講演情報

[27-O-F004-06]「笑い」と「介護」のハイブリッドアプローチに挑戦花と野菜とお笑い講で、目指せ!みんな「幸せます」

山口県 光成 このみ, 大西 美香, 道中 智子, 柳 幸恵, 白木 千晶, 高橋 裕子 (医療法人和同会介護老人保健施設防府幸楽苑)
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【はじめに】介護老人保健施設防府幸楽苑(以下、当施設)は、山口県防府市大道にある。防府市全体の傾向として、生活環境は良好ながら生産年齢人口の減少や高齢化は進んでおり、独居高齢者や老々介護により自宅での生活が困難なケースも増加している。加えて、2020年以降は新型コロナウィルス感染症の拡大と感染対策による様々な環境の変化によって、当施設としてもそれまで活発に行っていた集団活動を縮小した。このことにより、現在、入所者の楽しみやコミュニケーションの場が少なくなり、生活の中で笑顔が減少したと感じていた。
【目的】近年、エンドルフィンの分泌など「笑い」の科学的効果は証明されつつあり、「笑い」は入所者の精神面や行動面に影響があると考えられる。そこで、今回、入所者のメンタルケアを目的に、入所者の普段の生活に「笑う」機会を提供できないかと考え、「笑い」を取り入れた新たなレクリエーションをチームで考案し実施することとした。
【対象】対象は、当施設の入所者延べ103名(一般棟52名、認知症専門棟51名)内、男性12名、女性91名で、実施期間中の入所者の平均介護度は2.25±1.19であった。実施期間は、2025年5月1日~同年6月30日とした。
【方法】入所者がどうすれば笑顔になるか具体的な方法を考える為、地域の特徴や入所者のこれまでの生活を再検討した。防府市の特徴として、広い土地を利用し野菜や花の手入れをしている家庭が散見し、当施設の入所者の多くも該当した。また、もう一つの特徴として、鎌倉時代から800年以上受け継がれる伝統神事「笑い講」がある。更に、この神事を現代にアレンジした取り組みの一つとして、元気に笑いながら両手を高く挙げる「お笑い三笑」がある。そこで、今回私達は、この「お笑い三笑」を中心とした新たなレクリエーションを行うこととした。また、多くの入所者の馴染の活動である野菜や花の手入れを取り入れることで様々な笑顔を引き出そうと考えた。
方法は、1日1回ホールに集合して集団体操を行い、介護士や看護師等の職員(以下、職員)が全員の前で音頭を取り「お笑い三笑」を実施する。その際、不定愁訴や暴言等が顕著にみられる方や覚醒状態の悪い方、無表情の方をできるだけ側でサポートするようにした。評価方法として、独自に作成した6段階の点数表を用い、職員が毎回全体の様子を観察評価し記録した。野菜や花の手入れについては、入所者の経験値や興味、認知能力、身体能力に合わせて、水やりや草取り、鑑賞など個々に応じた活動を促し観察評価を記録した。
【結果】「お笑い三笑」の点数表評価は、第1週目は「何も言わなくてもしっかり笑った」が7%であり、何らかの介助が必要な方が散在した。しかし、最終週はこれが50%へ向上し、「声かけでしっかり笑った」が33%となった。観察評価では、覚醒状態によって日間差があるが、開始2週間目から自発的に体を動かしたり笑顔になる入所者が増えた。また、日頃殆ど集団活動に参加できない入所者も、「お笑い三笑」が始まると意欲的な発言が聞かれるようになった。野菜や花の手入れでは、帰宅願望や表情が険しく暴力的になる入所者が、職員の声かけで野菜や花に触れることで、言動が穏やかになった。
【考察】日本には古来より「笑う門には福来たる」という諺があるが、現在はその効果が科学的に証明されつつある。矢富ら1)は、「特別養護老人ホームの認知症高齢者に対し、挨拶などの社会的刺激に加えて、快の情動を喚起するための褒める、滑稽な動きをするおもちゃを見せるなどの刺激を加えた結果、外発的情動的笑いや社会的笑いは、MMSE(Mini-Mental State Examination)の得点に有意な相関があった」1)と述べている。また、三宅ら2)は、笑う事により脳が活性化され記憶力が良くなり、腹式呼吸になることで腹筋、横隔膜、表情筋などが大きく動かされ血流が増加する事を報告している2)。その他、脳内ホルモンであるエンドルフィンが分泌され幸福感がもたらされることなども、最近では広く知られるようになった。
今回、「お笑い三笑」と野菜や花の手入れを取り入れた新たなレクリエーションを考案し、当施設の入所者に実施した結果、活動への積極性向上や暴言の減少、笑顔の出現など精神面の活性化が図れた。私達はこれらの結果について、前述した「笑い」による様々な科学的効果が、入所者の発言や行動に良い影響を与えた可能性が高いと考える。
私達が取り組んだ「笑い」と「介護」のハイブリッドアプローチは、入所者のメンタルケアの一助となり、精神面の活性化や、発言や行動に良い影響を与えると感じた。しかし、人間の精神面の変化を客観的に数値化することは難しい。今後は、このアプローチが入所者の日常生活動作や健康面に良い影響を与えることができるか検証し、職員も共に成長できるレクリエーションを行っていきたい。
防府市の地域ブランドである「幸せます」には、「ありがたいです」「助かります」の他に「幸せが増す」という意味も込められている。今後も、入所者そして職員の笑顔を引き出し、幸せが一つでも増えるようなケアを提供していきたいと考える。
【引用・参考文献】
1)矢富直美,他:痴呆性老人における笑いの表出.老年精神医学,7:783-791,1996.12
2)三宅優,他:健康における笑いの効果の文献学的考察.岡山大学医学部保健学科紀要,17:1-8,2007
3)村岡倫子:精神分析からみた笑いの意味.臨床精神医学,32:935-940,2003.13