講演情報
[27-O-L003-08]高齢者の転倒予防における足趾把持力の重要性足趾把持力と転倒歴、運動機能およびADLとの関連
福島県 ○橋本 佳彦, 星野 篤宏, 谷口 裕子, 川村 博司, 本間 達也 (医療法人 生愛会 附属介護老人保健施設 生愛会ナーシングケアセンター)
【目的】老人保健施設(以下、老健)が医療・介護を提供する中で、転倒・骨折が生じて転院したり、在宅療養への移行を延期したりするケースがある。当老健の介護福祉士は高齢者介護予防として転倒・骨折予防や日常生活動作(ADL)の向上に取り組んでいるが、運動機能との関連が検証されている足趾把持力の低下が転倒のリスク因子となるのではないかと考えた。そこで、足趾把持力に関して高齢者、特に虚弱高齢者の実態を把握し、転倒歴および運動機能・バランス機能やADLとの関係性について検討した。
【対象と方法】1.対象:2025年6月28日より7月11日までの2週間に当老健を入所利用した高齢者113人のうち、歩行または車椅子移動が可能であった88人をA群:歩行自立(補助具不要または杖)、B群:歩行介助(つかまり・歩行器・歩行車)、C群:車椅子自操、D群:車椅子介助に分けた。これらのうち、足趾把持力測定が困難であったA、B、C群の計15人とD群全25人を除くA群11人、B群10人、C群27人の合計48人(平均年齢86.4歳)を対象とした。2.方法:足趾把持力の測定には「足指筋力測定器II(竹井機器)」を用い、立位・椅座位・長座位の各体位で測定した。a.対象者の検討に先立ち、20~40歳代の若年者10人の足趾把持力を測定して健常者の特徴を把握した。b.対象者の特性[1)診断、2)年齢、3)性別、4)身長・体重・BMI、5)転倒歴]と足趾把持力との相関を検討した。c.足趾把持力と運動機能およびADLとの関係を検討した:1) 運動機能[a)下肢筋力(股関節屈曲・膝関節屈伸・足関節背屈(MMT))、b)関節(股、膝、足)可動域、c)手指握力]を測定・評価した。また、A、Bの2つの群に対して高齢者介護予防の取り組みのために当老健で用いている赤外線深度センサーカメラ機能を用いて人の動きを認識して運動機能を自動で測定するロコモヘルパーにより、歩行機能・バランス機能[d)通常歩行速度、e)最大歩行速度、f)バランス感覚:i.開眼片足立ち時間、ii.最大一歩、iii.Timed Up and Go test(TUG):座位から目標まで進み、折り返して座位に戻るまでに要する時間]を可視化・数値化した。なお、ロコモヘルパーは歩行困難なC群には適用できない。2) ADLについて、R4 ICFステージングの「基本」、「歩行移動」、「食事」、「排泄」、「入浴」の各動作のスケール判定基準に基づき評価した。3群間で足趾把持力と運動機能およびADL各指標を比較した。
統計学的検定にはt検定を用い、p<0.05を有意差ありとした。また、3群それぞれ、足趾把持力と各指標との相関係数を算出し、相関の有無について分析した。相関係数0~0.3:ほぼ無関係、0.3~0.5:非常に弱い相関、0.5~0.7:相関あり、0.7~0.9:強い相関、0.9~:非常に強い相関とした。
【結果】1.若年健常者の足趾把持力(kg):a.体位による違い:立位20.6±6.5、椅座位18.2±3.8、長座位12.5±2.8の順に高値を示した。b.足趾把持力と年齢に相関が認められた。2.対象者の足趾把持力(kg):a.体位による違い:立位 5.3±2.3、椅座位2.9±2.1であった(長座位についてはC群で測定が困難であったため検討せず)。各群において椅座位での測定可能者が多かったため、本研究では椅座位の値を用いることとした。足趾把持力は、若年健常者と対象者3群のすべてとの間に有意差(p<0.001)を認めた。また、A群とC群との間で有意差(p=0.007)を認めた。b.