講演情報

[27-O-D003-04]認知症の利用者に席を覚えてもらうための取り組み~視覚・嗅覚・聴覚を使ったアプローチ~

山口県 越澤 朋樹 (介護老人保健施設なんわ荘)
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【はじめに】
認知症の中核症状である見当識障害は、日常生活に大きく影響し、不安や混乱を生じやすい。当施設利用者の中でも認知症を抱える方は少なくない。今回、認知症により場所が分からず自分の席を探すA氏に自席を覚えてもらうために視覚・嗅覚・聴覚を使った取り組みを行い、その内容と結果をここに報告する。

【目的】
認知症により自席が分からないA氏に、五感のうち視覚・嗅覚・聴覚の3つを使ったアプローチを行い、どのアプローチが自席を覚えてもらうために効果的であるか検討する。

【期間】
令和6年10月中旬~令和6年12月下旬

【対象者】
A氏 70歳代 女性 既往歴:認知症、過活動性膀胱
要介護度:1 認知症高齢者自立度:IIa HDS-R:7点

【方法】
検証前にA氏へ好きな色や音、匂いなどについてヒアリングを実施し、アプローチ内容を決めた。
それぞれ3日間ずつ以下の取り組みを行い、A氏が自分で自席に戻ることができるか観察をした。席の位置は全期間固定した。検証期間中、ショートステイを利用されることが時々あった。

視覚(1)(10/9~10/18)  テーブルに何も置かずに観察
※途中ショートステイ利用
視覚(2)(10/19~10/30) テーブルに赤色と青色のペーパーフラワーを置いた
※途中ショートステイ利用
視覚(3)(11/1~11/6)   A氏の自宅にあるコアラのぬいぐるみを持参してもらいテーブルに置いた
嗅覚(1)(11/13~11/16) 自席でA氏が好きなオレンジの香りのアロマを焚いた
嗅覚(2)(11/20~11/23) 自席でA氏が使用している柔軟剤の香りのアロマを焚いた
嗅覚(3)(12/4~12/7)  自席でローズマリーの香りのアロマを焚いた
聴覚(1)(12/11~12/14) 自席でA氏が自宅で飼っている犬と同じ犬種の鳴き声を鳴らした
聴覚(2)(12/18~12/21) 自席で川のせせらぎの音を鳴らした
聴覚(3)(12/25~12/28) 自席でA氏の好きな矢沢永吉の曲を鳴らした

【結果】
 A氏が自席に戻ることができたそれぞれの成功率は、視覚1:57.1%、視覚2:16.6%、視覚3:58.3%、嗅覚1:37.5%、嗅覚2:87.5%、嗅覚3:77.7%、聴覚1:77.7%、聴覚2:100%、聴覚3:75.0%であった。
また、取り組み後のHDS-Rは9点と取り組み前に比べ2点アップしていた。
視覚へのアプローチではA氏のコアラのぬいぐるみ、嗅覚へのアプローチではA氏が使用している柔軟剤の香り、聴覚へのアプローチでは川のせせらぎの音を鳴らした際の成功率が高かった。

【考察】
視覚へのアプローチでは、ペーパーフラワーを使った取り組みで成功率が低く、意外な結果となった。また、A氏のコアラのぬいぐるみを置いた場合も思ったほど成功率が伸びなかった。嗅覚・聴覚へのアプローチと比べ全体的に成功率が低かった要因として、検証途中でショートステイの利用があり、環境が変わることで記憶がリセットされてしまった可能性が考えられるため、ショートステイ期間を考慮し、検証を行うべきであった。
嗅覚へのアプローチでは、A氏が使っている柔軟剤の香りが最も成功率が高く、日常的に嗅いでいる匂いが自席の認識に効果的であったのではないかと考える。
聴覚へのアプローチは視覚・嗅覚と比べ最も成功率が高く、特に川のせせらぎの音では成功率が100%であった。A氏が好きな音であることに加え、水の流れる音は一日の中でも耳にすることが多く、生活の中でよく聴く音が自席の認識に効果的であったのではないかと考える。また、聴覚へのアプローチは一番最後に検証を行ったため、席を固定して様々な取り組みを続けた結果、A氏が席の場所を覚え高い成功率となったことも考えられる。

【まとめ】
様々な取り組みから、自席を認識してもらうためにA氏が日常的に嗅いでいる匂いや聞いている音を用いることは効果的であった。現在A氏は自席を認識し、迷うことなく座ることが出来ており、視覚・嗅覚・聴覚の3つの感覚を使い、様々なアプローチを行うことで自席を覚えることができることを今回の事例を通して学ぶことが出来た。今後さらに様々なアプローチを試みて、認知症のご利用者のケアへ活かしていきたい。