講演情報
[27-O-L011-07]在宅復帰困難な症例に対する老健の支援:その課題
栃木県 ○雄鹿 結1, 柴 隆広1, 浦野 友彦2 (1.介護老人保健施設マロニエ苑, 2.国際医療福祉大学医学部老年病科)
【はじめに】 当施設は栃木県県北地域の老健施設として、地域病院や在宅からの入所を受け入れている。今回、回復期病棟でのリハビリテーションを経て入所した、自宅復帰意向の強い利用者への介入を実施した。今回、その介入過程でみられた身体機能向上の限界と在宅復帰支援の課題を報告する。
【目的】 回復期リハビリテーション病院(以下、回復期病院)から当施設に入所した、自宅復帰意向の強い利用者と家族に対し、多職種が協同の短期集中リハビリテーション介入の経過を報告する。在宅復帰支援における身体機能向上の限界と、多職種連携での課題を考察する。
【症例紹介】
対象者はA氏、80代男性、要介護4である。脳出血、膀胱癌の既往がある。右腎盂癌摘出目的にて急性期病院に3週間入院後、術後の廃用症候群に対するリハビリテーション目的で回復期病院へ転院。回復期病院入院から3ヶ月で当施設に入所となった。認知症自立度2A、障害高齢者自立度B2、Barthel Indexは15であった。家族構成は同居の配偶者、別居の長女と孫、次女夫婦である。
入所時評価と目標設定について、家族の希望は自宅退所に必要な能力として、最低でもA氏一人でポータブルトイレを使用できること、自宅の段差を昇降できることであった。しかし、実際の評価では、ADLは食事が自立し、移乗・トイレ動作・整容・入浴・移動は全介助であった。更衣・排便・排尿は一部介助の状態であり、階段昇降は不能と評価した。短期目標を離床機会確保による体力向上と身辺動作の介助量軽減に設定した。
各職種の介入は次の通りである。PTは筋力向上を目的に下肢エクササイズを行い、身辺動作の介助量軽減を目的にADL訓練(起居、移乗、立ち上がり)を実施した。STは嚥下評価を適宜実施し、嚥下機能低下を認め、食形態変更を行った。看護師は全身状態・服薬管理を行い、必要時の吸引・点滴対応を行った。介護士は状態に合わせた日常生活の介助、レクリエーションによる離床時間確保とA氏の交流促進を実施した。支援相談員は在宅復帰に向けた自宅訪問で課題を共有し、家族との面談を適宜行った。
【経過】 短期集中リハビリテーション期間におけるA氏の経過を示す。
1カ月目:入所後1週間で自宅訪問を行い、出入口段差・動線を確認した。その時点で「現状の身体機能では自宅生活は車椅子ベースになること」を家族へ伝えた。前院からベッド上生活が中心で、自宅退所に必要なADL獲得は困難と見込まれた。耐久性低下を認め、離床時間延長と移乗動作確立へ介入を開始した。しかし、上肢の振戦や脱力が出現したため、入所中に急性期病院の脳神経内科受診を行い、症候性てんかんの疑いと診断された。
2か月目:身体機能は、車椅子操作が一部可能(約15m程度の移動) 、移乗動作の介助量軽減が見られ、A氏の笑顔も見られた。しかし発熱があり、嚥下評価で固形物のむせ込みが見られ、食形態をキザミ食へ変更した。このころよりA氏から「家には帰れないな」と発言が聞かれ、リハビリへの意欲低下と活動量減少が顕著になった。
3か月目:食欲不振や疲労感訴えによる日中の臥床が増加し、身体機能改善は停滞した。ADLの全体的な変化は認められなかった。再度てんかん発作様の症状があり、1週間の点滴・禁食対応、抗てんかん薬の内服が開始となった。
3か月間の介入期間で、A氏の意欲低下に伴う活動量減少、家族希望の動作獲得が困難、現在の身体機能で必要な人的確保の困難が複合的要因となり、A氏・家族同意のもと長期入所へ移行した。
【考察】 本症例は、在宅復帰に向けて多職種で取り組んでいたが、てんかん発作や継続した体調不良により身体機能やADL低下が認められたため、在宅復帰に至らなかった。しかし、介入当初からの課題である「家族の思い描く身体機能の予後」と「療法士が想定する身体機能の予後」に関して乖離が大きく、老健でのリハビリテーションの方向性の構築に難渋した。本報告では療法士と家族の関わりを振り返り、在宅復帰の条件に関するすり合わせ方法について考察する。
当施設では、入所前からA氏の身体機能回復に限界があり、家族目標達成は困難と想定していた。この見立ては入所時および1週間以内の自宅訪問時で家族へ明確に伝達した。しかし、家族はA氏の過去経験から「まだ回復力がある」と強い希望を抱いていた。家族がA氏を連れ外出し、自家用車の乗降や自宅の出入りを家族のみで介助を行う日があった。その後の面談で介助を行った家族から介護者の負担を感じる発言が聞かれたが、「だからこそ、もっと本人に頑張ってほしい」と本人への希望が聞かれた。このことから、療法士が想定する身体機能予後と家族の想定している機能予後は、まだ乖離していることとが判明した。
また近年、高齢者が将来受けたいケア・医療を状態が悪くなる前に十分に話し合い、それを文書化し、今後の方針を家族と他職種間で共有するプレターミナルACPが注目されている。本症例では入所後にてんかん発作や嚥下機能の低下があり、ADLの低下が顕著であった。こういったADL低下が起こるタイミングで、予後を含めた話し合いを行い、在宅復帰が困難であることを話すだけでなく、プレターミナルACPを取得すべきであったと考える。老健では高齢者のADLが当初の予想より大幅に低下することも多く、本人や家族にその状況変化を共有すべきであると考える。本症例を通じて、老健職員である我々は本人・家族との予後を含めた情報共有とプレターミナルACPが重要であると痛感し、今後の課題としたいと考えた。
