講演情報

[27-O-L011-05]老健入所者の6カ月機能変化と起立練習効果―集団反復起立練習の効果に関する後ろ向き検討―

千葉県 吉川 尚樹1, 三浦 秀之2, 久保木 智紗子1, 川島 康平1, 長谷川 類1, 村上 信乃1 (1.介護老人保健施設シルバーケアセンター, 2.地方独立行政法人総合病院国保旭中央病院)
PDFダウンロードPDFダウンロード
【はじめに】
介護老人保健施設(老健)は在宅復帰を目的とした中間施設として、施設類型に応じた個別リハビリテーション(個別リハ)提供体制が定められており、最も個別リハが充実する超強化型であっても、入所から3か月を過ぎると個別リハ提供量は週60分に制限される。標準型施設ではさらに少ない時間となり、長期入所者における身体機能の維持・向上を困難にしている課題の1つとなっている。
当施設ではこの課題への対応として、日常生活場面において継続しやすい運動機会の提供を目的に、集団反復起立練習を導入している。この練習は、平日に約25分間、1セット30回を目安に立ち上がりと着座を1回10秒のペースで行い、セット間30秒の休憩を挟みながら進行する。参加者は座面の高さ調整や手すり使用などで安全が確保された状態で、介護職員1名とリハビリスタッフ1名の見守りのもと実施され、1度に25名程度が参加する。実施可否は主観的疲労度に基づき自ら判断する形式で、同時間帯に複数人が同じ場所で行うため、互いに刺激を受けながら継続されやすいという特長を有する。本研究では、この取組による身体機能および日常生活機能への影響を後ろ向きに検討した。
【方法】
対象は、2020年4月から2024年12月に当施設へ入所した利用者のうち、認知機能評価バッテリーであるMini-Mental State Examination(MMSE)≧5点で言語的コミュニケーションが可能、入所前の基本的ADLが全介助ではない者とし、入所期間150日未満または評価欠損が多い者を除外した。
合計71名(集団反復起立練習の参加群39名、非参加群32名)を分析対象とした。
評価項目はベースラインとして性別、年齢、要介護度、主な入所目的、入所元(自宅、施設、病院)、既往歴(高血圧・糖尿病・心疾患・脳血管疾患など)、併存疾患、栄養状態(Mini Nutritional Assessment-Short Form:MNA-SF)、体重、身長、BMI、認知機能(MMSE)を評価した。
主要アウトカムは下肢機能の評価バッテリーであるShort Physical Performance Battery(SPPB)合計得点とし、副次アウトカムは上肢筋力の指標である握力、下肢筋量の指標である下腿周囲径、ならびに日常生活機能評価スケールであるFunctional Independence Measure(FIM)合計得点とした。
評価は入所時(0M)、3か月後(3M)、5-6か月後(6M)に実施した。
統計解析では、ベースライン比較に対応のないt検定またはMann-WhitneyのU検定を用い、主要アウトカム・副次アウトカムの経時的変化については年齢、MNA-SF、MMSE、FIM運動項目を共変量に設定し、線形混合モデルを用いて集団参加の有無と時間(0M、3M、6M)の交互作用(group × time)を検討した。
本研究は、旭中央病院倫理審査委員会のにて承認済みである(登録番号:2025071509)。
【結果】
ベースラインにおいて、参加群は非参加群に比べて平均年齢が若く(83.3±5.6歳 vs. 86.7±5.7歳、p=0.018)、FIM合計得点は高く(p<0.001)、握力も強い結果となった(p=0.022)。また、自主トレーニング実施の有無(p<0.001)においても参加群の実施者が多い結果となった。
SPPB合計得点は、参加群で3Mまでに有意な改善が認められ、6Mでも改善傾向を維持した。一方、非参加群は3Mで軽度の改善が見られたが、6Mでは横ばいであった。
group × timeの交互作用は有意であり(p=0.003)、共変量調整後もこの傾向は変わらなかった。
FIM合計得点においても同様の傾向がみられ、group × timeの交互作用は有意だった(p<0.001)。
握力(p=0.246)および下腿周囲径(p=0.053)では交互作用は有意ではなかったが、t検定では下腿周囲径が3Mから6Mで有意に増加していた。
【考察】
集団反復起立練習への参加は、老健入所者の身体機能および日常生活動作の維持・改善に有効である可能性が示された。
握力および下腿周囲径の交互作用は有意ではなかったが、下腿周囲径については一定の改善傾向を認め、特に入所3か月以降の個別リハ提供量が制限される中でも、参加群はSPPBおよびFIMの改善傾向を維持しており、実践的な意義は大きいと考えられる。
環境調整に加え、同じ場で共に取り組むことによる継続のしやすさが一定の効果につながったと考えられ、本取り組みは今後の施設ケアのあり方においても意義のある結果となった。
今後は、筋量や栄養状態など多面的な要因を捉える評価指標を用いた解析が求められる。
【結論】
限られた資源の中で主観的疲労度に合わせて任意参加のもと実施される集団反復起立練習は、老健入所者の身体機能や日常生活機能の改善に寄与する可能性がある。
【研究の限界と今後の課題】
本研究は後ろ向き観察研究であり、因果関係の特定には限界がある。自主トレーニングの有無は集団参加と関連していたが、実施時期や内容の不確実性から共変量として投入できていない。そのため、group × timeの交互作用に対する交絡バイアスの可能性が残る。
また、任意参加による選択バイアスや、運動負荷量・自主トレーニングの詳細、栄養管理の記録が不十分である点も課題である。
今後は運動条件を標準化することに加え、心身機能面・栄養面・社会的側面をより多角的に評価し、生活機能を検討する前向き研究が求められる。