講演情報
[27-O-L002-03]音読の実践がリハビリ意欲の向上につながった一症例
京都府 ○新井 友晶, 北條 勘九朗, 堀口 しおり, 天井 雪絵, 安井 知子, 神田 武範 (老人保健施設第2アールそせい)
【はじめに】
運動意欲の低下は、理学療法プログラム(以降、プログラム)の進捗に強く影響することをしばしば経験する。そして、これは筋力や持久力等の身体機能の低下にも直接的に影響し、ADLの低下を容易に起こし兼ねないと推察する。しかし、このような場合における我々の「励まし」や「説得」は、運動への動機付けには不十分だと言わざるを得ない。そのため、プログラムの難易度の変更並びに負荷量の軽減等、利用者様の意思や尊厳を優先せざるを得ない状況が少なくなかった。意欲の創出は前頭葉の中でも特に前頭前野が担っており、加齢等により前頭葉機能の低下がある場合、そのアプローチのひとつに音読を含めた学習療法が知られている。そこで、今回リハビリテーションを実施するに当たり、運動意欲の低下に起因し実施に難渋した症例に対して、プログラムと併せて音読を取り入れたリハビリテーション(以降、音読リハ)を実施したことで、プログラムの進捗に良い結果を得たため報告する。
【症例紹介】
80代女性。自宅で転倒し左大腿骨頚部骨折を受傷。手術並びに回復期リハビリテーションの加療後、退院の検討に際し認知機能の低下もあり在宅復帰困難と判断、当施設への入所の運びとなった。既往歴には統合失調症・認知症・うつ病を有し、入所時の長谷川式簡易知能スケールは6/30点、入院前ADLは主に食事のみに離床する程度であった。
【音読リハを導入するまでの背景】
入所当日から短期集中リハビリテーションにて介入開始。介入当初から運動を主体とするリハビリテーションに対して非積極的な意思を頻繁に示され、プログラムの完遂に難渋することが多かった。プログラムの詳細は、<プラン1>下肢筋のストレッチを主体とした関節可動域訓練、<同2>下肢筋の筋機能改善を目的とした筋力トレーニング;股-膝関節屈伸抵抗運動・股関節外旋抵抗運動・自重による股関節屈曲運動(各20回)、<同3>移乗動作(1往復)及び立ち上がり動作運動(10回)、<同4>歩行器歩行訓練のそれぞれを立案し、実施を試みていた。
【音読リハの介入に関して】
運動意欲の創出を目的に、リハビリテーション開始前に音読リハの実施を試みた。この音読リハは、セラピストと当該利用者様がマンツーマンで実施。音読する文章を歌謡曲の歌詞や詩から抜粋し、A3用紙に印刷し作製した。実施に当たっては、セラピストがまず一文(10文字程度)を読み、続いて同じ文章を二人合わせて音読した。実施時間は概ね5分とし、それに引き続いてプログラムの実施に至った。なお、音読リハの介入期間は、令和6年2月22日から同年3月21日までの4週間とした。
【音読リハ導入時の評価と効果の検証について】
音読リハの導入に際し、老年期うつ病評価尺度(以降、GDS)の評価を初回及び4週目の計2回実施した。また、プログラムは当初立案していた内容を踏襲し、効果の検証を目的にプログラムの進捗を介入日毎に記録した。記録の詳細は、まず<プラン1~4>の各エクササイズの達成の可否、あるいはその際の介助の有無等から10個の要素に細分化した段階別項目を作り、これを介入日毎に実施に至った同項目に照らし、達成の進捗等を記録した。そして、介入日毎に達成の割合を算出し、これを達成度とした。更に、それらの値から介入期間の前半及び後半、それぞれ2週間毎における達成度の平均値を算出した。
【結果】
GDSの結果は、音読リハ開始1週目:11/15点、音読リハ開始4週目:10/15点。2週間毎の達成度の平均値は、前半は70%、一方後半は95%であった。また、3月20日以降には、歩行器歩行において当初立案していたプランを越える結果(リハ室1→2周、軽度介助→最小介助レベル)がみられるようになった。
【考察】
まず、当該利用者様のような統合失調症等を既往している場合、リハビリテーションをはじめとする運動全般への参加にはこれらの疾患にある程度影響されるものと推察する。一方、臼井ら1)は「学習療法における音読が加齢に伴う前頭前野の機能低下を抑制する可能性を示すものと考えられる」としており、今回音読リハとして介入したのは5分程度という短時間ではあったものの、即時的に一定の効果を得たものと考える。また、高田ら2)は「楽しい会話の導入は短時間の介入であっても自律神経系の働きを活性化し、心の充足感やリラックス感が得られるとともに副交感神経の活動が増加する効果が明らかになった」としており、感想等自由な会話を織り交ぜた音読リハの環境が相乗して、リハビリ意欲の向上に良い効果をもたらしたのではないかと推察する。そして、これらのコミュニケーションを通した人間関係の更なる構築と併せて、体力や筋力等のリハビリテーションそのものの効果が表れ始めたことにより、プログラムにおける歩行距離の漸増並びに介助量軽減等の運動能力の改善につながったのではないかと考える。
【まとめ】
今回、運動意欲の低下によりプログラムの進捗に影響がみられた症例を経験し、その症例に対して音読リハを進めた結果、運動意欲の向上につながりプログラムの進捗に良い結果を得た。そして、これらに起因してリハビリテーションそのものの効果が高まったことで、結果として歩行距離の漸増等の運動能力の改善に至ったと推察される。また、この一連の取り組みからプログラムの進行に着目するばかりでなく、信頼関係の構築等、当事者に寄り添った関わり方が重要であると改めて考えさせられた。
【参考文献】
1)白井信男.学習療法における教材音読が脳活動に与える影響について.
