講演情報

[27-O-D003-01]関わりを再考してウェルビーイング充足に至った一例‐認知症ケアモデルを用いて‐

愛知県 小川 優喜, 伊藤 友一, 三浦 ゆかり, 伊藤 佳那子, 萬谷 里奈 (介護老人保健施設リハビリス井の森)
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【はじめに】
 認知症の方のウェルビーイングを高めることは重要であり、ウェルビーイングの低下は認知症の行動・心理症状(以下、BPSD)を悪化させると言われている。
 今回、心身の不調による苦悩や不安、それに伴う周囲への怒りにより、リハビリ内容へのクレームや通所拒否言動が出現し、介入に難渋した認知症症例を担当した。症例はリハビリ開始時より著明な心身機能の低下は認められず、日常生活動作も自立していた。そのためリハビリ目標を「四肢筋力・運動耐用能の向上、日常生活動作能力の維持向上」として介入を進めていた。しかし利用から3ヶ月頃より「肩・腰が悪いのにマッサージをしてくれない」「通所を辞めたい」等の訴えが聞かれるようになった。加えて家庭内でも「苛立ち・困り事があると家族と口論になる」等のBPSDが出現していた。
 認知症ケアモデルを用いて評価の見直し行い、関わり方を再考したことにより通所への訴えや家庭内でのBPSDが減少し、ウェルビーイングの充足に至ったため報告する。
【倫理的配慮】
ヘルシンキ宣言に準じ、個人情報が特定できないよう配慮した。また、発表に関連して開示すべき利益相反は無い。
【症例紹介】
年齢・性別:80代男性
診断名:アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症
既往歴:前立腺癌・膀胱癌術後、両肩腱板損傷術後、ADHD
性格:社交的、短気、自己中心的、思い込みが激しい
介護度:要介護2
家族構成:長女家族(長女夫婦・孫2人)と同居で日中は独居、キーパーソンは長女
 介入までの経緯:諸症状(食欲不振、意識消失、転倒、BPSD)で家族が介護に疲弊しており、通所リハビリ利用2ヶ月前に近隣病院へレスパイト入院
 X年Y月当施設通所リハビリ利用開始。Barthel Index(以下BI):85点、HDS-R:28点、認知症段階:反省的思考期、リハビリ目標を「四肢筋力・運動耐用能の向上、日常生活動作能力の維持向上」として同意を得る。
 Y+1月長女の入院により当施設入所
 Y+2月当施設退所して通所リハビリの利用再開。BI:100点、HDS-R:26点、認知症段階:反省的思考期、通所リハビリ開始時と同様の目標を設定し同意を得る。
 Y+3月に同様の目標を再度設定して説明するが、同意を得られず「肩・腰が悪いのになぜマッサージをしてくれない」「病院に行けないので通所リハビリを辞めたい」等の心身の不調に伴うリハビリ内容への不満、通所リハビリ利用の拒否発言が聞かれた。同時期に介護支援専門員より、「苛立ち・困り事があると家族を責める」「病院に一人で行くが、医師の説明が理解できずパニックを起こす」「身勝手な行動と泣いて謝罪を家庭内で繰り返す」「物盗られ妄想がある」などのBPSDが家庭内で顕著になっていると情報が得られた。
【方法】
 認知症ケアモデルを用いて認知症段階の見直しを行った。反省的思考期は他者と円滑な関係が築け、柔軟な思考や手段の取捨選択が可能な状態である。本症例もリハビリ利用開始時は、行動・学習・記憶などの面で減点要素が無い状態と評価し、反省的思考期と評価した。しかし3ヶ月経過後の通所リハビリ利用時の言動や家庭内での出来事は明らかに反省的思考期の認知症段階と相違があり、症例は肩や腰の痛みに伴う「苦悩」や「不安」、周囲が自分を理解していないと感じる「怒り」などのウェルビーイングの喪失が、「自己中心性の増大」「外部環境への適応能力の減少」という象徴期の特性によって顕著になっている状態であると判断して認知症段階を象徴期に見直した。
 症例に対して象徴期としての介入ができるように関わり方を再考した。目標に関しては一旦取り下げ、「不満・拒否発言がなくなり通所リハビリに対して前向きとなって通所を継続してもらう事」を目標とした。リハビリメニューは日毎にこちらが提案したいくつかの中から症例自身が希望・選択してもらい、マッサージの希望があれば随時行った。また、運動プログラムに関しては自主訓練案の作成を進め、症例が選択した内容を紙面の成果物として残し常に確認できるようにした。
【結果】
 心身の不調に伴うリハビリ内容への不満は減少、通所リハビリに対する拒否発言は無くなり利用は継続した。また、家庭内で聞かれていたBPSDも少なくなったとの報告を受けたためウェルビーイングの充足に至った。
【考察】
 軽度認知症症例は失敗を恐れて活動性が低下し、家族関係が不安定になりやすい時期であり、家族との関わりで被る怒りや悲哀,表現の不適切さからストレスや身体的不調を生じやすく、ケアに携わる専門職は認知症者と家族に起きている状態を丁寧に聴取し、寄り添いつつ介入すべき時を待つという姿勢が必要だとされている。本症例も通所リハビリ時間中に「不安」「混乱」「怒り」が顕在化した事と、家庭内でのBPSDの情報を得た事でウェルビーイングの喪失に気付き、介入方法を見直すきっかけとなった。
 象徴期は思考の柔軟性低下および計画の順守が困難となるため、提供する活動は減弱した能力への向き合いを避け快の感覚を残す事が重要とされている。また自律的な動機や選択はウェルビーイングと関連があるとされている。本症例では活動目標の修正、マッサージでの快の感覚の獲得、自律的な選択場面の増加を心掛けた。これら関わりの見直しにより「不安」「混乱」「怒り」が抑えられウェルビーイングが充足したと考える。
 適切な認知症ケアを実施するには適切な評価に基づく関わり方の選択が重要だが、それを決定するには中核症状の評価だけでなく、BPSDの兆候が無いかなど多方面からの情報が重要である。今回、評価を見直し関わり方を変えたことで、ウェルビーイング充足の結果が得られた。リハビリでの関わりだけでは見えづらい、それらの情報をどのように入手していくかが今後の課題と考える。