講演情報

[27-O-J002-04]重度嚥下障害に対するジェントルスティムの活用

東京都 阿竹 綾香, 井上 佐知子, 押川 汐里 (介護老人保健施設ケアセンター南大井)
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1.はじめに
 当施設は、東京都品川区にある2フロア100床(一般棟56床、認知症専門棟44床)の在宅強化型介護老人保健施設である。令和7年6月末現在、入所者の33%が何らかの摂食嚥下障害を呈し経口維持加算の対象となり、令和5年6月と比較し令和7年6月では3.6倍に増加している。また、入所者の18%は日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021(以下、学会分類2021)コード3以下の食形態を提供している。リハビリテーションでは、呼吸機能や口腔機能を高めるブローイングや口腔体操、嚥下筋力の向上を目的とした運動等の嚥下訓練を中心に行っている。
 一方、重度摂食嚥下障害の入所者には、認知機能や高次脳機能の影響から指示が入りにくい方が多く、嚥下訓練が成立しないことに難渋していた。そこで、咽頭感覚の向上、嚥下反射や咳反射の改善が期待でき、痛みが少ないことが特徴である物理療法の干渉電流型低周波治療器ジェントルスティム(以下、GS)の導入を検討、2024年8月より当施設で使用を開始した。今回、約1年の長期入所となった重度摂食嚥下障害を呈する利用者にGSを活用し、ADLを維持している症例を報告する。

2.当施設におけるGS適応について
 摂食嚥下障害を呈するすべての入所者にGSを使用するのではなく、当施設独自の食形態選定のためのフローチャートを用い、主に咽頭期の機能低下が著明な入所者を対象とした。先行期、口腔準備期、咽頭期などの全体に同程度の機能低下がある入所者は、口腔機能運動を主軸にしたアプローチを行い、対象から外した。

3.第一症例
症例:87歳 男性
介護度:要介護5
診断:外傷性くも膜下出血
既往歴:左大腿骨転子部骨折、膀胱がん、アルツハイマー型認知症
現病歴:令和5年11月、自宅にて転倒し、救急搬送。CTで、左前頭葉にくも膜下出血を認め、保存的加療。同年12月回復期リハビリテーション病院へ転院、令和6年5月29日に当施設入所。
身体機能:基本動作および移乗動作は全介助。両上下肢に拘縮あり。
言語機能および認知機能:運動性失語、高次脳機能障害あり。簡単なやりとりが一部可能な程度。不快感に対しては、声をあげたり職員の腕をつねったりする等の拒否反応があった。HDS-Rは実施困難。
口腔内環境:自歯24本。義歯なし。

4.経過
 入所時、前院同様の摂取条件で食事評価実施。普通型車椅子にて、学会分類2021コード4相当(全粥・軟菜)、水分は薄いトロミを全介助で摂取。覚醒不良や頸部後屈、喉頭挙上減弱および嚥下反射惹起遅延あり、唾液でのムセも頻繁に認めた。水分は中間のトロミ、車椅子はリクライニング型へ変更。咽頭残留の疑いがあったため、交互嚥下や追加嚥下を行い、誤嚥に留意しながら食事介助を行うこととした。また、摂取時間短縮のため、提供量を1/2量に減らし栄養補助食品を付加、おやつはマッシュ食へ食下げとした。口腔ケアは、歯列内に歯ブラシが入ると強く噛んでしまうため、マッサージに効果的なくるリーナブラシを併用。リハビリテーションでは、口腔内刺激に対する拒否や従命困難のため、可能な範囲で嚥下訓練を実施した。覚醒状態や嚥下状態に配慮しながら食事介助を行っていたが、入所後約3週目の6月17日発熱があり、急性期病院に入院し誤嚥性肺炎と診断。医師より、誤嚥性肺炎を今後も繰り返す旨の説明がご家族へあった後、同年7月1日に再入所となった。
 再入所時、前院からの指示の下、リクライニング車椅子60度、学会分類コード1相当(粥ゼリー・ムース食)、水分は中間のトロミを全介助で摂取、食後には吸引を行った。前回入所時と同様に、嚥下状態に留意し、交互嚥下や追加嚥下を促した。さらに、当施設では第1人目としてGSの使用を開始した。
 約3ヶ月経過した9月頃より、次第に発語が増え、痰がらみや吸引回数は減少、食事後半にムセは認めやすいものの、十分な自己喀出が可能となり、徐々に効果を感じられるようになった。当初は覚醒不良により摂取中断することが多かったが、現在は安定し継続して摂取可能となっている。
 再入所から現在に至るまでの約1年間の入所生活にて、摂取状況は安定、必要栄養量が経口で確保できており、吸引は不要となった。さらに、栄養状態の指標となるアルブミン値は2.8から3.4へ上昇し、身体機能も維持できている。現在、特養入所の待機中である。

5.考察
 老健では、重症症例の場合、在宅復帰が難しく入所の長期化や入院を繰り返すことが予測される。本症例においても誤嚥のリスクが非常に高いが、GS適用後、発熱や肺炎を起こさず、食形態や摂取条件、ADLを維持することができている。GSにより、咳反射を促すことができ、喀出力の向上が誤嚥予防の一助となっていると考える。また、管理栄養士や歯科衛生士、介護職による、多職種の専門性を活かし、栄養状態や口腔内衛生を保ちながら、施設生活を送っていることも大きな要因といえる。
 老健でGSを活用するメリットは、安全かつ簡便に使用できること、中~長期で評価することができることである。本症例のように、嚥下反射の感覚低下や嚥下反射惹起遅延など、咽頭期における障害が主の症例では、嚥下機能の維持に有効であると判断する。さらに、嚥下訓練が難しい症例であったが、GSは受け入れが良好であり、拒否はみられず継続して使用することができている。認知症や高次脳機能障害を呈する利用者に対し、リハビリテーションの幅が広がると考え、当施設では引き続き活用していきたい。一方、GSの終了時期については、判断が難しいのが現状である。退所後の継続性の有無については、今後の検討課題である。

6.結語
 入所が長期化する入所者では、いかに廃用を防ぐかが重要と考える。そのため、機能の維持と向上、さらには持続可能な環境調整を行い、次の生活の場へ繋ぐことが、老健の大きな役割といえるのではないかと考える。