講演情報

[27-O-G002-05]あなたの笑顔が見たくて~家族の協力を得て実現した外出支援~

神奈川県 三浦 綾子, 岩崎 陽一, 八木 勇輝, 平井 良樹, 鈴木 勇人, 佐藤 峰子 (リハビリケア湘南厚木)
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【はじめに】
近年、「介護保険でも介護保険施設での外出は、『努める』範囲として決められているだけであり、施設の外では高齢者に対するリスクとなる要因が多く潜んでいる。」1)ということが示されている等の理由で、外出は積極的に行われていない現状がある。
当施設でも、これまで外出支援の機会が少なく、また知識や経験が不十分なため実践に結び付きにくい状況にあった。
今回事例検討した利用者は、無表情で自己表現が少なく悲観的な発言が聞かれ、居室で過ごす時間が多い状況にあった。この悲観的な傾向は、「介護予防事業の対象となる高齢者は、実際にそうではないのに、『心身の機能低下は回復することはない』と誤解し諦めている。」2)という報告や「施設入所高齢者の生活を考えてみると、一日同じフロアでの生活をするようになり、できるのにさせてもらえない、身の回りのことは何もすることはない。」3)と言われているように生活意欲の低下を招いているといった文献の記述と一致している。
そうした状況のなかで「自宅に帰りたい。」「家に帰ったら餡ぱんが食べたい。」という本人の思いが聞かれた。その思いに着目し、家族や多職種と連携する事で外出支援を実現する事ができた。外出後は自発的な言葉や行動が増え、家族からも前向きな発言が聞かれた。これらの結果から外出支援がもたらす効果を実感したためここに報告する。

【事例検討方法】
1、事例紹介
1)X氏80代男性 要介護度4
2)既往歴 2008年脳出血(左不全麻痺)
      2023年誤嚥性肺炎
      2024年誤嚥性肺炎 COVID-19
3)経過
2023年4月に入所。誤嚥性肺炎とCOVID-19での入院歴があり、3回入退所を繰り返している。2024年8月に自宅外出を実施し、栄養指導を行い自宅での食事提供を実施した。食事形態は全粥、一口大、汁トロミだった。同年10月に再度COVID-19に罹患し入院。嚥下機能が低下し、現在はペースト食となっている。

2、事例検討期間
2025年3月31日~6月30日
4月21日 事前訪問 4月28日 外出当日
3、方法
1)外出支援前後のアンケートを本人と家族へ実施
2)嗜好調査
3)「外出支援計画書」の作成
4)事前訪問:介護士・看護師が自宅環境の確認、家族と外出当日の打合せ
5)外出当日:介護士・看護師が同行し緊急時に備えるため待機
6)表情・言動の記録

4 倫理的配慮本事例検討にあたっては、対象者に対し、検討の目的、個人情報の保護、自由意思による参加であること、および参加を拒否しても不利益は生じないことを文書にて説明し、同意を得た。また、提供いただいた情報は事例検討の目的以外には使用しないことを明記し、同意を得ている。

【結果】外出前に本人と家族へ外出に対する希望についてアンケートを実施した。家族からは「お茶を飲んだり、おやつを食べたい」本人からは「家に帰ったら餡ぱんが食べたい」との希望があった。嗜好調査からも「餡ぱんとヨーグルトが食べたい」と希望が確認された。しかし、嚥下機能の低下により現在はペースト食であるため、多職種と連携し、水羊羹と飲むヨーグルトの提供を家族に依頼した。外出支援計画書を作成し、事前訪問では家族へ本人の嚥下状態を説明し、栄養指導を実施した。外出当日はリビングまで付き添い、再度食べる際の注意点を家族に伝え、安心して過ごせるよう職員は緊急時に備えて屋外で待機した。家族からは「特に問題なく予定外のゼリーも摂取できた」「一番心を許している孫娘が大学の授業前に来てくれた」と報告があり、「次回は散髪に連れて行きたい」との前向きな言葉もきかれた。本人からは「水羊羹がうまかった。飲むヨーグルトは2杯飲んだ」また笑顔で「ありがとうございました」という言葉がきかれた。
翌日、外出後のアンケートでは家族から「不安もあったが楽しく過ごせた」「家族5人で写真を撮れて良かった」と回答があり、本人からは「家の様子を見ることができて良かった」「いつもと違う環境で過ごせて良かった」と回答があった。外出後は悲観的な発言が減り、フロアで過ごす時間が長くなった。離床時にはナースコールを押す回数が増え、「起きるよ」「ありがとう」といった言葉や日常会話も多くなり、表情も穏やかになった。

【考察】今回の外出支援を通じて、本人にとって慣れ親しんだ環境で家族や孫娘と過ごす事ができた。家族の協力や多職種の連携により、安心安全な外出が実現し、本人が自分らしく過ごせた事が満足感につながったと考えられる。また日常生活では笑顔や感謝の言葉が増え、悲観的な発言が減少した事から、外出をきっかけに表情が柔らかくなり自分らしい言葉で気持ちを表現できるようになるなど、生活に対する前向きな変化が見られたと考えられる。家族から「また外出したい」という前向きな言葉が聞かれ、今回の外出が家族にとって良い機会となり、職員とのコミュニケーションを深める場となったと考える。加えてある文献では「高齢者の外出にはたくさんの良い効果があります。認知症やうつ病予防、孤独感の緩和、体力向上など、健康や毎日の活力にもつながります。」4)と報告されている。以上のことから、外出支援は本人の生活意欲の向上や家族と職員との良好な関係を築くなど、多面的な効果を得られたと考える。

【おわりに】
今回の外出支援では、本人の「自宅に帰りたい」という思いに着目し、家族や多職種と連携して支援を実現できた。外出支援の効果を実感したことで、今後も介護の質の向上を目指し継続して支援していきたい。
参考文献
1)堀米史一、古川潤子、高齢者福祉施設における利用者のリスクとリスク要因の調査研究 社会医学研究 2010年 27号(2)P53~59
2)厚生労働省 介護予防マニュアル改訂版
3)中村陽子 高齢者の特別養護老人ホームへの適応、福井大学医学部研究雑誌、2005年6号P45
4)高齢者の外出には良い効果がたくさん!前向きにお出かけするポイント