講演情報
[27-O-L010-07]認知症の短期記憶は改善することが出来るのか
三重県 ○外村 奈緒, 伊藤 水咲, 徳田 成臣 (湯の山介護老人保健施設)
<背景・目的>
私はこれまで、利用者の在宅復帰支援に対して苦慮していた。「家に帰りたい」と希望する方は非常に多く、当施設でも在宅復帰に向けた支援に力を入れている。しかし、実際に自宅で安全に生活するために必要な認知機能を維持している方は限られているのが現状である。さらに、認知機能の不安定さに対して、家族側の不安や介護負担の増大も在宅復帰の障壁となっている。特に記憶機能に著しい低下がみられる方は、たとえばブレーキのかけ忘れや、服薬管理の不徹底、認知訓練のルールや手順の記憶困難など、日常生活におけるさまざまなリスクを抱えていた。
これらの現場での経験を重ねるなかで、「認知症のある方の記憶機能は本当に改善できるのか?」という根本的な疑問に至った。文献を調べてみたが、認知症者における記憶機能の改善に焦点を当てた報告は限られており、科学的な裏付けをもった介入方法や効果に関する記載も多くはなかった。実際に臨床で強く感じるこの課題に対して、研究の蓄積が追いついていないことへのギャップも大きく、本研究の必要性を感じた。
そこで私は、短期記憶の改善の可能性を検証するとともに、どのような刺激方法がより効果的かを明らかにすることを目的として、本研究を行った。
<方法>
対象は、当施設に入所中のアルツハイマー型認知症者のうち、MMSEで中等度の認知症レベルと評価され、短期記憶に顕著な低下が認められた5名とした。訓練は週3回、1回20分の頻度で3か月間実施。干渉の有無と想起までの時間経過を組み合わせて段階的に難易度を調整し、間隔反復訓練(SRT)の手法を応用して反復訓練を行った。想起が困難な場合は前段階に戻ることで、無理なく記憶の固定を促すように工夫した。また、訓練の入力方法は「言語入力群(3名)」と「五感入力群(2名)」に分類し、どちらがより効果的かを比較検討した。五感入力では、香り、音、触感などを用いて、複数の感覚器を通じた記憶の定着を試みた。これは単なる言語情報だけでなく、感情や興味を喚起する刺激として、動機づけの面でも効果が期待された。効果の判定にはHDS-Rを用い、訓練前後の総得点と、短期記憶に関連する項目(遅延再生・視覚記憶)の得点を分析した。
<結果>
結果として、五感入力群の2名はともにHDS-R総得点が+4点と大きく改善し、言語入力群の3名では改善幅に個人差がみられた。短期記憶関連の項目では、5名中4名で得点の改善が確認された。統計的検定としてマン・ホイットニーU検定を用いた結果、総得点の変化では五感入力群に有意傾向(p=0.069)がみられたが、短期記憶項目には有意差が認められなかった(p=0.761)。
<分析>
これらの結果から、五感刺激によって言語情報の処理に加えて、注意・感情・覚醒・意味理解など多様な脳領域が活性化された可能性があり、HDS-R全体の向上に寄与したと推察される。一方で、短期記憶の改善に関しては、入力方法に関係なく幅広い改善が見られたことから、「間隔を空けて繰り返し想起する」訓練方法そのものが効果的であった可能性が高い。
<結論>
当初「認知症者に短期記憶の改善は可能か?」という問いから始まった本研究であったが、HDS-Rの結果から改善の兆しがみられたことは非常に意義深い成果であると言える。ただし、その改善はあくまで検査上のものであり、実際の施設生活では「昨日の出来事を思い出せない」「食事をしたことを忘れる」といった日常生活に関わる実用的な記憶機能の改善にはつながっていないのが現状である。特に中等度の認知症者においては、3か月間の訓練で得られた改善も、保持時間が数秒~数分程度にとどまっており、在宅復帰のための実用的レベルにはまだ至らない。しかし、訓練を継続することでさらなる記憶保持の向上が期待できるとともに、五感刺激を活用することで認知機能全体の底上げが可能となれば、在宅生活への移行にも希望が持てると考える。
これまでの認知症短期集中リハ加算では、服薬・日課・居室の認識といった個々の生活課題に対し、残存する機能を活かしながら、主に環境調整による対応が中心となってきた。しかし今回の結果から、記憶機能に対しても一定の改善の可能性が示唆され、今後はこうした「機能面」へのアプローチも併せて検討していく価値があると考える。また、より実用的かつ信頼性のある知見を得るためには、サンプル数の拡大や、継続した研究、軽度認知症の段階における早期介入の効果を検証していく必要がある。これにより、認知機能訓練の成果が実生活に反映され、在宅復帰支援の一助となることが期待される。