特性では転倒歴との間に負の相関を認め、3群間の比較では転倒歴はA群で少なく、C群で多かった(p=0.01)。c.運動機能:1)下肢筋力はB群とC群の股関節屈曲筋力を除き、各群間で有意差を認め、A、B、C群の順に高かった。関節可動域については、可動域の狭い関節がA群5.1%、B群21.2%,C群55.5%の順に増加した。2)足趾把持力と手指握力はA、B群で正の相関、C群で負の相関が認められた。A群では足趾把持力と歩行速度に相関が認められなかった。一方、B群では弱い相関が認められた。A群でバランス機能(開眼片足立ち時間、最大一歩、TUG)とは相関を認めた。e. ADL:1)A群とC群の間で5項目すべて、B群とC群の間で「歩行移動」と「食事」の2項目の動作スケールで、有意差を認めた。A群とB群とでは有意差を認めなかった。2)足趾把持力とB群の排泄動作およびC群の入浴動作との間で正の相関が認められた。
【考察】一般的に足趾把持力は運動機能・バランス機能と関係があるとされているが、高齢者、特に虚弱高齢者での検討は少ない。また、立位、椅座位、長座位によって変化するとされるが、今回は多くの高齢者で測定可能であった椅座位の値を用いた。高齢者の足趾把持力は若年健常者の1/6~1/4であり、著明に低下していた。また、転倒歴との関連が明らかとなった。高齢者を歩行障害の程度によって分けて、足趾把持力と運動機能、ADLとの関係性について検討した結果、足趾把持力は運動機能として下肢筋力・関節可動域・手指握力・バランス機能に、また、ADLとしてR4 ICFステージングの基本動作・歩行移動・食事・排泄・入浴の各動作に関与していることが示唆された。足趾把持力と手指握力において自立歩行が可能な高齢者と車椅子移動を行う高齢者では逆の相関を認めたが、これは歩行障害下でADLを維持するための代償であると考えた。総じて足趾把持力が高いほど、転倒歴が少なく、運動機能・バランス機能およびADLは良好であり、歩行障害が軽度であった。以上の結果から、足趾把持力の改善が運動機能やADLの向上に結び付く可能性が示唆された。今後、足趾把持トレーニングをリハビリテーションに取り入れて、運動機能とADLがどのように改善されるのかについて検討することとしている。
【結論】高齢者において、足趾把持力と運動機能・ADLとの間に強い関連が認められ、足趾把持力を強化することが転倒・骨折予防に有用である可能性が示唆された。
【対象と方法】1.対象:2025年6月28日より7月11日までの2週間に当老健を入所利用した高齢者113人のうち、歩行または車椅子移動が可能であった88人をA群:歩行自立(補助具不要または杖)、B群:歩行介助(つかまり・歩行器・歩行車)、C群:車椅子自操、D群:車椅子介助に分けた。これらのうち、足趾把持力測定が困難であったA、B、C群の計15人とD群全25人を除くA群11人、B群10人、C群27人の合計48人(平均年齢86.4歳)を対象とした。2.方法:足趾把持力の測定には「足指筋力測定器II(竹井機器)」を用い、立位・椅座位・長座位の各体位で測定した。a.対象者の検討に先立ち、20~40歳代の若年者10人の足趾把持力を測定して健常者の特徴を把握した。b.対象者の特性[1)診断、2)年齢、3)性別、4)身長・体重・BMI、5)転倒歴]と足趾把持力との相関を検討した。c.足趾把持力と運動機能およびADLとの関係を検討した:1) 運動機能[a)下肢筋力(股関節屈曲・膝関節屈伸・足関節背屈(MMT))、b)関節(股、膝、足)可動域、c)手指握力]を測定・評価した。また、A、Bの2つの群に対して高齢者介護予防の取り組みのために当老健で用いている赤外線深度センサーカメラ機能を用いて人の動きを認識して運動機能を自動で測定するロコモヘルパーにより、歩行機能・バランス機能[d)通常歩行速度、e)最大歩行速度、f)バランス感覚:i.開眼片足立ち時間、ii.最大一歩、iii.Timed Up and Go test(TUG):座位から目標まで進み、折り返して座位に戻るまでに要する時間]を可視化・数値化した。なお、ロコモヘルパーは歩行困難なC群には適用できない。2) ADLについて、R4 ICFステージングの「基本」、「歩行移動」、「食事」、「排泄」、「入浴」の各動作のスケール判定基準に基づき評価した。3群間で足趾把持力と運動機能およびADL各指標を比較した。
