講演情報

[27-O-G001-07]ノーリフティングケアの定着をめざして寿生苑の取り組みと課題

島根県 高野 伊都子, 來間 厚子, 尾添 由起子, 山岡 鮎美 (介護老人保健施設 寿生苑)
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寿生苑3階 高野伊都子
1.はじめに
寿生苑では、慢性的な人材不足と、職員の腰痛をはじめとする身体的負担の増大という課題に直面している。この状況を改善し、職員が安心して安全に働ける職場、利用者が安全で安心してケアを受けられる体制を構築するため、約半年前にノーリフティングケアの導入を開始した。この取り組みを通じて職員の意識改革が最も重要だと感じ、現状把握のためのアンケート調査を実施。その結果から、今後の課題と具体的な方向性が見えてきたので報告する。
2.方法及び実施
2024年秋に理事長と施設長によるノーリフティングケア取り組み宣言があり職員への説明施行、冬にスタンディングリフトのデモ機を試用し購入。現在寿生苑には、床走行式リフト、スタンディングリフトHUG、シャワートロリー、スライディングボード(臥床用・車いす用)各1台、スライディングシート2枚がある。
以下のステップで取り組んだ。
1)職員へのアンケート調査(痛みについて): 寿生苑入所3階(50床)の看介護職員22名(20~60代)を対象に、腰痛の有無、その他の痛みの有無、疲労感、精神的疲労について調査
2)ノーリフティングケアの必要性に関する勉強会の実施
3)現場での実践促進:
・福祉用具の使い方を共有
・移乗介助が必要な利用者と、職員・利用者に負担がかかる場面を記録
・適切な福祉用具と使用タイミングを検討し写真で示す
・「これだけ体操」のポスターを掲示し、ケア前の実施を推奨
・ボディメカニクスに基づいた不良姿勢の改善を促す
4)ノーリフティングケアの取り組みに関するアンケート調査(現状把握): 勉強会への参加状況、資料の閲覧状況、自己学習の有無、必要性の理解度、各福祉用具の使用状況、「これだけ体操」の実施状況、ボディメカニクス導入状況について調査
3.倫理的配慮
アンケートは無記名とし研究目的以外には使用せず処理した。
4.結果
【痛みに関するアンケート結果】
約5~6割の職員が腰痛やその他の痛みを抱えながら勤務しており、痛みがない職員は2割前後だった。ほとんどの職員が疲労感を感じ、約半数が年々疲れやすくなっていると回答。精神的な問題を感じていない職員は4割だったが、1割の職員は気持ち的に沈み余裕がないと感じている。これらの結果は、職員の身体的・精神的負担軽減が急務であることを示している。
【ノーリフティングケアの取り組みに関するアンケート結果】
・勉強会参加は半数以下だったが、資料はほとんどの職員が目を通し、約2割が自主的に学習していた。結果として、ほぼ全員がノーリフティングケアの必要性を理解していた。
・用具や場面、時間帯によるものの、5~9割の職員が福祉用具を使用できていた。しかし、腰痛がない職員は移乗の際に福祉用具を使わず行った方が早いと感じ福祉用具を使わないケースが見られた。
・「これだけ体操」は8割の職員が実施していた。
・ボディメカニクスを取り入れた移乗方法を実践している職員は3割弱に留まった。
・使用して良かった意見として、入浴時はリフトやHugを使用していて楽に移乗ができる。立位不安定な利用者にHugは助かる。Hugを使用しトイレに行ける利用者が増えた。スライディングボードを使用し移乗がスムーズになったという意見があった。
・その他の意見として、ナースコール対応や見守り対応の利用者が多い時や夜間は難しい。指示が通らない利用者には使いにくい。利用者が怖がって拒否するなど対象者がいない。用具がすぐそばにないので使いにくい。使い方がいまひとつわからない。使用する利用者を明記すると良いなどの意見があった。
5.考察
ノーリフティングケアの必要性は職員のほとんどが理解しているものの、福祉用具の不足や使い方、環境、職員意識などの課題が浮き彫りになった。これらの課題を克服し、「労働安全の視点」と「利用者の自立支援、廃用性症候群予防のケアの視点」でノーリフティングケアを推進するため、寿生苑では以下の計画を立てていく。
1)移乗介助が必要な利用者と負担場面の継続的な特定・共有(現在実施中)
2)福祉用具の使用場面を写真付きで掲示し誰でもわかるように可視化(現在簡単に掲示中)
3)福祉用具の使い方の勉強会・研修会(実技中心)の実施と全職員の習得を目指し福祉用具店と連携
4)必要な福祉用具の計画的購入を働きかける(補助金利用等)
5)夜間が困難な場合日中だけでも積極的に福祉用具を使用する
6)「これだけ体操」の定時実施を促しケア前の習慣化を図る(現在実施中)
7)福祉用具とボディメカニクスを取り入れた移乗方法に関するトレーニングをリハビリ職員と連携して実施
8)関連資料や動画の案内による学習支援
9)自分に合ったベッドの高さでのケア実施など環境調整の促進
10)職員への理解度テストの実施
11)取り組みが軌道に乗った後の腰痛など痛みに関する再アンケート実施
現在は委員会を設置せず、師長と看介護主任が中心となって進めているが、職員に浸透した段階で委員会を設置し、リスクマネジメントのPDCAサイクルを回していく方針である。ルールを定め、教育を通じてスキルを定着させ、実践することで成果が上がると考える。
6.おわりに
ノーリフティングケアを進めていくために必要なことは、職員一人ひとりが「働き方を変える」意識をもてることだと考える。実践しながら有効性を何度も伝えていくことで、使用方法をマスターし、職員利用者共に良い結果が表れれば、職員全員が積極的に使用していけると思っている。数年後の寿生苑に期待したい。