講演情報

[27-O-L012-07]移動能力の改善が生活機能拡大につながった一症例

高知県 薦田 昭宏, 西山 文恵, 内川 誠, 吉田 理起, 田中 健二 (老人保健施設シルバーマリン)
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【はじめに】高齢者の歩行パターンの特徴は,歩行速度の低下,歩幅の短縮,両脚支持期の延長,クリアランスの低下,歩隔の増大,腕の振りの減少などあげられる.また歩行速度の目安として,米国では日常生活で必要とされる横断歩道を渡りきる速さを1.2m/秒で設定,1.0m/秒以下になると下肢障害や入院の危険性が上昇し,0.8m/秒以下はサルコペニアの診断基準の一つとして使用されている.カットオフ値に差はあるものの歩行速度は高齢者の生活機能の自立や日常生活の良し悪しを判断する指標として幅広く採用されている. 今回,通所リハビリテーション(以下,通所リハ)利用にて,移動能力の改善が生活機能拡大につながった一症例を報告する.【症例紹介】80歳代男性,要介護3,診断は閉塞性動脈硬化症・糖尿病である.重症下肢虚血により左母趾・小趾潰瘍形成にてR6.4.22よりA病院入院, 2回の血管内治療・デブリードマン施行ならびに陰圧閉鎖療法を経てR6.5.16に左母趾切断となる.術後の安静臥床により下肢筋力低下,ならびに左膝関節痛(偽痛風性関節炎)にて活動制限に至っている.退院後,介護サービス利用にて症状管理や転倒予防ができるようにとR6.9.4より当通所リハ利用開始(3回/週)となる.なお既往歴は右人工膝関節形成術施行,両側腱板断裂(保存)である.なお居室内移動は伝い歩き,屋外は車椅子介助レベルであり,自宅環境は玄関近くに居室変更、ベッドレンタルならびにPトイレ設置,食事は妻によるベッドサイドへの配膳下膳にて寝室レベルでの活動が主となっている.通所リハの送迎は、玄関前に勾配が急な上り坂(20m程度)があり、スタッフ1人での車椅子での送迎が困難なため電動車椅子での対応となる.家族構成は妻との2人暮らしである.その他の介護サービスは訪問看護1回/週、訪問リハ1回/週であった.なお本発表にあたり対象者に趣旨を説明し同意を得たものである.(理学療法評価)利用開始時では,寝たきり度判定基準B2,認知症の老人判定基準2bであり,身体組成は身長155cm,体重53.9kg,BMIは22.4である.施設内移動では車椅子介助レベル,近距離を馬蹄型歩行器にて歩行可能も20m程度にて左膝痛を訴える.なお歩行速度は0.43m/秒である. また下腿周径は両側28.0cm,握力は両側10kg以下であり、身体的フレイル判定基準では5/5であった.立位姿勢は左重心であり,歩行時に上半身が左へと崩れる.痛みは左膝に中等度(立ち上がり時、歩行時)である.可動域は著明な制限はないものの,両側下肢のこわばり・重たさを訴える.また左膝関節は関節水腫を認め,整形外科にて関節穿刺を行っている.筋力は股関節外転右3-・左2,体幹屈曲3であるも体幹持久性評価で保持困難であった.Barthel Index(以下BI)は55点であり,階段昇降は2足1段にて腋窩介助にて遂行可能も膝痛の訴えが強い状態である.なお精神心理的要因はMMSE18点,金銭管理自立も服薬管理一部介助の状態であった.【経過】歩行障害の問題点として,右下肢への荷重伝達障害を考える.右片脚起立時のトレンデレンブルグ徴候,体幹ならびに股関節周囲筋の筋力低下,運動パターンの破綻により右下肢支持性の欠如が左下肢へのメカニカルストレスへとつながっていると考える.アプローチとして、右下肢への体幹-骨盤-股関節複合体の安定性を主に,個別リハとして単関節運動から徐々に多関節運動へ,また非荷重から荷重下での運動と難易度を上げた.結果,利用3ヶ月では、施設内馬蹄型歩行器自立レベル,歩行速度は0.62m/秒,TUG20.4秒(T字杖),BI75点と回復した.また玄関前の勾配が急な上り坂もT字杖にて監視歩行にて可能となる.利用5ヶ月では歩行速度は0.85m/秒,TUG14.8秒(T字杖),BI85点と回復した. 利用7ヶ月では、施設内T字杖自立となり、歩行速度は0.98m/秒,TUG11.5秒(独歩),BI100点と回復した. 通所開始時車椅子介助であったが,T字杖自立(近距離独歩可能),階段昇降自立昇り1足1段,降り2足1段まで改善した.勾配が急な上り坂もT字杖自立となり近所への散歩や買い物が可能となった.なお介護保険では要支援2に変更となり,通所リハも2回/週の利用となる.【考察】本邦における要介護要因は,認知症・高齢による衰弱・骨折・転倒・関節疾患が上位を占め,全体の約30%が運動器の機能低下が関与する.また年齢が高くなるにつれ運動器の機能障害を含め老年症候群の影響が強くなる.本症例においても閉塞性動脈硬化症・糖尿病による左母趾切断ならびに偽痛風性関節炎にて運動器の機能障害による問題を認める.また歩行を細分化すると,数年前に手術した右下肢の支持性の低下による左下肢へのメカニカルストレスの影響が強いと考えた.予備能力が低い高齢者では,入院加療による体力や機能の低下による虚弱にて認知機能低下,廃用性筋萎縮など入院関連機能障害へと陥ってしまう.この負の連鎖は,身体的要因・精神心理的要因・社会的要因といった多面的要素を持っており,包括的にアプローチする必要がある.通所系サービスは社会参加の一手段であり,フレイル予防には人とのつながりが重要である.身体的・精神心理的・社会的側面より「誰に対しても同じリハビリテーション」でなく「その人個人へのリハビリテーション」へと取り組むことが重要である.また人らしさには歩行スピードが関与しており,機能改善へのアプローチは通所リハにおいて大前提と考える.今回,機能障害改善が移動能力の自立へ,また生活機能拡大へと繋がった.自立歩行が人生の終焉まで可能であれば,よりよい生活と満足が得られるものと思われる .今後,インフォーマルサービスも踏まえた「その人らしい生活」をサポートしていきたい.