講演情報

[27-O-L002-01]骨癒合不全により荷重困難となった利用者への退所支援「帰りたい」希望を実現させる為の環境調整

静岡県 大塚 麻由 (富士中央ケアセンター)
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【はじめに】近年、骨粗鬆症による骨折をきっかけに、身体機能の低下やADLが制限される高齢者が増加している。「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し骨折の危険性が増大する疾患である」と定義されている(WHO,1994)。また、認知症による状況理解能力や遂行能力の低下は、日常生活への支障をきたすことが記載されている「老人医学テキスト(改訂第3版)」。中でもトイレでの排泄や歩行獲得については、利用者や家族が強く望む動作である。その為、在宅復帰にむけて家族の病態の理解と協力が重要であると考える。今回、免荷という制約がある中で、車椅子の使用が困難なトイレ内で片脚立位での限定的な歩行と排泄動作を獲得し在宅復帰に至った経過を報告する。
【課題】本症例の課題は1、免荷状態での立位保持能力を生かした移動・排泄動作の評価と練習。2、車椅子でのトイレの使用が困難な住宅環境に対し、本人の希望を尊重した環境調整の検討。3、認知機能低下による理解や記憶保持が困難な中で、動作定着を目指した介入の工夫を検討する事である。
【評価】対象は60代後半の女性。入所より2か月前に階段から転落し左足関節を骨折。手術後も骨折部の癒合不全が認められたため、当施設医により完全免荷の指示が出された。認知機能については、認知症の既往があり、HDS-R25/30点で車椅子は自走レベルだが、ブレーキ忘れ頻回で病識欠如も見られた。また、入所初期には帰宅願望も強く、感情失禁も頻回にみられ、会話の食い違いも多く聞かれていた。身体機能としては左足関節の内反変形と浮腫、糖尿病による下腿の中等度感覚鈍麻、体幹・下肢の軽度筋力低下があった。起居動作は概ね自立していたが、立ち上がりには手すりへの依存と後方へのふらつきが見られた。片手すり把持での片脚立位は両上肢共にふらつきが強く、歩行困難であった。家族構成として、夫・長女・孫と同居。キーパーソンは夫となる。夫は仕事を退職し、土曜日以外は自宅におり介護に意欲的であった。夫の不在時はデイケアの利用希望も聞かれていた。利用者の希望として、家族旅行や趣味の美容を行ないたいと聞かれ、利用者と利用者家族共に在宅復帰を強く望んでいた。また、歩行での在宅復帰を希望していた為、車椅子生活になることを説明したうえで、住宅環境の評価を実施。1階での生活を想定。段差・狭小スペースにあるトイレは車椅子での進入は不可能。ポータブルトイレ使用の提案には本人の拒否があったため、トイレ内は両上肢支持による片脚歩行で移動し、トイレでの排泄を行う事をゴールとした。
【方法】1、週6回20分の理学療法。2、手すりを用いたプッシュアップ動作での立ち上がり練習。3、片脚立位練習。4、感覚入力訓練。5、トイレ環境を模した動線での片脚歩行練習。6、生活リハビリ内で介護職と連携し、サポーターの装着・下衣操作の動作手順の定着。7、家族への病識の共有8、試行的退所にて改修内容の提案と相談を行なった。
【結果】本症例は3ヶ月の介入により、重心移動が円滑に行なえるようになり、立ち上がり時のふらつきが改善し、片脚立位保持時間・バランス能力の向上が見られた。片脚歩行での応用的な歩行はふらつきが強く実用性が乏しかったため、直線歩行に限定し、安全を確保した。トイレ内での下衣操作は生活リハビリの中で繰り返し練習し、見守りレベルで可能となった。しかし、足底感覚への改善は得られず、視覚代償を試みたが荷重時の足部注視が困難で実用性に乏しかった。認知面ではHDS-Rが28点と改善傾向にあったが、骨折の認識やサポーターの装着方法は不十分であり、継続的な見守りを要した。また、入所時にみられた帰宅願望や感情失禁については、他職種連携による傾聴を通して徐々に安定し、目標への理解とモチベーションの向上が見られた。家屋改修では、上がり框に昇降機、各段差には段差解消スロープの設置。車椅子は自動ブレーキ車椅子の使用を提案。トイレ内には据え置き型手すりを使用し、トイレ扉には目隠しカーテンの設置を提案。また、在宅復帰後には当施設のデイケアを利用し、継続支援を図った。
【考察】多くの利用者は在宅復帰にあたり、歩行の獲得を大きな目標としがちである。しかし、本症例のように認知症と免荷という複合的課題を抱える場合には、歩行獲得を唯一のゴールとせず、環境調整や限定的な歩行を目標とし、目的動作に特化した訓練が重要であると感じた。また、認知機能低下や荷重制限などの複数の課題を有していても、家族の協力を得られたことで、トイレでの排泄動作を可能とすることが出来た点は本症例の大きな成果である。一方、動作手順の定着やサポーターの使用については見守りが必要な状態での退所となったことから、認知機能低下のある対象者に対し、家族への具体的な指導を行う事で、失敗しにくい環境調整が重要であると感じた。さらに、足底の感覚障害に対しては視覚代償を試みたが、荷重時に足部を注視することが困難であり、代償手段の限界を実感した。感覚障害のある対象者では転倒や外傷のリスクを十分の考慮した訓練や情報共有が重要だと感じた。今後は認知機能低下を抱える利用者に対して、より理解や遂行しやすい動作の構成を検討していきたい。