講演情報

[27-O-L004-08]身体拘束ではなく座位保持装置使用と考えられる症例

三重県 吉原 託真 (介護老人保健施設鳥羽豊和苑)
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【はじめに】
当苑では厚生労働省の身体拘束ゼロへの手引きを用いているが、同じく障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引きには、拘束に見えるベルトやカットアウトテーブルなどが抑制する目的であれば拘束であるし、本人の体の安定や活動性を高めるものであればそれは座位保持装置等という考え方があり、その点に注目した。
【目的】
当苑認知症棟に入所されているA様は、車椅子上でY字型拘束帯をつけて生活されており、毎月身体拘束委員会が開催され、拘束継続という結果に留まっている。そこでその拘束は座位保持装置として捉えられないかと考えた。
【方法】
Y字型拘束帯の有無により、本人の生活がどうなるのか、どちらの方が活動性が高いかを主にFIM(機能的自立度評価法)の考え方を評価ツールとして用い評価する。それ自体は添付資料1に表す。これらは互いに評価情報を補完している。
【対象者】
男性 90歳代 疾患名:小児麻痺
過去の経過:十数年前やけどで入院し、その後当苑に入所となった。左片麻痺あり、当時は左短下肢装具を装着していた。従来棟にてY字型拘束帯なしで車椅子自立し、玄関に出ては石でズボンをこすったりし、自分なりの日常生活を送っていたようだ。その後前のめりになるように姿勢が悪くなっていき、Y字型拘束帯を付けるようになっていったようだ。
現在の状態:股関節、膝関節などに可動域制限がある。床上動作時、活動時の一番安定的姿勢は右側臥位だが、横方向へのいざりは右肘の位置の調整介助、右足を動かす介助、体幹を支えるなどほぼ全介助に近い状態になる。よって車椅子使用が一番活動範囲が大きくなる。現在車椅子上でY字型拘束帯を付けたまま、フロア内自走し、自室ベッド回りを拭いたり、詰所脇の未使用の収納スペースの中に車いすごと入って、長時間何らかの作業をしている。作業後は座る位置を正し、移動しやすい体勢にしてから動きだす。早く漕ぐ時は体を前後させてY字型拘束帯により車椅子を引っ張る形になることがある。どこにいる場合でも排泄したいときは自分でトイレに向かう。2人介助でトイレ移乗・動作し、排泄後はコールする。Y字型拘束帯装着介助時は、体と腕を上げ、協力する。食事の時間になると自分の席に戻り体を起こし自助具のスプーンでこぼさず食べ、終われば洗面所に行き、自分でコップを取り、水を入れ、口をゆすぎ、コップを戻す。それらの行為はY字型拘束帯を用い、張り、支えにして上方、下方、横方向、様々にリーチする。表出は非常に分かりづらく、指示に反応しているのかどうなのかも分かりづらいため、認知機能を測定しづらいが、「半分はな、こっち半分は動かん」と時に聞きとりやすく喋ることも可能。集団体操の時はその場にいないことが多く、スタッフが時には連れてきたりする。「おーい」とスタッフを呼び、その場で的確に尿器への排尿が可能なことなど観察でき、日常生活レベルの基本的事柄の規律を理解していると考えられる。
【評価】
自室ベッド回りの拭き作業や収納スペース内作業では下方遠くまでリーチする時に、Y字型拘束帯の支えがその行動範囲の拡大に役立っている。フロア内自走は右手足で車椅子を漕ぐという方法とは別に、手すりを使ってY字型拘束帯に引っ張られながら早く漕ぐという方法が可能になる。Y字型拘束帯無しではそれらの行動がより粗悪になる。
またY字型拘束帯無しでは見守り下での生活になり、今までのように収納スペースでの作業後にトイレに行く、食事に間に合うように作業を行う、などの計画を自分で立てる生活ではなくなる。作業はできたとしても、Y字型拘束帯にもたれかかりながらの安楽な作業活動ができないということになる。長時間収納スペースで作業することは本人のリラックスタイムになっていると考えられるが、そういう時間がなくなる。整容は洗面台周りを行為しやすい位置になるよう車椅子を少なからず動かすため、見守りが必要となる。
【結果】
活動性とは運動行為だけの意味ではなく、精神的な活動にもいえると考える。車椅子上でY字型拘束帯をした状態の方が物理的な意味でのアドバンテージとなると示した。加えて自分の好きな作業をする、計画を立てる、自由時間を過ごすなどの精神的活動にもアドバンテージがあると示したことを非常に重要視する。
【考察】
仮にこの方のY字型拘束帯を外したとして、1日中近くでスタッフが監視していて、転落しそうになるたびに介助を受ける生活は本当に幸せなのかを考えたとき、この方は認知精神機能はある程度しっかりしているからこそ、心地いいものではないと最初考えたものである。
全体をまとめる。Y字型拘束帯をした場合の方が物理的な活動範囲は大きくなるのはもちろんのこと、1)認知機能がある程度しっかりしていて日常生活の規律を理解できると示し、2)Y字型拘束帯装着に協力するように判断能力があると示し、3)つまり日常生活レベルの生活適応は一般的なレベルで十分可能と示し、4)だからこそ自由時間を過ごすなどの精神的活動もアドバンテージのあるものとなっている、しかしそれを外してしまうとそのアドバンテージが消えてしまう、と示した点が一番重要と考えたということである。身体拘束ゼロへの手引きを参照し、この方を身体拘束対象者として位置付ける一方で、このように身体的にも精神的にも活動性が高くなるため、この場合のY字型拘束帯は拘束でなく、座位保持装置と位置付けることはできないのかと考えたわけである。拘束行為の考え方として、一方では縛る行為自体すべて拘束であるのに、一方では活動性が高ければそうではないという矛盾が生じることになり、本人、家族、スタッフが今後もその矛盾を背負っていかねばならないのかを、ここで改めて考えたい。