講演情報

[27-O-L011-06]脳梗塞急性期症例に対する通所リハ理学療法士の関わり

福井県 山下 怜史 (特定医療法人千寿会介護老人保健施設アルマ千寿)
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【はじめに】
脳梗塞は高齢者に多い疾患の1つであり,当通所リハビリテーション(以下通所リハ)において脳梗塞を呈した利用者を度々経験する.しかし,維持期の通所リハでは,発症より運動麻痺の状態が安定し,その後生活リハビリを目的に利用する方が多くみられる. 今回,家族の希望により,急性期病院を1ヶ月で退院し,通所リハ利用となった症例を経験した.理学療法士として,脳梗塞発症1ヶ月後で運動麻痺の改善が期待できるという思いが先行し,適切な目標設定に至らずリハビリに難渋したため,その経緯を報告する.
【症例紹介】 
症例は80代女性A氏.X日,自宅にて左上下肢の脱力,痺れ,呂律が回らないなどの症状が出現し,病院搬送後,右基底核から放線冠の脳梗塞と診断され入院. X日+1日,急性期リハビリ開始.X+30日後,運動麻痺の改善を認め,早期リハビリは順調であった. 入院中に,介護保険の申請を行い,要介護3の認定を受ける.主治医より更なる機能改善目的に,回復期病棟でのリハビリ継続を勧められたが,キーパーソンである娘氏(以下B氏)の希望により,X+31日に退院となった,X+34日,通所リハ開始. A氏のニードは,麻痺を改善したい.B氏のニードは,自宅でのトイレ動作において,なるべく介護負担が少ないようにして欲しいであった.症例報告に際し本人と家族に承諾を得た.
【理学療法初期評価】
X+34日評価実施.Brunnstrom Recovery Stage (以下,BRS)は上肢stage3,下肢stage3,手指stage2であった.感覚評価では,表在感覚軽度鈍麻.深部感覚位置覚正常.Manual Muscle Testing(以下,MMT)は,健側上肢4,体幹4,健側下肢3であった.関節可動域は,左足関節背屈,左手関節・手指に屈曲制限あり.認知機能は,HDS-R26/30点で認知機能の著しい低下はみられず.座位保持は,自立.立位保持は,支持ありで可能.Barthel Index(以下,BI)55/100点で,減点項目は,移乗・整容・トイレ動作・入浴・歩行・階段・着替えであった.歩行能力は,オルトップ装具を急性期病院より引き続き使用し,杖歩行軽介助にて約5m可能.しかし, 分廻し歩行の代償動作みられ,方向転換は不可.トイレ動作は,車椅子への移乗軽介助,拭き取り動作軽介助,トイレへの移動は全介助.下衣更衣が全介助であった.
【問題点・リハビリ目標及び内容】
問題点は,運動麻痺に伴う筋出力低下,可動域制限,代償動作を伴う歩容変化,自宅でのトイレ動作能力の低下,運動に対しての運動耐久性の低下を挙げた.脳梗塞による運動麻痺の回復期間のため,A氏の運動麻痺改善を図りつつ,B氏のニードであるトイレ動作能力の向上を目標に1.麻痺側上下肢関節可動域運動2.麻痺側上下肢促通運動3.荷重位での運動学習4.トイレ動作練習5.Τ字杖歩行練習をリハビリプログラムとした.
【経過】 
X+34日より,週2回,短期集中加算でリハビリ開始. X+64日頃まで運動麻痺改善を重点に介入したが,高齢のためリハビリへの耐久性,集中力が低下しており,休憩や話などでリハビリ時間が終了してしまうことも多々みられた.また,流行感染症により,利用中止の期間があった.そのため効果的な促通運動が出来ず期待された麻痺改善には至らなかった.X+64日以降は,通所リハ利用により離床時間も延長されてきた.また,促通運動により麻痺側上下肢共に軽度の麻痺の改善を認め,関節の分離運動も多くみられるようになった.X+94日より,麻痺側上下肢の随意運動がみられ始めたことにより,荷重位での運動学習,トイレ動作練習,歩行練習に重点を置き介入した.トイレ動作練習では,平行棒内において,分廻し歩行の代償動作も減少し,方向転換や支持なしでの立位保持が可能になったが, ズボンの上げ下げは全介助で介助量の軽減には繋がらなかった.
【理学療法最終評価】 
X+124日評価実施.BRSは,上肢stage3→4,下肢stage3→4,手指stage2となり,麻痺の改善を認めた. MMTは,健側上肢4→4,体幹4→4,健側下肢3→4に改善.認知機能は,HDS-R26/30点と維持.BIは55→60点で,減点項目の移乗動作が自立レベルに改善.トイレ動作において,下衣更衣は全介助のままであった.座位能力は維持.立位保持は,軽介助→見守り,トイレへの移乗は,軽介助→見守りとなった.杖歩行は,軽介助にて約5m→約30mと向上し,ふらつきや疲労感は減少した.
【考察】
最終評価から,麻痺側上下肢の麻痺の改善を認めた.それに伴い立位保持や方向転換が見守りレベルとなり,自宅でのトイレ動作において主介護者の介助量が軽減した.しかし,運動麻痺の機能回復に関しては,上下肢共に期待した結果には至らなかった.その要因として,脳梗塞発症後の集中的なリハビリを行う急性期,回復期病床では,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士が毎日約9単位(180分)介入するのに対し,通所リハでは,週2回40分とリハビリ時間が限られてしまったこと,さらに感染症罹患により通所利用中止期間があったこと.高齢で運動耐久性が低下しており,思うようにリハビリ出来なかったことなどが考えられる. 本症例は退院後自宅での移乗動作,トイレ動作が全介助であり,通所利用開始直後より,自宅を想定した日常生活動作練習を実施すべきであった.しかし,脳梗塞発症1ヶ月後の急性期であり,集中的なリハビリによる麻痺の改善に期待し,促通運動に時間を費やしてしまったことで,日常生活動作練習開始も遅れた.今回,A氏,B氏とのリハビリ目標の合意形成の際,理学療法士主体の目標となったことで,適切なリハビリプログラムの選択に繋がらなかったと考える.
【結語】
今回の経験を通して,通所リハでは,介入時間の限界があった.そのため,脳梗塞急性期の対象者の場合,効率よく効果的に機能回復に繋げることが必要である.また,本人および家族のニーズを含めた質の高い合意形成が重要であると感じた.