私はこれまで、利用者の在宅復帰支援に対して苦慮していた。「家に帰りたい」と希望する方は非常に多く、当施設でも在宅復帰に向けた支援に力を入れている。しかし、実際に自宅で安全に生活するために必要な認知機能を維持している方は限られているのが現状である。さらに、認知機能の不安定さに対して、家族側の不安や介護負担の増大も在宅復帰の障壁となっている。特に記憶機能に著しい低下がみられる方は、たとえばブレーキのかけ忘れや、服薬管理の不徹底、認知訓練のルールや手順の記憶困難など、日常生活におけるさまざまなリスクを抱えていた。
これらの現場での経験を重ねるなかで、「認知症のある方の記憶機能は本当に改善できるのか?」という根本的な疑問に至った。文献を調べてみたが、認知症者における記憶機能の改善に焦点を当てた報告は限られており、科学的な裏付けをもった介入方法や効果に関する記載も多くはなかった。実際に臨床で強く感じるこの課題に対して、研究の蓄積が追いついていないことへのギャップも大きく、本研究の必要性を感じた。
そこで私は、短期記憶の改善の可能性を検証するとともに、どのような刺激方法がより効果的かを明らかにすることを目的として、本研究を行った。
<方法>
対象は、当施設に入所中のアルツハイマー型認知症者のうち、MMSEで中等度の認知症レベルと評価され、短期記憶に顕著な低下が認められた5名とした。訓練は週3回、1回20分の頻度で3か月間実施。干渉の有無と想起までの時間経過を組み合わせて段階的に難易度を調整し、間隔反復訓練(SRT)の手法を応用して反復訓練を行った。想起が困難な場合は前段階に戻ることで、無理なく記憶の固定を促すように工夫した。また、訓練の入力方法は「言語入力群(3名)」と「五感入力群(2名)」に分類し、どちらがより効果的かを比較検討した。五感入力では、香り、音、触感などを用いて、複数の感覚器を通じた記憶の定着を試みた。これは単なる言語情報だけでなく、感情や興味を喚起する刺激として、動機づけの面でも効果が期待された。効果の判定にはHDS-Rを用い、訓練前後の総得点と、短期記憶に関連する項目(遅延再生・視覚記憶)の得点を分析した。
<結果>
結果として、五感入力群の2名はともにHDS-R総得点が+4点と大きく改善し、言語入力群の3名では改善幅に個人差がみられた。短期記憶関連の項目では、5名中4名で得点の改善が確認された。統計的検定としてマン・ホイットニーU検定を用いた結果、総得点の変化では五感入力群に有意傾向(p=0.069)がみられたが、短期記憶項目には有意差が認められなかった(p=0.761)。
<分析>
これらの結果から、五感刺激によって言語情報の処理に加えて、注意・感情・覚醒・意味理解など多様な脳領域が活性化された可能性があり、HDS-R全体の向上に寄与したと推察される。一方で、短期記憶の改善に関しては、入力方法に関係なく幅広い改善が見られたことから、「間隔を空けて繰り返し想起する」訓練方法そのものが効果的であった可能性が高い。
<結論>
当初「認知症者に短期記憶の改善は可能か?」という問いから始まった本研究であったが、HDS-Rの結果から改善の兆しがみられたことは非常に意義深い成果であると言える。ただし、その改善はあくまで検査上のものであり、実際の施設生活では「昨日の出来事を思い出せない」「食事をしたことを忘れる」といった日常生活に関わる実用的な記憶機能の改善にはつながっていないのが現状である。特に中等度の認知症者においては、3か月間の訓練で得られた改善も、保持時間が数秒~数分程度にとどまっており、在宅復帰のための実用的レベルにはまだ至らない。しかし、訓練を継続することでさらなる記憶保持の向上が期待できるとともに、五感刺激を活用することで認知機能全体の底上げが可能となれば、在宅生活への移行にも希望が持てると考える。
これまでの認知症短期集中リハ加算では、服薬・日課・居室の認識といった個々の生活課題に対し、残存する機能を活かしながら、主に環境調整による対応が中心となってきた。しかし今回の結果から、記憶機能に対しても一定の改善の可能性が示唆され、今後はこうした「機能面」へのアプローチも併せて検討していく価値があると考える。また、より実用的かつ信頼性のある知見を得るためには、サンプル数の拡大や、継続した研究、軽度認知症の段階における早期介入の効果を検証していく必要がある。これにより、認知機能訓練の成果が実生活に反映され、在宅復帰支援の一助となることが期待される。
