講演情報

[27-O-L010-03]右上腕骨骨折後廃用手が実用手として改善した一症例

熊本県 渡邊 晃史 (介護老人保健施設ケアセンター赤とんぼ)
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【はじめに】本症例は右上腕骨遠位端骨折術後右上肢に関節拘縮を呈し、急性期病院、回復期病院でリハビリテーションを施行した。しかし、利き手である右手の動作を促したが自己管理に欠け動作困難であった。当施設入所後リハビリテーション施行、自主トレーニングの指導をし、食事動作等のADL動作を利き手で自立できるようになった為報告する。
【症例紹介】80代女性A氏、自宅の庭で転倒し受傷。急性期病院へ救急搬送。右上腕骨遠位端骨折あり同日創外固定術を施行。家族の希望で6日後に回復期病院へ転院。内固定の手術が必要であり骨接合術施行。42日後にスプリント除去の指示あり。徒手的介入に加え、肘関節のCPMも併用していたが大きな改善は困難であった。また、自主練習も促したが十分な実施はできなかったとの情報。拘縮残存するが骨癒合に問題なく89日後に退院し当施設に入所した。HOPEは右手が使えるようになりたい。右手で箸を使って食事が出来るようになりたい。新しく住む娘宅で転倒無く過ごしたい。であった。自宅は独居。
キーパーソンは娘。今回の入院を期に娘宅に転居予定となる。娘宅への受け入れが整うまで4ヶ月間の入所となった。
要介護2。
【経過】入所時初回評価ADLはBI85点。一部介助項目は入浴、更衣。MMSE28点。ROM制限右側肩関節屈曲130°、肘関節屈曲105°、肘関節伸展-40°、手関節掌屈55°、背屈30°VAS:動作時8点。10m歩行速度11.5秒、TUG11.8秒、握力右測定不能、左11.6kg、BMIは20.0。食事動作は非利き手の左手で食事を行い、食器も添えず下ろしたままであった。リハビリプログラムとして、関節可動域訓練、マッサージ、ストレッチ、上下肢筋力増強訓練、バランス訓練、歩行訓練、手指巧緻動作訓練(折り紙、書字、ボタン付け外し、右肘自動運動)、日常生活動作訓練(段差昇降訓練)、自主トレーニング指導を行った。自主トレーニング内容は施設内歩行、スクワット、上肢挙上運動、日記の記載を提案し、利き手を生活の中でできる限り使用するよう促した。リハビリプログラムを実施し、肘関節周囲に対する疼痛の緩和、反復した利き手動作訓練を行い、A氏も日常生活で利き手を意識して使用するようになった。入所2週目で「文字がまだ下手だけど書けました。」最初に喜ばれたのが書字できた事であった。日記を毎日つけるようになり計算ドリルも行うようになった。家族との定期面談時、測定した評価項目の向上についての説明や、実際のリハビリの様子を動画視聴、A氏が書いた書字訓練の書類や折り紙の作品を見せた。「ここまで母が回復するとは思いませんでした。」と、家族は非常に喜ばれ、面会の際もA氏と嬉しそうに会話していた。
【結果】3ヶ月後評価、改善項目はBI95点。更衣は自立。ROM制限肘関節屈曲115°、肘関節伸展-15°、背屈50°VAS:動作時2点で自制内の疼痛。握力右測定7.0kg、左17.7kgであった。食事動作は利き手で食事ができ、入所後2か月でフォーク、スプーンの使用、3ヶ月で箸の使用が可能となった。A氏は「右手は使えないと諦めていたけど頑張ってよかった。」と話された。3ヶ月経過時、娘と自宅の環境を確認しに行き、外食した際、「鰻重を箸で全部食べました。食べ過ぎました。」と笑顔で報告を受けた。外出時にも箸が使用できたことを非常に喜ばれていた。4ヶ月後に当施設を退所した。在宅生活では自宅での役割として洗濯物たたみを行われているとの事であった。
【考察・まとめ】中武らの研究で、箸を用いた食事に必要な関節角度は肘関節屈曲最大130°、手関節背屈角度最大30°とされており、A氏は食事動作に最低限必要な関節可動域の条件は満たしていた。
園田は、手足の不使用は脳の変化を引き起こし、不使用により脳の体部位再現が狭小化され、結果的に疼痛抑制の皮質機能が低下して痛みが慢性化するという機序が考えられ、不動・廃用症候群の諸症状に対する脳の変化を表している可能性もあるとされている。A氏に対し、廃用手となっていた利き手を日常生活で使用するよう促し自主トレーニングを行ったことにより、今まで不動であった利き手による動作が賦活され、実用手として回復したではないかと考える。
北脇らは手術による疼痛の緩和、BMI、入院前の運動習慣の有無、退院時歩行能力が運動自己効力感と関連することが明らかとなっている。また、自己効力感に関して、家族がリハビリの動画を視聴し、利き手機能の向上に喜びA氏への言語的説得を行ったことも影響しているのではないかと考える。運動習慣を定着させていくためには,利用者の生活をサポートし,ADL動作が維持、継続できるように自己効力感を高めていくことが必要であるという事を今回の症例を通し強く感じた。
以上の事から疼痛緩和、関節可動域の向上、廃用手の賦活化による動作改善、自己効力感の向上により、廃用手になりかけた手を実用手として使用でき、A氏の生活の質を向上する事が出来たと考える。A氏は6ヶ月の在宅期間を経て2回目の入所に入っている。在宅中洗濯物たたみを行われており、その他、特に不自由なく過ごされている。本症例において、今後も不自由なく右手を使用していけるよう、自己効力感は重要な要素であると考え、今後の研究において着目していきたい。