPSD25Qを用いて介護保険主治医意見書の周辺症状を網羅した25の評価項目からBPSDの出現頻度と対応の困難さ(重症度)、対応への負担(負担度)を0~5点で数値化し、取り組み前後の点数を比較する。得点が高いほど重度であることを示している。
【経過・結果】
入所時より不定愁訴が強く、起床以降「胃が痛い」「薬を下さい」と言った訴えが頻回にあり、内服を服用後も同様の訴えが続く。BPSD25Qによる初回評価は15点。特に「不安そうに動き回る」「忘れて何度も尋ねる」共に重症度5点、負担度4点と重度を認める結果であった。そこで、ひもときシートを用いたアセスメントを開始した。まず、課題整理を行いながら評価的理解を進めた。援助者の課題として、頻回に続く胃痛への訴えが挙がり、薬を服用したことを理解して、安心した生活が送れることを対応方法とした。次に、分析的理解を進める中で「病気や身体不調による影響」と「心理的背景や周囲の人の関わり方や態度による影響」の項目から、過去の疾患や難聴により交流が苦手な所から不安感が強く自信が低下している背景因子と「要望・障害程度・能力の発揮とアクティビティーとのズレ」と「生活歴・習慣・馴染みと現状のズレ」の項目から、看護師といった過去の仕事に生きがいを感じている本人の要望や願いに繋がる気づきを多職種と共有した。リハビリによる認知機能評価は、日時場所の見当識、短期記憶の低下が著明であった。看護師は胃痛に関して食事量に変化がなく苦痛な表情が見られない事と何かに集中している時は胃痛の訴えを認めない事から、精神科医へ相談し、「胃痛は身体症状へのとらわれや不安焦燥から出現している」といった結果を共有できた。各職種の評価を元に共感的理解を進めた。胃痛による不安が和らぎ、自信のあった過去を思い出して集中できる活動を実施する事をケア方針に定めた。ケア内容として、繰り返す胃痛の訴えに対して、(1)胃痛の緩和を目的に「精神科医と相談し胃薬に変わる偽薬を手渡す(2)当識や短期記憶の代償手段として「服用時間を記載したメモを手渡しA氏と振り返る。」(3)A氏の生きがいとなった過去の職業に繋げる活動として「ナイチンゲール誓書の書き写しや仕事時代の回想」を行った。結果、偽薬を服用した事が胃痛の緩和に繋がり、自らメモを見返して服用時間を確認される等、不安感の解消に繋がった。書き写し等の活動では、集中して取り組める活動として定着し、次の薬を飲むまでの待ち時間に実施出来ている。BPSD25Qによる再評価の結果、総合12点。重症度:5点→3点、負担度4点→2点と減少も見られた。
【考察】
症状・疾病でわかる高齢者ケアガイドブックにある「認知症の理解とケア」には、不安な訴えに対して、原因は何か、身体疾患が発症・悪化はしていないか、環境が不安感や混乱を招いていないか、薬の副作用ではないか、ケアは適切かなど、原因・要因を確認し、あれば改善していく事が認知症ケアの本質であり重要なことであると記されている。今回使用したひもときシートは援助者中心になりがちな思考を本人中心の思考に転換し、援助者の課題を本人の要望や願いに置き換えて課題解決に導く思考展開シートと言われており、BPSDの原因・要因を思考展開エリアに含まれる8つの視点から確認していく事が出来る。A氏の繰り返される不定愁訴に対しては、疾患や身体不調による影響と生活歴・習慣・馴染みのある暮らしとのズレがBPSDを引き出した要因であり、看護師として活躍していた過去を取り戻すといった本人を軸にした思考へと展開され、集中して取り組める活動を見つける事が出来た。認知症介護研究・研修東京センターが実践したBPSDの予防・軽減を目的としたチームケア推進に関する調査研究報告書では、施設等におけるチームケアの効果的実践方法として、ケアの評価は多職種からの意見を参考にする事で新たな視点で評価する事に繋がると報告されている。今回、ひもときシートを進める中で看護師が行った精神科医との相談内容やリハビリが行う認知機能の評価を共有できたことが課題整理をする中で新たな視点となり、胃痛の緩和や記憶の代償手段の検討に繋がり活動と合わせて実践できた。A氏にとっては胃痛や内服時間の不安が減少した中で馴染みのある活動に集中出来たことで生きがいの再獲得となりBPSDの軽減に繋がったと考える。
(参考資料)
・症状・疾病で分かる高齢者ケアガイドブック(中央法規 2012年9月発行)
・ひもときシートガイドライン 改訂版(認知症介護研究・研修東京センター 2010年11月改定)
・認知症の行動・心理症状(BPSD+Q/BPSD25Q)解説(認知症介護研究・研修東京センター  2021年8月加筆)
・BPSDの予防・軽減を目的としたチームケア推進に関する調査研究報告書(2025年3月報告)