講演情報

[27-O-F003-07]メモリーズステップアップ~手続き記憶の上書き・向上~

千葉県 大橋 巧 (介護老人保健施設千葉徳洲苑)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】
今大会のテーマ【想いを継ぎ 技を磨き 人を繋ぐ】と照らし合わせ、高齢者の歩んだ人生の『記憶』を掬い表面化させた上で、認知による記憶衰退を防ぐ為の記憶機能訓練。
人の数ある記憶の中から手続き記憶に着目し、記憶の上書き・向上の二点で研究する。
0→1訓練(上書き)
今までに手続き記憶の無い方に1から記憶を記銘し、記憶の保持に至れるかの研究。
1→100訓練(向上)
今までに保持していた手続き記憶を更に研鑽し、認知症や高齢となった今からでも新たに記憶を記銘出来るかの研究。
【研究目的】
日頃から施設内での活動を持て余し退屈にされている方が多く、リハビリの訓練とは別に老健らしく介護でも何か訓練出来ることが無いか考え、日頃から一番近くで過ごす点と介護にて接する信頼関係の高さを鑑みて、職員も共に達成感を感じれる訓練を行いたい。
普段のレクリエーションとは一風変わった取り組みによって、目新しさと好奇心を刺激し施設内においても記憶に色濃く残るような体験をしていただきたい。
【対象者】
千葉徳洲苑長期入所として施設にて過ごされる高齢者。高齢に伴う認知機能低下が見られ、且つレクリエーション活動や趣味など促しによって活動される利用者様。
A男様(男性) 93歳 要介護1 B子様(女性) 91歳 要介護1
方法
0→1訓練(手続き記憶の上書き)
男性利用者 A男様に何か特別なレクリエーションを実施しないかを提案し聴取。
「特にない」と返答を受け、いくつか候補を挙げ『木工工作』を主軸に訓練を行う。
※本人は「今までやったことないから出来ないんじゃない?」と消極的な様子。
工作の基本となる、設計図の読み取り・木材の組み立て・金槌を用いた釘打ちを職員と合同で1から体験していただき、手続き記憶として新たに上書き記銘する。
1→100訓練(手続き記憶の向上)
女性利用者 B子様は日頃から折り紙を余暇として楽しまれており、中でも折り鶴の製作は頭一つ抜けて秀でており、一度「千羽鶴を折ってみないか」と提案すると約一ヵ月ほどで完成させてしまうほどに意欲と集中力を示されている。
上記の点から、折り鶴にこだわるだけでなく、さらに難易度を上げた折り紙作品の製作を提案すると、B子様はこれに意欲を示し快諾される。
また難易度に段階を設け、長期的に訓練を行うことによって職員の指南が無くとも自立して作品が完成出来るよう、向上した手続き記憶の保持に努める。
【結果】
最初こそ職員に付き合う形での消極的な様子と、木工の目新しさを前に好奇心を抱きながらの参加だったが、合同で完成させた作品に目を光らせ「貰っていいの?」と、大事そうに枕元に置き満足された様子を見せてくれた。
翌月の研究では「何をすればいい?」と先月より積極的な姿勢も窺え、金槌の扱いから木材の接合まで時間を忘れるほど集中する姿が見え、着実に成果を感じた。
また翌月の研究においては「次は何を作るの?」と当初とは打って変わった意欲的な姿勢を見せ、合同で製作をすることの有意義さを見出してくれた。
初回の研究においては今までに無い新たな折り方ということもあり、手こずる様子が窺えており、一度は「やっぱ難しいから簡単なのにしない?」との声もあった。
45分の経過をもってようやく完成に至った時は出来上がった作品を手にして「大変だった」「でもうまく出来てるね」と久しい疲労と達成感を覚えたそう。
それから一週間のスパンで研究を重ねる内に着々と本人の中で慣れを覚え始め、30分から15分と製作時間を縮め、ある時は「今日この後、あれやらない?」と本人から研究の誘いがあるほどに意欲が高まった様子も窺えた。
二カ月が経過し最終的には、職員の出勤早々に「出来上がったから見てくれない?」と本人が指南もなく自らで作品を完成させており、確実な成果をもたらしてくれた。
【考察】
研究を進める過程で、対象者とは別に周囲の利用者様も集まり、時には参加を希望されたりと、意欲の伝播から利用者同士の繋がりにまで発展したことに成果以上の可能性を感じれた。対象者二名が今後も記憶の保持に繋がるよう更なる活動を促したい。