2)高田大輔,松田ひとみ.高齢者の自律神経系の反応からみた「楽しい会話」によるケアの可能性-音読と比較して-.
運動意欲の低下は、理学療法プログラム(以降、プログラム)の進捗に強く影響することをしばしば経験する。そして、これは筋力や持久力等の身体機能の低下にも直接的に影響し、ADLの低下を容易に起こし兼ねないと推察する。しかし、このような場合における我々の「励まし」や「説得」は、運動への動機付けには不十分だと言わざるを得ない。そのため、プログラムの難易度の変更並びに負荷量の軽減等、利用者様の意思や尊厳を優先せざるを得ない状況が少なくなかった。意欲の創出は前頭葉の中でも特に前頭前野が担っており、加齢等により前頭葉機能の低下がある場合、そのアプローチのひとつに音読を含めた学習療法が知られている。そこで、今回リハビリテーションを実施するに当たり、運動意欲の低下に起因し実施に難渋した症例に対して、プログラムと併せて音読を取り入れたリハビリテーション(以降、音読リハ)を実施したことで、プログラムの進捗に良い結果を得たため報告する。
【症例紹介】
80代女性。自宅で転倒し左大腿骨頚部骨折を受傷。手術並びに回復期リハビリテーションの加療後、退院の検討に際し認知機能の低下もあり在宅復帰困難と判断、当施設への入所の運びとなった。既往歴には統合失調症・認知症・うつ病を有し、入所時の長谷川式簡易知能スケールは6/30点、入院前ADLは主に食事のみに離床する程度であった。
【音読リハを導入するまでの背景】
入所当日から短期集中リハビリテーションにて介入開始。介入当初から運動を主体とするリハビリテーションに対して非積極的な意思を頻繁に示され、プログラムの完遂に難渋することが多かった。プログラムの詳細は、<プラン1>下肢筋のストレッチを主体とした関節可動域訓練、<同2>下肢筋の筋機能改善を目的とした筋力トレーニング;股-膝関節屈伸抵抗運動・股関節外旋抵抗運動・自重による股関節屈曲運動(各20回)、<同3>移乗動作(1往復)及び立ち上がり動作運動(10回)、<同4>歩行器歩行訓練のそれぞれを立案し、実施を試みていた。
【音読リハの介入に関して】
運動意欲の創出を目的に、リハビリテーション開始前に音読リハの実施を試みた。この音読リハは、セラピストと当該利用者様がマンツーマンで実施。音読する文章を歌謡曲の歌詞や詩から抜粋し、A3用紙に印刷し作製した。実施に当たっては、セラピストがまず一文(10文字程度)を読み、続いて同じ文章を二人合わせて音読した。実施時間は概ね5分とし、それに引き続いてプログラムの実施に至った。なお、音読リハの介入期間は、令和6年2月22日から同年3月21日までの4週間とした。
【音読リハ導入時の評価と効果の検証について】
音読リハの導入に際し、老年期うつ病評価尺度(以降、GDS)の評価を初回及び4週目の計2回実施した。また、プログラムは当初立案していた内容を踏襲し、効果の検証を目的にプログラムの進捗を介入日毎に記録した。記録の詳細は、まず<プラン1~4>の各エクササイズの達成の可否、あるいはその際の介助の有無等から10個の要素に細分化した段階別項目を作り、これを介入日毎に実施に至った同項目に照らし、達成の進捗等を記録した。そして、介入日毎に達成の割合を算出し、これを達成度とした。更に、それらの値から介入期間の前半及び後半、それぞれ2週間毎における達成度の平均値を算出した。
【結果】
GDSの結果は、音読リハ開始1週目:11/15点、音読リハ開始4週目:10/15点。2週間毎の達成度の平均値は、前半は70%、一方後半は95%であった。また、3月20日以降には、歩行器歩行において当初立案していたプランを越える結果(リハ室1→2周、軽度介助→最小介助レベル)がみられるようになった。
【考察】
まず、当該利用者様のような統合失調症等を既往している場合、リハビリテーションをはじめとする運動全般への参加にはこれらの疾患にある程度影響されるものと推察する。一方、臼井ら1)は「学習療法における音読が加齢に伴う前頭前野の機能低下を抑制する可能性を示すものと考えられる」としており、今回音読リハとして介入したのは5分程度という短時間ではあったものの、即時的に一定の効果を得たものと考える。また、高田ら2)は「楽しい会話の導入は短時間の介入であっても自律神経系の働きを活性化し、心の充足感やリラックス感が得られるとともに副交感神経の活動が増加する効果が明らかになった」としており、感想等自由な会話を織り交ぜた音読リハの環境が相乗して、リハビリ意欲の向上に良い効果をもたらしたのではないかと推察する。そして、これらのコミュニケーションを通した人間関係の更なる構築と併せて、体力や筋力等のリハビリテーションそのものの効果が表れ始めたことにより、プログラムにおける歩行距離の漸増並びに介助量軽減等の運動能力の改善につながったのではないかと考える。
【まとめ】
今回、運動意欲の低下によりプログラムの進捗に影響がみられた症例を経験し、その症例に対して音読リハを進めた結果、運動意欲の向上につながりプログラムの進捗に良い結果を得た。そして、これらに起因してリハビリテーションそのものの効果が高まったことで、結果として歩行距離の漸増等の運動能力の改善に至ったと推察される。また、この一連の取り組みからプログラムの進行に着目するばかりでなく、信頼関係の構築等、当事者に寄り添った関わり方が重要であると改めて考えさせられた。
【参考文献】
1)白井信男.学習療法における教材音読が脳活動に与える影響について.
2)高田大輔,松田ひとみ.高齢者の自律神経系の反応からみた「楽しい会話」によるケアの可能性-音読と比較して-.