【目的】 回復期リハビリテーション病院(以下、回復期病院)から当施設に入所した、自宅復帰意向の強い利用者と家族に対し、多職種が協同の短期集中リハビリテーション介入の経過を報告する。在宅復帰支援における身体機能向上の限界と、多職種連携での課題を考察する。
【症例紹介】
対象者はA氏、80代男性、要介護4である。脳出血、膀胱癌の既往がある。右腎盂癌摘出目的にて急性期病院に3週間入院後、術後の廃用症候群に対するリハビリテーション目的で回復期病院へ転院。回復期病院入院から3ヶ月で当施設に入所となった。認知症自立度2A、障害高齢者自立度B2、Barthel Indexは15であった。家族構成は同居の配偶者、別居の長女と孫、次女夫婦である。
入所時評価と目標設定について、家族の希望は自宅退所に必要な能力として、最低でもA氏一人でポータブルトイレを使用できること、自宅の段差を昇降できることであった。しかし、実際の評価では、ADLは食事が自立し、移乗・トイレ動作・整容・入浴・移動は全介助であった。更衣・排便・排尿は一部介助の状態であり、階段昇降は不能と評価した。短期目標を離床機会確保による体力向上と身辺動作の介助量軽減に設定した。
各職種の介入は次の通りである。PTは筋力向上を目的に下肢エクササイズを行い、身辺動作の介助量軽減を目的にADL訓練(起居、移乗、立ち上がり)を実施した。STは嚥下評価を適宜実施し、嚥下機能低下を認め、食形態変更を行った。看護師は全身状態・服薬管理を行い、必要時の吸引・点滴対応を行った。介護士は状態に合わせた日常生活の介助、レクリエーションによる離床時間確保とA氏の交流促進を実施した。支援相談員は在宅復帰に向けた自宅訪問で課題を共有し、家族との面談を適宜行った。
【経過】 短期集中リハビリテーション期間におけるA氏の経過を示す。
1カ月目:入所後1週間で自宅訪問を行い、出入口段差・動線を確認した。その時点で「現状の身体機能では自宅生活は車椅子ベースになること」を家族へ伝えた。前院からベッド上生活が中心で、自宅退所に必要なADL獲得は困難と見込まれた。耐久性低下を認め、離床時間延長と移乗動作確立へ介入を開始した。しかし、上肢の振戦や脱力が出現したため、入所中に急性期病院の脳神経内科受診を行い、症候性てんかんの疑いと診断された。
2か月目:身体機能は、車椅子操作が一部可能(約15m程度の移動) 、移乗動作の介助量軽減が見られ、A氏の笑顔も見られた。しかし発熱があり、嚥下評価で固形物のむせ込みが見られ、食形態をキザミ食へ変更した。このころよりA氏から「家には帰れないな」と発言が聞かれ、リハビリへの意欲低下と活動量減少が顕著になった。
3か月目:食欲不振や疲労感訴えによる日中の臥床が増加し、身体機能改善は停滞した。ADLの全体的な変化は認められなかった。再度てんかん発作様の症状があり、1週間の点滴・禁食対応、抗てんかん薬の内服が開始となった。
3か月間の介入期間で、A氏の意欲低下に伴う活動量減少、家族希望の動作獲得が困難、現在の身体機能で必要な人的確保の困難が複合的要因となり、A氏・家族同意のもと長期入所へ移行した。
【考察】 本症例は、在宅復帰に向けて多職種で取り組んでいたが、てんかん発作や継続した体調不良により身体機能やADL低下が認められたため、在宅復帰に至らなかった。しかし、介入当初からの課題である「家族の思い描く身体機能の予後」と「療法士が想定する身体機能の予後」に関して乖離が大きく、老健でのリハビリテーションの方向性の構築に難渋した。本報告では療法士と家族の関わりを振り返り、在宅復帰の条件に関するすり合わせ方法について考察する。
当施設では、入所前からA氏の身体機能回復に限界があり、家族目標達成は困難と想定していた。この見立ては入所時および1週間以内の自宅訪問時で家族へ明確に伝達した。しかし、家族はA氏の過去経験から「まだ回復力がある」と強い希望を抱いていた。家族がA氏を連れ外出し、自家用車の乗降や自宅の出入りを家族のみで介助を行う日があった。その後の面談で介助を行った家族から介護者の負担を感じる発言が聞かれたが、「だからこそ、もっと本人に頑張ってほしい」と本人への希望が聞かれた。このことから、療法士が想定する身体機能予後と家族の想定している機能予後は、まだ乖離していることとが判明した。
また近年、高齢者が将来受けたいケア・医療を状態が悪くなる前に十分に話し合い、それを文書化し、今後の方針を家族と他職種間で共有するプレターミナルACPが注目されている。本症例では入所後にてんかん発作や嚥下機能の低下があり、ADLの低下が顕著であった。こういったADL低下が起こるタイミングで、予後を含めた話し合いを行い、在宅復帰が困難であることを話すだけでなく、プレターミナルACPを取得すべきであったと考える。老健では高齢者のADLが当初の予想より大幅に低下することも多く、本人や家族にその状況変化を共有すべきであると考える。本症例を通じて、老健職員である我々は本人・家族との予後を含めた情報共有とプレターミナルACPが重要であると痛感し、今後の課題としたいと考えた。