統計学的検定にはt検定を用い、p<0.05を有意差ありとした。また、3群それぞれ、足趾把持力と各指標との相関係数を算出し、相関の有無について分析した。相関係数0~0.3:ほぼ無関係、0.3~0.5:非常に弱い相関、0.5~0.7:相関あり、0.7~0.9:強い相関、0.9~:非常に強い相関とした。
【結果】1.若年健常者の足趾把持力(kg):a.体位による違い:立位20.6±6.5、椅座位18.2±3.8、長座位12.5±2.8の順に高値を示した。b.足趾把持力と年齢に相関が認められた。2.対象者の足趾把持力(kg):a.体位による違い:立位 5.3±2.3、椅座位2.9±2.1であった(長座位についてはC群で測定が困難であったため検討せず)。各群において椅座位での測定可能者が多かったため、本研究では椅座位の値を用いることとした。足趾把持力は、若年健常者と対象者3群のすべてとの間に有意差(p<0.001)を認めた。また、A群とC群との間で有意差(p=0.007)を認めた。b.特性では転倒歴との間に負の相関を認め、3群間の比較では転倒歴はA群で少なく、C群で多かった(p=0.01)。c.運動機能:1)下肢筋力はB群とC群の股関節屈曲筋力を除き、各群間で有意差を認め、A、B、C群の順に高かった。関節可動域については、可動域の狭い関節がA群5.1%、B群21.2%,C群55.5%の順に増加した。2)足趾把持力と手指握力はA、B群で正の相関、C群で負の相関が認められた。A群では足趾把持力と歩行速度に相関が認められなかった。一方、B群では弱い相関が認められた。A群でバランス機能(開眼片足立ち時間、最大一歩、TUG)とは相関を認めた。e. ADL:1)A群とC群の間で5項目すべて、B群とC群の間で「歩行移動」と「食事」の2項目の動作スケールで、有意差を認めた。A群とB群とでは有意差を認めなかった。2)足趾把持力とB群の排泄動作およびC群の入浴動作との間で正の相関が認められた。
【考察】一般的に足趾把持力は運動機能・バランス機能と関係があるとされているが、高齢者、特に虚弱高齢者での検討は少ない。また、立位、椅座位、長座位によって変化するとされるが、今回は多くの高齢者で測定可能であった椅座位の値を用いた。高齢者の足趾把持力は若年健常者の1/6~1/4であり、著明に低下していた。また、転倒歴との関連が明らかとなった。高齢者を歩行障害の程度によって分けて、足趾把持力と運動機能、ADLとの関係性について検討した結果、足趾把持力は運動機能として下肢筋力・関節可動域・手指握力・バランス機能に、また、ADLとしてR4 ICFステージングの基本動作・歩行移動・食事・排泄・入浴の各動作に関与していることが示唆された。足趾把持力と手指握力において自立歩行が可能な高齢者と車椅子移動を行う高齢者では逆の相関を認めたが、これは歩行障害下でADLを維持するための代償であると考えた。総じて足趾把持力が高いほど、転倒歴が少なく、運動機能・バランス機能およびADLは良好であり、歩行障害が軽度であった。以上の結果から、足趾把持力の改善が運動機能やADLの向上に結び付く可能性が示唆された。今後、足趾把持トレーニングをリハビリテーションに取り入れて、運動機能とADLがどのように改善されるのかについて検討することとしている。
【結論】高齢者において、足趾把持力と運動機能・ADLとの間に強い関連が認められ、足趾把持力を強化することが転倒・骨折予防に有用である可能性が示唆された。
