講演情報

[27-O-L002-02]高次脳機能障害に対するIADL動作へのアプローチ

愛知県 井上 康平 (老人保健施設愛泉館)
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【はじめに】
今回、遂行機能障害と注意障害を主症状とする高次脳機能障害を呈した症例に対し、I A D L獲得に向けた在宅復帰のための入所リハビリ、その後、在宅生活支援における訪問リハビリまでの一連の介入について経過と結果をここに報告する。

【症例紹介】
70 歳代半ば女性。X 月 Y 日に買い物中に意識消失、右前頭葉皮下出血と診断された。 X 月 Y 日+34 日で回復期病院転院、X 月 Y 日+150 日当施設入所。病前はエレベーターのない団地の5 階で独居、料理など IADL 全般は自立して過ごされていた。今後、在宅復帰にあたっては、高次脳機能障害や体力面の不安が残っており、生活課題としてIADLの再獲得が必要であった。

【作業療法経過】
入所時 ADL は概ね自立、身体機能は麻痺や感覚障害は認めず、認知機能や視知覚機能、構成機能、聴覚性記憶は比較的保たれていたが、高次脳機能障害として極軽度の左半側空間無視と注意機能、 遂行機能に低下を認め、段取り良く行動に移すことが困難であった。
介入当初は遂行機能の精度向上のためハノイの塔を用いて自己教示の誤反応軽減や行動修正出来るか精査した。料理に対しては必要な食材の列挙や料理工程を含めた記入課題を行い、認知機能や視知覚機能を活用した注意力、遂行機能の強化を図った。
入所後1ヶ月半では木製包丁で模擬訓練を行い、工程ごとに動画でフィードバックし改善点の自己認識や反応精度の向上を促した。包丁の扱いは自己教示で誤反応を減少させる訓練を実施した。この時期より内服訓練開始し、薬袋と同じ大きさの日付けカードを取り出しチェック表へ記入、裏に書かれた「朝・夕」の表記に従って破棄ボックスへの仕分け課題を実施した。
入所後2ヶ月には柔らかい食材を使用し成功体験を積んだ後、準備・調理・片付けを一連の流れで実施した。買い物に関しては、実際の宅配サービスの注文用紙を使用し、実生活に 即した手続き記憶による課題を設定して実施。内服は自己管理へ移行し、日付けカードを内服カレンダーにセットし手順を固定して構造化した環境下で訓練は継続した。 高次脳機能障害の後遺症もあり、退所先は元々の居住地から家族支援が受けられる住まいへ変更され、入所から116 日で自宅退所となった。退所後の訪問リハビリでは、服薬管理として視覚的手掛かりを重視した構造化支援を行った。調理では誤操作防止としてコンロの片方の点火スイッチを隠し、使用するコンロを 1 カ所に絞るという環境を設定。使用器具や棚の数を制限し使用範囲を少なくして注意分散 を最小限にする工夫を行った。棚に何が入っているかのラベリングも実施し簡単な工程から始め徐々に品目数を増やし段階付けを行った。

【作業療法の結果】
自己教示と誤りなし学習でのハノイの塔は、行動を内言でモニタリングし計画的に行動を調節出来るようなった。
記入課題では広告など膨大な情報量による混乱がみられ、記入漏れなどが目立った。レイアウトの変更や記入項目を少なくし整理しやすいよう工夫されたことで、情報量が少なくなり 商品名などカテゴリー別に選択が可能となった。このことは退所後の宅配サービスをミスなく注文出来ることに繋がった。
調理では、視覚的フィードバックを繰り返す事で、怪我に繋がるリスクを再認識でき安全な包丁操作が可能となった。食材管理や調理器具等の準備・片付けは注意が分散しないよう環境を調整、行動範囲を狭める事で段取りが改善し、一定の時間短縮・自立度が達成された。しかし、調理中の火加減調節や点火スイッチの混同など危険性の高い操作には課題が残った。
内服では、入所中は薬紛失など頻回に認めていた為、一定の手順を限定して繰り返し、 構造化学習にとどめ手順の習慣化と定着を促した。その後、自宅では家族がセッティングすることで、内服も自立可能となった。

【考察】
ハノイの塔は計画性などを改善するのに有効で遂行機能の回復に寄与し、誤りなし学習による成功体験の積み重ねが注意力や行動修正力の向上に繋がった。記入課題では、記入枠や選択肢を絞り段階付けをする事で情報処理の順序性が明確になり、自己モニタリング の促進や処理の確実性を高める要因となったと考えられる。
調理では、動画でのフィードバックにより成功や改善点を視覚的に確認する事で自己効力感や動機付け、注意の持続に好影響を与え、内在的気づきや行動修正を引き出すことが出来た。目的意識の強化や抑制戦略の定着がみられたことで、安全な包丁操作が獲得出来たと考えられる。台所の環境調節では注意分散が減り必要な物を選び順序立てる事で身体的動作の簡略化による遂行上の成功率向上と認知的選択の負荷が減少したが、点火スイッチと火加減調整レバーが近い位置にあるため、視覚的に目立つレバーに注意が向き、一度選択したものから切り替えられないこともあり分配性注意低下が影響したと考えられる。 内服では、色分けやラベリング、環境設定による視覚化することで、誤薬を防ぐための補償的アプローチとして有効であった。一定の手順を繰り返す事で具体的な作業へと構造化され、退所後も習得した操作がそのまま再現され,誤りなし学習的な枠組みの中で行動パターンが定着し、 生活環境に近い形での訓練と汎化を意識した支援が誤薬のない服薬に繋がったと考えられる。

【まとめ】
今回、服薬管理に関してセッティング以外は自立、調理動作においては火の管理が必要なものは家族の見守りを受けながら、包丁操作は危険行動ない為一人での使用を許可した。 IADL 動作獲得のためには、環境整備や視覚的支援を駆使した訓練が効果的であること示された。