講演情報

[27-O-L001-01]細かい目標達成が自己肯定感を高め農作業に至った事例

山口県 齋藤 貴紀 (老人保健施設はくあい)
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【はじめに】
当通所リハビリテーション(以下、通所リハ)では、リハマネ会議を行っている。今回6ヶ月間のリハマネ会議を行い、身体機能の向上だけでなく、目標達成の繰り返しが、生活状況の拡大や希望である農作業の再開に繋がったと考えられる事例を経験したため、報告する。
【症例紹介・経過】
A氏70歳代男性、要介護4、日常生活自立度A2、認知症自立度IIa。当通所リハ利用前は、右膝結晶性関節炎の既往あり、要支援1の状態であったが、新型コロナ感染にて約1ヶ月間入院。退院時にはバーサルインデックス(以下、BI)15点→80点の改善見られるも、体力、歩行能力の低下を認め、当通所リハ利用の運びとなる。退院後の自宅生活では入浴以外のADLは概ね自立。移動はピックアップ歩行器を使用。日中のほとんどを、TV鑑賞や臥床して自室で過ごされる。
【方法】
医師も交えてリハマネ会議を6ヶ月間、計6回実施。目標の設定、達成状況の確認、生活の助言を行った (現在も継続中)。
【取り組み】
(リハ会議1ヶ月目)
通所リハ開始時にケアプランと本人、家族の希望である歩行状態の安定、転倒予防を目標にリハビリを開始。同月開催の初回リハ会議時に現時点での身体機能、歩行状態を伝え、自宅の様子を多職種で共有。今後の歩行形態やケアプランの再確認を行う。
(リハ会議2か月目)
リハビリ時のみ4点杖での歩行練習を開始し、自宅生活では洗濯物を畳んだり、食器洗いを行うようになる等、生活状況の変化が見られた。また、医師より屋外歩行の提案を受け、家族とリスク等の可能性について話し合いながら、短期目標として前向きに検討を行う。
(リハ会議3ヶ月目)
リハビリでは4点杖での歩行練習を継続中。自宅内でも伝い歩きや、4点杖での移動を開始。また、自主トレーニング(以下、自主トレ)としてピックアップ歩行器を使用し、自宅外周の歩行を開始。家族からは「徐々に日中の活動量は増加傾向にはあるが、用事以外の時は、臥床して過ごしているので心配」と相談を受け、医師から本人に離床についての必要性を説明し、改善を促す。
(リハ会議4ヶ月目)
引き続き、家事の手伝いを行われているが、本人より新しく「春には玉ねぎの皮むき、夏には田んぼの手伝い、秋には渋柿の手入れをやってみたい」と希望があったため、将来的な目標として設定し、杖を使用しての屋外移動、活動を見据えたリハビリを家族と検討する。
(リハ会議5ヶ月目)
自主トレである自宅外周の歩行をピックアップ歩行器から4点杖とT字杖に変更。また、リハビリでは、目標である農作業や家事を想定して、物を持って歩行が行えるよう、右手に4点杖、左手に重錘を持ち歩行練習を開始。
(リハ会議6ヶ月目)
目標の1つである玉ねぎの皮むきを行える。また、新しい家事活動として、洗濯物を自分で屋外に運んで干す、取り込むようになる。
【結果】
6ヶ月間のリハマネ会議を通し、目標の設定と達成を繰り返す事で、身体機能の向上だけでなく、生活状況、本人の意欲にも変化が見られた。生活面では、日中は自室に閉じこもり、臥床して過ごされる日々であったが、家事を手伝い、自ら自主トレを行うようになるなど離床機会が増えた。意欲の面では、利用当初は「とりあえず上手に歩けるようになりたい」といった、漠然とした目標のみであったが、リハマネ会議を重ねるごとに、「出来るだけ家事を手伝って、家族の負担を減らしたい」「杖を使って歩いてみたい」「春には玉ねぎの皮むき、夏には田んぼの手伝い、秋には渋柿の手入れをしてみたい」といった、具体的な目標や想いが聴取できた。リハマネ会議開始から6ヶ月後には家事に加え、自主トレとして屋外歩行の習慣化、そして、希望であった農作業にも繋がった。
【考察】
今回、A氏に対して6ヶ月間のリハマネ会議行い、生活状況の変化、目標である農作業の再開を可能にした理由は2つあると考えられる。1つ目はA氏の「出来るだけ家事を手伝って、家族の負担を減らしたい」という気持ちを明らかに出来たこと。明日葉1)は「自分は何かの役に立っているという感覚は自己有用感であり、自己有用感とは自己肯定感を構成する1つ」であると述べている。したがって、家事を行うことで家庭内での役割を獲得し、自己肯定感が高まった。そして、その後の自主トレへの取り組みや、具体的な目標の設定など前向きな感情に繋がったと考える。2つ目は自主トレの習慣化である。A氏はリハマネ会議3ヶ月目より、自発的に自主トレとして屋外歩行を行われるようなったが、中島2)は「習慣化が上手くいっている時、その人の自己肯定感は高まっていく」と述べている。以上の要因から、A氏はリハマネ会議を行ってきた6ヵ月間、多職種からの助言やご家族の協力を得ながら家事や自主トレを継続する事で、自己肯定感を高く保つことが出来たと考える。そして、やってみたい事や、なりたい自分を明確に想像出来るようになり、目標の達成を繰り返すことで、最終的にA氏の希望である農作業を行えるに至ったと考える。
【参考文献】
1)明日葉高史,自己実現の技術,2025,76p
2)中島輝, 習慣化は自己肯定感が10割,三笠書房,2025,2p