講演情報

[27-O-L010-06]慢性期の片麻痺利用者の歩容改善における創意工夫~鏡および動画を活用した運動学習の促進~

山口県 小林 海斗, 深川 真伍, 坪井 鈴子, 森田 智子, 藤村 昌彦 (新生会 介護老人保健施設 桜の園)
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<症例紹介>
80代男性、S61年に脳梗塞を発症し、H29年に再発。後遺症として左片麻痺を呈しており、左プラスチック製AFO装着し多点杖を使用。妻の介助負担軽減のため、R6.3月より当園入退所を繰り返している。在宅期間中は、通所サービスを利用。その他の外出機会は通院時のみ。その際、車から病院(約20m)まで休憩を挟みながら移動していた。自宅では、座ってテレビを見ているか、横になって過ごす時間が多かった。R7.4月、再入所にあたり施設内での活動量が増え、本人より「家よりも歩くことが多くなって、疲れやすくなった。だから疲れやすい歩き方を改善したい。」との希望があり、歩容の改善を目的として介入した。
<初期評価>(入所1週間)
(1)脳卒中スケール(SIAS)【項目】点:【運動機能】上肢近位0上肢遠位0下肢近位2下肢遠位(膝)3下肢遠位(足)1上肢反射1-A下肢反射1-A【筋緊張】上下肢0【感覚】上肢触覚0下肢触覚0下肢位置覚0【体幹機能】垂直性3腹筋3【高次脳機能】視空間認知3言語3【健側機能】握力3大腿四頭筋筋力3
(2)認知機能(HDS-R):30/30
(3)バランス能力(TUG):18秒
(4)歩行能力:【歩容】全歩行周期にかけて体幹が前傾し、視線も足元に向いている。健側のTSw~MStに過度な体幹前傾を伴う。2動作前型と揃え型が混在していた。20m地点で息切れや疲労感出現(修正Borg4)。右単脚支持期に後方にバランスを崩すことあり。本人より「テレビや雑誌を参考にして、歩幅を広くして早く歩くことを意識している。」と言われる。【歩幅】平均値:31【健側重複歩】平均値:65【患側重複歩】平均値:66
(5)ADL(BI):90/100(減点項目:入浴・階段昇降)
<プログラム>
(1)歩行状態の改善に対するアプローチ:介入初期は、歩行中に口頭指示のみのフィードバックを実施していたが、目的とした動作の獲得につながらなかった。また、本人より「自分の歩き方を目で確認できないから、指示された内容を理解しにくい。」と言われていた。そのため、鏡を使用し鏡を見ながら姿勢修正するよう促した。さらに、隔週ごとに動画を撮影し、利用者と一緒に動画を確認することで介入前後との比較や課題を共有する方法を実践した。
(2)脳梗塞後遺症に対するアプローチ:ROMex、立位リーチ練習、スクワット、麻痺側後方ステップ、バランス練習
<再評価>(2か月後)
歩行能力:【歩容】意識的に体幹を起こし、視線を前方に向けて歩いている。健側のTSw~MStに伴っていた過度な体幹前傾も軽減。概ね揃え型が定着。90m地点で息切れや疲労感出現(修正Borg4)。本人より「前を向いて、歩幅を狭くゆっくり歩くように意識している。」「2か月前よりも疲れにくくなった。」と言われる。【歩幅】平均値:16【健側重複歩】平均値:33【患側重複歩】平均値:33
<結果>
本症例では、在宅期間中にテレビや雑誌等から得た知識を参考にし、歩幅を広くし、早く歩くことを意識して歩行しており、かえって疲れやすい歩行状態となっていた。そこで、鏡および動画といった客観的なツールを用いて、運動イメージと実際の動作とのずれを修正することで運動学習の促進を図った。再評価時では、意識的に体幹を起こし前方を見ての歩行が可能となった。さらに、歩容の改善に伴い歩行後の息切れや疲労感が大幅に改善された。入所生活に至っては、居室~食堂(約50m)までの移動が初期評価時よりも疲労感なく移動でき、自ら行っている洗濯動作も休憩を挟まずに行えるようになったと実感していた。
<考察>
運動学習とは、手続き記憶によってスキルを獲得する過程であり、その過程は『認知期(運動課題を理解する段階)・連合期(学習の初期段階の誤りを反復練習の中で修正することで、運動の正確性や円滑性が向上してくる段階)・自動期(無駄なく円滑に目的とした運動を遂行できる段階)』が段階的に分けられると言われている。本症例では、脳梗塞による運動麻痺に加えて運動学習の認知期における理解が誤っていたことから、疲労感の強い非効率な歩行状態が確立されてしまったと考えた。そのため、歩行練習では鏡を用いた即時的なフィードバックと動画を用いた結果のフィードバックを併用することで、動作理解の促進と運動イメージの明確化を図った。利用者自身も、「歩く時にどこに気を付けたらよいのか、どこを改善したらよいのか理解しやすくなった。」と実感していた。また、介入前後の歩行状態を動画で比較することで、「以前よりも前を向いて歩けているね。リハビリの効果が出ているね。」との前向きな言葉も得られ、モチベーションの向上にもつながった。道免和久氏による『ニューロリハビリテーション』の記述より、患者自身の『できた』という実感や達成感といったモチベーションが運動学習を促進させると証明されている。本症例では認知期の問題点を改善したことで、効率的な歩容の獲得につなげることができた。再評価後では、利用者自身の心情にも変化が見られ、「以前よりも歩くのが楽になったので、諦めていたカメラ活動を再開してみたい。」と、新たな目標を掲げるようになっていた。今後は、運動学習における自動化段階にむけて、付加的フィードバック量(口頭指示や客観的なツールを用いた感覚入力)を減らし、反復練習を行うことで改善した歩行状態を定着できるように目指していく。退所後は、今回学習した内容を、自宅でも再現しやすいように写真付きの自主トレ資料を作成し提供することで、歩行状態の維持を図っていく方針。
この症例を通じて、運動学習の概念を踏まえたリハビリの重要性があらためて示された。利用者自身にとって『理解しやすい形』で動作や方法を伝えることが、運動学習の促進に直結しリハビリ効果を高める上で不可欠であることを再認識することとなった症例であった。