講演情報

[27-O-L010-02]訪問リハビリテーションにおける熱中症予防高齢者住居における暑熱環境調査・対策の取り組み

長崎県 山口 竜介, 秀嶋 敏和 (介護老人保健施設恵仁荘)
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【はじめに】
近年、気候の温暖化から熱中症の発生が増加しており、総務省消防庁の報告によると令和6年においては平成20年以降最多となる97,578名が救急搬送されている。特に高齢者(満65歳以上)は55,966名と全体の57.4%を占めており、超高齢社会の背景において熱中症予防は喫緊の課題となっている。しかし過去において要介護状態や心・腎臓病等、熱中症になりやすい疾病を抱えた高齢者の居宅における暑さ指数(Wet Bulb Globe Temperature:以下WBGT)に関する報告はほとんど見られない。そこで今回、訪問リハビリテーション(以下訪問リハビリ)利用者の室内熱中症リスクを把握すると共に、熱中症予防の啓発を目的に二段階の研究を実施した。第一段階として訪問リハビリ利用者の居室環境におけるWBGT測定を行い、第二段階として別の対象者群に対してWBGT実測値のフィードバックによる意識・行動変容への効果を検証した。今後の訪問リハビリにおける熱中症予防の展開を検討する結果が得られた為ここに報告する。

【対象・方法】
1)対象者の居室環境測定対象者の内訳は、性別が男性35名、女性50名、平均年齢78.2±12.2歳、平均要介護度2.1。期間は令和6年6月24日~令和6年8月2日の期間中に外気温が30℃を超える真夏日に実施。方法は、訪問リハビリ開始直後の室温、湿度、WBGTを測定し、エアコン使用の有無についても調査を行った。測定には黒球式熱中症指数計タニタ社製TT-562-GDを使用し、10分以上室内に設置し安定化した数値を採用した。得られた結果はWBGT21℃以下を「ほぼ安全」、21~25℃を「注意」、25~28℃を「警戒」、28℃~31℃を「厳重警戒」、31℃以上を「危険」とし分類を行なった。また、警戒レベル以上となった対象者には、口頭で暑さの自覚を「寒い」「やや寒い」「普通」「やや熱い」「熱い」の5段階で回答を得た。
2)測定結果認識後の意識調査対象者の内訳は、男性27名、女性34名、平均年齢78.8±12.0歳、平均要介護度1.8。期間は令和7年6月27日~令和7年7月11日の期間中に外気温が30℃を超える真夏日に実施。WBGT測定結果を利用者・家族へ示した後、一週間以内の外気温・WBGTを比較した。また、実測値を認識した事で熱中症予防についての関心や行動変容をアンケートにて調査した。比較には統計処理を行い、前後のWBGTを対応のあるt検定とし、統計学的有意差判定基準は5%未満とした。アンケートは熱中症への意識変化を「以前と変化なし」「意識するようになった」「実際に予防行動を取るようになった」の三段階で評価した。

【結果】
1)期間中の訪問リハビリ実施時は外気温が30℃を超えており、中には35℃を超える猛暑も記録された。対象となった85名の室内WBGTは平均24.1℃(SD2.1)となり、WBGT21℃以下は4名(5%)、21~25℃は55名(65%)、25~28℃は22名(25%)、28℃~31℃は4名(5%)、31℃以上は0名であった。エアコンは85名中75名(88%)が使用しており、未使用者10名のうち4名が警戒レベル、3名が厳重警戒レベルとなった。警戒レベル以上となった26名のうち暑さの自覚では「やや暑い」2名、「暑い」1名となった。
2)取組前平均外気温31.4℃(SD2.0),平均室内WBGT23.3℃(SD1.9)、取組後平均外気温32.7℃(SD1.6),平均室内WBGT22.7℃(SD1.6)となり、取組後の平均室内WBGTが有意に低い結果となった(p<0.05)。取組後のアンケート結果では「以前と変化なし」32名、「意識するようになった」10名、「実際に予防行動を取るようになった」19名であった。

【まとめ】
高齢者は体温調整機能の低下や水分量の減少により熱中症になりやすく、重症化しやすい傾向にあるとされている。また、疾病と熱中症の関係性も多く報告されている現状から、疾病との密接な関わりのある介護の現場においてはより一層熱中症に対する取り組みが必要であると考えられる。当訪問リハビリにおいても、以前より暑熱期前にはパンフレットの配布や熱中症のリスクにおいて利用者に注意喚起を行ってきた。そのような中においても、今回の調査結果からは26名(30%)が熱中症に対して警戒レベル以上の環境下で生活されている事が解った。また、そのうちの23名が暑さの自覚は無く、熱中症のリスクが懸念される状況であった。これは、高齢者は体温調節機能の低下や皮膚の湿度センサーの感度低下から暑さが感じにくくなると言われており、また疾病や服薬の影響も懸念される。熱中症予防の取り組みとして、室温調整や水分摂取の促し等を指導する事は、暑さの実感も無い事から関心を抱きにくい現状もあり、従来のパンフレット配布や指導のみでは十分ではない可能性が示唆される。今回の取り組みではWBGTを危険度として利用者へ示す事で熱中症に関心を持たせる事を目的としたが、これは行動変容を促す重要な要因の一つであり、取り組みの結果としても29名が熱中症に対して意識をもつ、または、実際に予防行動を取るようになるなど一定の成果を得ている。暑さを実感しにくい高齢者に対して熱中症のリスクを数値化し示す事は、これまでの熱中症対策に加えて実施する事で効果を高め、利用者の生活を安全に支援する手段として有用であると考えられる。

【今後の展望】
要介護者の熱中症予防に関しては対象の個人的要因や社会背景により画一的に対応する事は困難な実情にある。実際に本研究中においても、認知症によるエアコンの誤操作が心配で家族から扇風機のみ使用を強いられている世帯や、経済状況からエアコンを控える高齢者も見られている。また、一事例ではあるが趣味である畑作業中にWBGT危険域となる31℃を超える場面が観測され、利用者の生活を支援する為には生活範囲や活動環境もつぶさに把握する必要もあると実感した。今後は熱中症予防を多角的に展開する事で、利用者それぞれに対してや地域の特性も踏まえた支援を実現できればと思う。