講演情報

[27-O-G001-03]職員の腰痛軽減に向けて~古武術介護法の導入~

山口県 冨田 康平, 益原 幹人, 山崎 佳代子, 前川 剛志 (介護老人保健施設 宇部幸楽苑)
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【はじめに】
 腰痛は、働く人が業務において罹患することが最も多い疾病であり、全業務上疾病のうちで約6割を占める。これを予防することは労働衛生分野における重要な課題となっている。これまでも行政において重要施策として掲げられ、腰痛の予防対策が推進されてきた。
 職場における対策として、平成6年9月6日(基発)第 547 号「職場における腰痛予防対策指針」において、一般的な予防対策のほか、介護作業等腰痛が多く発生している作業について、個別の対策や腰痛予防体操等が示されている。
 このように、現在に至るまでさまざまな対策が立てられ、多くの事業場において対策の周知・普及が図られている。しかし、依然として腰痛は大きな課題として職場に存在する。 特に、介護業務においては、腰部に過重な負担のかかる作業が多く、実際に、介護業務を含む保健衛生業において発生する業務上疾病のうち、約8割を腰痛が占めている。
 今後、老人介護分野においては、介護労働者の高齢化が見込まれ、腰痛についてもその増加が懸念される。1)
【研究の目的】 
 古武術介護法を使用した腰痛軽減効果を証明する事で、老健職員の腰痛軽減、人材不足に難渋している介護現場の離職防止を目的とする。
【倫理的配慮】
 本研究は当法人倫理委員会の承認を受け実施した。研究対象者、またはその代諸者(家族等)に研究の目的、主旨を説明した。その後に研究への参加の自由を保証し、不参加や辞退することで不利益を被らないこと、匿名化などにより個人が特定できない方法をとり、学会などで発表する時には個人情報は一切含まれないこと伝え、承諾を得た。また、当法人のホームページにてオプトアウト方式で内容を掲載し対応している。
【研究期間】
令和7年4月7日~令和7年12月末日
【対象と方法】 
職員に対してNRS(Numerical Rating Scale)とRDQ(Poland-Morris Disability Questionnaire)の日本語版を利用して腰痛を評価した。
 NRSの点数が5点未満と5点以上で群分けし、その中から古武術介護法を使用する職員を9名選別した。選別方法は年齢、性別を考慮した。
 協力頂く入所者12名をX群6名(平均介護度3.88)、Y群6名(平均介護度3.66)に選別した。選別方法としてはどの重介護の入所者に使用しても、有効であるか確かめる為、平均介護度を考慮した。
 古武術介護法を実践する介護業務として職員へのアンケートで最も負担度の高い、移乗動作、ベッド上での水平移動に限定した。
 古武術介護法の実施方法としてはX群・Y群に対し、前半45日間、後半45日間でインターバル無しに入れ替え、前半終了時と後半終了時後に再度NRSとRDQを測定し、その結果を統計処理(Wilcoxonの符号順位検定)して判定した。
【結果】
 開始時、前半終了時、後半終了時の其々の値で統計処理を実施したが症例数が少なく、有意差は認められなかった。その為、各期間のNRS、RDQの平均値、中央値、標準偏差値で比較した。
 NRSの開始時の平均値は3.22±3.22(小数点第2位)、中央値3、前半終了時の平均値2.44±2.98、中央値1、後半終了時の平均値は1.77±2.14、中央値0、開始時と後半終了時の差の平均値-1.44±1.64、中央値0という結果になった。
 RDQの開始時の平均値は4±4.73、中央値0、前半終了時の平均値1.88±2.84、中央値0、後半終了時の平均値は1.44±1.89、中央値1、開始時と後半終了時の差の平均値-2.55±3.59、中央値0という結果になった。
 結果として有意差は認められなかったがNRS、RDQの点数は開始時より終了時の方が減少し、腰痛が軽減したことは認められた。(図1)(図2)
【考察とまとめ】
 古武術は、古くから日本に伝わる武術である。古武術の 特徴は武士が、刀がなければ棒切れで、棒切れがなければ素手で戦うというように、ひとつの体の動きをあらゆる場面で応用できることである。体の動かし方の特徴は、筋力に 頼らず、体の構造に最も適した合理的な動きをすることである。この古武術の体の動かし方をヒントに、動きの原理 をまとめ、それを介護技術に応用したものが「古武術介護」 である。2)
 今回、データ数が少なく、有意差が出せなかったものの、古武術介護を参考とした介護法を使用することでNRS,RDQの点数では、平均値、標準偏差値、中央値が減少している。
 古武術介護を実施し、職員の意見として多かったのが痛みの軽減、動作時の楽さが多くあった。これらの要因として介助時の体幹の前屈運動が少なくなったためであると考えられる。
文献では、立位姿勢の椎間板内圧を100とすると、前かがみでの座位や腰を曲げての持ち上げ動作などは立位の2倍以上の負担が腰へ掛かるとされる。4)
 更に腰椎の可動域は屈曲40から50°、伸展15から20°、側屈20°、回旋5から7°とされており、従来の介助時に被介護者を抱えながら上記のような可動域を超える無理な体制をとることで、腰痛に影響を及ぼす筋肉や靭帯の連携を崩すこと、脊椎に何らかの疾患を有する者は脊柱管内の圧力が高まることで痛みを誘発させる原因となる。
 一方で、今回使用した移乗動作方法であれば重心が一体化しやすいこと、ベッド上での水平移動も被介護者の体を自分の方向へ引くことにより介護者との距離が近づき介護者の重心を低くする事で無理な体制にならない環境が作れたために腰痛の軽減につながると考える。しかし、古武術介護法はスキル習得に時間がかかることや職員・入所者の個人差・体格差・認知力の差により、使用する事が難しいという意見も一定数あった。
 今後は、データ数を増やして、上記の課題を解決し、古武術介護法の腰痛軽減効果を証明して、介護現場の離職防止に繋げたい。