講演情報

[27-O-L011-03]在宅復帰までの道のりと課題転倒なく安全に生活していただくためには

三重県 平石 竜一朗 (介護老人保健施設パークヒルズ高塚)
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【はじめに】
 当施設は、介護老人保健施設の機能の一つである在宅復帰に向けて、病院退院後から在宅までの支援を積極的に行っている。半側空間無視は、リハビリでの症状の改善がみられても在宅生活への汎化が難しく課題となっている。そこで、他院入院中に半側空間無視による左側空間の認識の低下、幻覚、視力低下から手すりをつかみ損ね転倒し、胸椎Th12椎体圧迫骨折と診断される。コルセット作成後、当施設へ1か月間入所され、在宅復帰へと繋がったため症例を交えてここに報告する。

【症例紹介】
 N様 82歳 男性 要介護4 
     身体障がい者自立度:A2 認知症高齢者の日常生活自立度:IIb
<既往歴>右後頭葉出血性梗塞、パーキンソン病、網膜剥離、白内障
     胸椎Th12椎体圧迫骨折、高血圧、脂質異常症、便秘、前立腺肥大
<入所日>令和7年4月1日、同日よりリハビリ開始。
<退所日>令和7年5月7日退所。その後、デイサービス週2日、デイケア週2日利用。
<家族構成>妻、次女夫婦と同居
<hoop>本人様:また転倒しないように注意して過ごしたい。
     奥様:転倒しないように安全に過ごしてほしい。
<居室内環境>L字柵、センサーマット使用。

【実施と結果】
 入所時の問題点として、左半側空間無視による左側への認識の低下、パーキンソン病による幻覚、すり足歩行、注意機能の低下、視力低下による見えにくさ、コルセット着用による体幹・下肢筋力低下、長期入院による活動量の減少、危険認識に低下により日常生活動作に大きな影響がみられ、主介護者である奥様への介護負担の増大が予測された。
 奥様への介護負担の軽減と在宅生活の中で転倒なく安全に移動ができることを目標に当施設へ入所される。月曜日から金曜日までの週5日、1日40分を3日、20分を2日、1週間180分の短期集中リハビリを1か月間実施し、介護士による離床時間の確保など在宅復帰に向けた生活習慣の再獲得を行った。また、担当療法士間での在宅復帰に向けた明確な目標設定とリハビリ以外での自主トレーニング内容の提供、環境調整と生活動作の指導を行った。
 入所前後の比較として、認知機能、関節可動域、筋力、立位バランス、注意機能、高次脳機能、ADLの各項目について本人様に評価を実施した。
結果では、改善された項目として、関節可動域、筋力、立位バランス、半側空間無視の項目において大きな改善がみられた。日常生活動作として、移動中の左側空間への認識が向上し、左半身に物がぶつけることが軽減した。また、居室からフロアまでの移動では、下肢・体幹筋力が向上し、T字杖での歩行中のふらつきの軽減、良姿勢での保持が可能となり、遠位見守りから自立レベルで移動可能となった。階段昇降動作では、足関節の可動域、下肢筋力の向上、足底接地場所の確認の徹底、動作指導により、昇降時の踏み外しや動作開始時の段差との距離感が縮まり動作がスムーズとなった。
 多職種の協力もあり、離床時間が延長と運動習慣の獲得により、本人様の自信にも繋がり、自発的な発言も増えた。しかし、日常生活動作において、無視症状の残存による目的地の出入り口が分かりにくさ、右側に寄って歩いてしまうなどの左側への認識の低下に加えて、視力の低下から手探りにて情報を得ており、代償的手段が必要となっていた。幻覚では、その場にないものがあるように見えてしまい、何もない場所で跨ぐといった場面が多々見受けられ、注意機能においても刺激に対して注意がそれてしまう場面が見受けられ、歩行の際にふらつきがみられる。その為、現状ではまだ転倒リスクが高い状況であることが分かった。

【考察】
 本症例は、1か月間の継続的なリハビリを実施し、無視症状の軽減、体幹、下肢筋力の向上、離床時間の拡大による現実感の獲得、活動量の向上などがみられ、サービスの調整により在宅復帰が可能となった。その要因として、入所初期段階から在宅環境を想定した居室、多職種協労によるフロア内の環境調整と動作時の左側への声掛けの促し、訓練中の日常生活に応じた動作指導を行ったことが各動作に対する左側への認識が向上し、物にぶつかる頻度が減少したのではないかと考える。
 本症例は、入所直後はベッドにて臥床される時間が多く、昼夜逆転してしまうことが多々見受けられた。多職種との話し合いの中で離床時間の獲得に対して、介護士による集団体操や自主トレーニングの積極的な促しにより老健の特性である多職種協労から本人様にあったサービスを提供することができたと考える。今後はデイサービスによる集団の場への参加と、デイケアでのリハビリテーションマネジメント加算の算定とそれに伴う在宅訪問を実施することによって、日常生活での問題点の把握と家族様への動作指導を行い、ご自宅での生活に寄り添っていく必要があると考える。

【おわりに】
 本症例は半側空間無視と視力低下、幻覚症状によりADL動作において様々な影響がみられた。専門職スタッフとの関りによって活動量の向上と安定した移動能力の獲得を図ることができた。しかし、在宅生活を継続して行っていくためには、今後も本人様、家族様の目標に応じたリハビリと環境調整、通所系サービスの利用による人との交流が必要不可欠であると感じた。退所後の残された課題に対して身体機能の向上を図り、家族様が安心して本人様と在宅生活を送っていただけるように支援していきたい。