講演情報

[27-O-L010-04]HAL腰タイプを用いた運動で効果を認めた片麻痺症例

岡山県 松井 香, 伊勢 眞樹 (介護老人保健施設 福寿荘)
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【はじめに】2018年の介護保険法改正によって介護老人保健施設(以下,老健)は5種類に分類され,「超強化型老健」という類型が設けられた.当法人の老健でも,2018年より超強化型として運営を行っている.老健の受け皿は広く,回復期を過ぎた後も自宅復帰を目指し,積極的なリハビリテーション(リハ)治療を希望される方から看取り期の方までと多岐に渡る.当法人の老健では2019年よりHAL腰タイプを導入しており,先行研究では,HAL腰タイプを使用することで,歩行能力が向上するとの報告がある1),2).2023年7月には運動器不安定症に対するHAL腰タイプ(HAL腰4ch)を用いた特定臨床研究に参加する機会を得た.本研究で使用したHAL腰4chは,4か所同時に生体電位信号入力が可能であり,股関節の屈曲・伸展のアシストを得ることができる.また,タブレット端末にてHALモニターでの波形の確認も可能となっている.今回HAL腰4chを用いた運動により改善を認めた症例について報告する.【症例紹介】 症例は80歳代女性でX-212日脳梗塞の診断にてA病院救急搬送となった.B病院回復期リハ病棟での治療を経て, X-66日リハ治療継続目的にて当施設へ入所した.入所中体調不良のためC病院へ救急搬送され,入院加療後X日再入所の運びとなった.入所後徐々に活動範囲の拡大を図っていたが,X+67日転倒後発熱や嘔吐認め,理学療法ができない期間があった.理学療法再開後麻痺側の痛みが出現し,起立や移乗動作の介助量が増大し,歩行時の支持性の低下を認めた.そこで,右下肢の支持性の向上を目的にX+115日HAL腰4chを使用したプログラムを追加した.【経過】 理学療法と並行し,X+115日より,週2回のHAL腰4chを使用した運動を合計10回実施した.HAL腰4chで麻痺側の股関節屈曲・伸展にそれぞれassistを使用しながら,step練習や歩行練習を実施した.測定項目は(1) ハンドヘルドダイナモメーター(HHD)での膝伸展筋力,(2)握力,(3)Time UP and Go test(TUG),(4)10-second chair stand test (CS-10),(5)5m歩行(5MD),(6)Functional Independence Measure(FIM)とした. HAL実施前の評価結果は,HHD(R/L):8.5/18.8kgf,握力(R/L):6.0/16.3kgf,TUG:49.8秒,CS-10:2回,5MD:19.3秒,23歩,FIM:75点(運動項目:48点,認知項目:27点)だった.HAL実施後の評価結果は,HHD(R/L):9.0/22.2kgf,握力(R/L):9.2/15.3kgf,TUG:35.0秒,CS-10:2回,5MD:15.1秒,22歩,FIM:97点(運動項目:70点,認知項目:27点)だった.Brunnstrome recovery stageはHAL実施前後で変わらず上肢:5,下肢:4,手指:5であった.【考察】 今回,脳梗塞右片麻痺を呈した80歳代の女性に対し,HAL腰4chを用いた股関節屈曲・伸展のassistを使用した歩行練習を実施した結果,下肢の筋力の向上と歩行能力の向上を認めた.矢次らは,慢性期の対象者にHAL腰タイプを使用し,歩行速度,バランス能力に改善が見られたとしている1).また,大岡らは維持期の片麻痺患者において,HAL腰タイプの即時効果があり,歩行速度に有意差が見られたとしている2).本症例でも,全ての評価結果で改善を認めた.これは,HAL腰タイプには(1)脳活動と運動現象を正しく反復して行わせることで,神経可塑性を促進する運動プログラム学習効果があること3),(2)Kawatoらのフィードバック誤差学習理論をもとに,脳内の運動制御プログラム(フィードフォワード)とHAL腰タイプにより増幅された股関節伸展トルクによる感覚(フィードバック)の誤差学習によって4),動作中の股関節周囲の協調的な筋収縮の再学習が促されたと考えた.  また,今回の症例を経験した中で,(1)端座位,起立や歩行練習が可能な片麻痺症例であること,(2)下肢の振り出しが不十分な症例であること,(3)体幹・股関節周囲の筋出力乏しく,支持性が低下していること,(4)歩行獲得に対してモチベーションが良好であること(5)HAL腰タイプの使用に関しても積極的で受け入れ良好であったこと,以上の5点も改善に大きく関与したと考えた.【結論】 研究用HAL腰4chは下肢HAL同様に股関節屈曲・伸展のassistを可能にしており,片麻痺症例での積極的な使用により効果が期待できる.【倫理的配慮・利益相反】本研究はヘルシンキ宣言を遵守して研究計画を立案した.また,調査に当たっては個人が特定できないように匿名化し,データの取り扱いに関しても漏洩がないように配慮した.また,演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はありません.【文献】1) 矢次 彩, 森下 登史, 千住 緒美ら:福岡大学病院における外来HALリハビリテーションの現状と効果について.第52回日本理学療法学術大会 抄録集Vol.44 Suppl. No.2 DOI: 10.14900/cjpt.2016.0844(注:DOI:Digital Object Identifier. 文献は https://doi.org/10.14900/cjpt.2016.0844に掲載)2 ) 大岡 恒雄, 金澤 浩, 島 俊也ら:ロボットスーツHALが維持期片麻痺患者の歩行動作に及ぼす即時的効果.第47回日本理学療法学術大会 抄録集Vol.39 Suppl. No.2 DOI:10.14900/cjpt.2011.0.Bc1032.03) 中島孝:ロボットスーツHALによるCybernic neurorehabilitation.神経治療学 2016;33:396-398.4) Kawato M, Furukawa K, et al.: A hierarchical network model for motor control and learning of voluntary movement. Biol Cybern. 1987; 57: 169-185.