講演情報

[27-O-L002-04]生活行為向上マネジメントによるADL改善~トイレ動作の獲得に向けて介入した事例~

東京都 中村 亜衣奈 (ウエストケアセンター)
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【はじめに】
生活行為向上マネジメント(以下、MTDLP)は、対象者本人が困難さを感じていたり、もっとうまくやれるようになりたい生活行為を支援する、作業療法士の包括的な思考過程を示したものである。MTDLPは7つのプロセスに沿って、生活行為の障害に対する支援策を検討、実践していく。
最初のインテークで本人の望む生活行為について聞き取りを行い、その後、生活行為聞き取りシート、生活行為向上マネジメントシートを使用し、アセスメントから計画修正を繰り返し、目標達成に向けて働きかけていく。
今回、入所中転倒し左大腿骨頚部骨折を呈した90代男性を担当した。MTDLPに沿って目標を共有し、難易度を段階付けながら行うことで目標の達成とADLの向上を図れたためここに報告する。
【目的】
症例の強い希望であったトイレでの下衣操作自立に向け、MTDLPを使用した介入を行い、トイレ動作を獲得する。
【方法】
1.対象症例に対し、MTDLPを用いた介入を行う
2.身体機能及びADLの変化を比較、検討する
【対象症例】
A氏 90代男性 要介護1
診断名:左大腿骨頚部骨折(人工骨頭置換術後)
既往歴:脳幹部梗塞(右延髄腹側)、糖尿病、高血圧、高尿酸血症、大腸がんope後
主訴:「トイレでズボンの上げ下ろしができるようになりたい」
受傷前のADL:脳幹部梗塞の影響による軽度左上下肢麻痺、左体幹・下肢の筋力低下あり。移動は歩行車使用でフロア内自立。排泄は自立で、日中はトイレ、夜間はPトイレ使用していた。
方向性:有料老人ホーム
【結果】
1.初回評価
<トイレ動作>日中トイレ誘導、夜間オムツ使用。トイレ時は縦手すりで起立するが、下肢の開脚が困難で支持基底面が不安定。立位保持は支持物使用下で可能。下衣操作は、大腿近位部付近までの引き下ろしは可能であるが、それ以降は介助が必要。また、方向転換も困難であり、着座時の動揺が著明にみられる。
<筋力(R/L)>上肢 両側MMT4レベル
下肢 股関節屈曲3/2、股関節外転2/2、膝関節伸展3/2、体幹屈曲2
<握力(R/L)> 19kg/9kg
<バランス>BBS:17点
<HDS-R>29点
<自己評価>実行度1/満足度1
2.介入経過
<第一週>
起立・着座の不安定さがあり軽介助が必要。また、排便時の拭き動作で前傾動作が困難。
目標:起立・着座の安定化
介入内容:下肢及び体幹の筋トレ、起立着座の実動作練習、プラットフォーム上での自動介助運動を行った。また、環境面に対しては排便時にウォッシュレットを使用し、拭き動作の簡易化を図った。
<第二週>
前回からの経過:起立・着座は安定してきている。
問題点:トイレ内で手すり使用しながら開脚ができず、支持基底面を広げることができない。立位保持が安定しない。方向転換困難。
目標:股関節外転による支持基底面の拡大。一歩踏み出して方向転換をする。
介入内容:プラットフォーム上での外転運動を自動介助運動で行った。また、立位での重心誘導練習を行い、トイレでの実動作練習を行った。環境面ではCWに起立着座は見守りで行うよう依頼。
<第三週>
前回からの経過:ムラはあるが、トイレでの実動作にて股関節外転運動ができるようになり支持基底面の拡大が可能。立位保持・トイレへの移乗も自立レベルで可能となった。
問題点:大腿遠位部以下への操作が不安定。また、リハパン+パッドのため、操作中パッドの位置調整に時間を要す目標:下衣下げが軽介助~見守りでできるようになる
介入内容:座位での下位操作練習、体幹下肢の筋トレ、セラバンド使用した模擬的な下衣操作練習、実動作を行った。環境面の介入は介護士に移乗動作の自立を伝達し、パッドを貼り付けパッドに変更するよう依頼した。
<第四週>
前回からの経過:片手ずつ使用し、膝関節周辺まで下衣下げ可能。下衣上げの際は支持物を離して両手で可能となり、見守りレベルでの下衣操作が行えるようになった。貼り付けパッドに変更した為、パッドの位置の微調整に時間を取られなくなった。
問題点:下衣上げの際の後方重心によるふらつき
目標:下衣上げ時の安定性向上
介入内容:下肢体幹筋トレ、動的立位バランス練習、実動作練習の実施。
3.最終評価
<筋力(R/L)>上肢:両側MMT5レベル
下肢:股関節屈曲4/2、股関節外転3/2、膝関節伸展5/3、体幹屈曲3
<握力(R/L)>24.5kg/13.5kg
<バランス>BBS:28点
<自己評価>実行度8/満足度8
【考察】
本症例ではMTDLPを採用し、インテークにより「本人が主体的に選んだ目標」を設定、共有した。
課題や目標を明確にし、本人の状態を踏まえながら支援を行ったことと、介護士と連携し自立を促す環境調整や排泄用品の工夫によって、見守りレベルでの排泄行為が可能となり、成功体験につながったと考える。
さらにプランニング~計画修正を短いスパンで繰り返したことで、実行度と満足度の向上に寄与したと考えられる。
WHOによれば、生活機能と障害は健康状態と背景因子とのダイナミックな相互作用と考えられるとある。今回、機能面に関しては代償手段の獲得に至ったものの、十分な改善は認められなかった。
しかし本症例は認知機能面が高いという強みがあり、介助へ依存せず動作自立や成功体験を促す環境づくりを行うことで「本人が主体的に選んだ作業」である「トイレでの下衣操作」を日中見守りレベルまで向上することができた。改めて、機能面のみに着目せず、包括的に考えながらアプローチを行うことが重要だと考える。
今後は更なるADLの向上を目指し、夜間Pトイレ自立に向けて取り組んでいきたい。
【結論】
今回、MTDLPを用いて介入を行うことでADLが向上し、トイレ動作能力の獲得に繋がった。今後は更なるADLの向上に向けて介入していきたい。
【参考文献】
・世界保健機関:国際生活機能分類-国際障害分類改訂版-.中央法規,2003,8p
・日本作業療法士協会HP“生活行為向上マネジメントとは?”
    https://www.jaot.or.jp/ot_support/mtdlp/whats/