講演情報

[27-O-M001-02]精神疾患の長期入院例を受け入れた経験老健がノーマライゼーションに対応可能か?

大阪府 吉田 途男, 宮城 啓, 北村 浩之, 泉 淑子, 本田 由美子, 三浦 ケイ子 (医療法人一祐会介護老人保健施設ハーモニィー)
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背景:
精神病患者にノーマライゼーションやリカバリー志向のケヤが提唱されて実社会との共存が提唱されている。実社会から隔離するという考えではなく、受け入れて共に生きようという流れである。このような流れに老健が役割を持ちえるように成長するにはどうしたらいいのかは大きな課題である。
はじめに:
当施設は精神科を専門としない独立型強化型老健ある。その老健に、精神疾患で長期入院し、比較的精神症状が安定して退院可能となるも、廃用症候群が進んだために老健入所となった利用者があった。そのような方を老健が受け入れていくにはどのように施設側の成長や準備が必要かということと、老健としての在宅復帰にはどうあるべきかという2つの疑問に答えようとした。その経験を報告する。
症例:
症例を簡潔に提示する。精神科の診断名として、主病名、抑うつ神経症、副病名として、身体表現性障害、神経症性うつ病があった。就業という役割を失い、また、依存していた配偶者とも死別した。このような喪失の重なりで、極度の不安となり、不安時の行動化が極端なために、保護入院となった。入院中、投薬に過敏に反応し、投薬調整が長引き、長期入院となった。もともとの依存的で自己中心的な性格が極端化し、さらに子供帰り(退行)反応が合わさった状態で退院となった。ADLは維持されるも、実社会の適応がないということで、体力的なリハビリも行うことを目的に当施設に転入となった。
初診時の状態:
小足歩行で独歩。認知症の検査ではほぼ年齢相応(HDS-R:29/30)で検査上では短期記憶は問題なし。GDS15では7点で、うつ病レベルではなかった。自殺企図なし。精神科医からは向精神薬とベンゾジアゼピン系にごく少量で傾眠傾向となることや、SSNIで妄想、幻覚が出現したとあった。減量されているものの、SSNI使用中という状態で入所となった。精神科主治医は退行が著明で、在宅復帰困難と考え、家族も入院までの経過から受け入れは困難と考えていた。本例に隔離ではなく実社会に帰るには老健側はどのような構えが必要で、どのように介入作業することが有用かを検討した。
介入方法:

精神疾患のあるかたが実社会に復帰する際のモデルとしてはリワークによる復職手法を応用し、職場側の介入や構えに関しての構えとしては交流分析の考え方を使った。
うつ病患者の社会復帰に使われるリワークは段階を踏んで社会復帰するように組み立てられている。第1番目の段階は規則ただしい日常生活の確立と体力増強であり、このレベルは老健でも十分対応できる。それ以降は難度が上り、最後は就業継続状態が続くという仕掛けである。この就業継続というところを実社会で生活可能と読み替えれば応用ができる。
交流分析は一般人の精神分析ともよばれ、看護師、作業療法士も養成課程で一度は学習しているので取り組みやすいと考えた。交流分析の適応とは、本人に対しては、機能不全の成人の自我状態の再構築を行うことであり、スタッフ側にとっては、自我状態の機能不全の利用者とのやりとりでいわゆる「心理的な巻き込こまれ」を減らし、陰性感情をもたずに済むことである。
結果:
リワークの方法論の適応に関して:本人の生活を可及的に規則正しいものにすることが社会復帰の第1歩であるのだが、本人の「起きられないという訴えのままに」朝遅くまでベッド安静させることが続いた。
交流分析手法の適応に関して:実際に遭遇した心理的にストレスな場面は、交流分析のゲームという理論で表現できた。この理論の心理的なゲーム内に落ち込んでしまうと迫害者、被害者、救済者の3つの役割を知らないうちに演じるという劇に見立てる。それぞれのモードは利用者の顔面の硬直、言葉の調子、姿勢などから判断することが出来る。入所者の迫害者モードはトラブルを引き起こしている時に観察でき、被害者モードは、スタッフからのケヤをうまく引き出すモードの時に観察することが出来た。被害者モードは施設では一見適応的に見えるのだが、病的な依存する関係を作るもので注意を要する状態であった。スタッフは本質的に救助者的な態度でかわることが多い。もし、入所者に後で陰性感情を持つことになれば、知らないうちに心理的なゲームを演じて、迫害者あるいは被害者モードでかかわっていたということになる。「ここではこれ以上世話を続けれない、受け入れ継続無理」、「どこかへ転出するべき」というような言動がスタッフ間に次第に増加し、救助者から被害者あるいは迫害者モードに移動していることが観察された。 それに加えて、入所者同士のコンフリクトも次第に増加傾向となり、他の入所者への他害事象が生じた。その時点で、入所者、家族、施設側スタッフでカンファレンスを開き今後の方針を話しあった。「ひとは一人では生きていけないので、誰しもが受け入れてくれる社会で共に生活する」という概念を全員に伝えたが、共に生きようと言うよりは隔離するという考えが家族や施設側にも強固で、結果として、抗うつ剤のアクチベーションの可能性として前入院先に差し戻となった。
考察と結語:
1.リワークの方法論の適応に関して:介入の手順を明確にするには有用であるが、リワークの概念が施設で広まっていないと、表面的対応となる。
2.交流分析手法の適応に関して:利用者の行動の非言語の真意がわかり、言葉の介入が有効でないタイミングが理解しやすい。心理的な巻き込まれ防止にも有用である。スタッフも成長につながる機会である。ただ施設全体に浸透した概念でないと、異常行動はただの問題行動と解釈され、陰性感情のコントロールは不十分であった。行動の裏にある心理を理解するツールをあらかじめ広めておくことが今後の課題であった。
3.今後:在宅復帰には共生するという概念を施設で広めることやノーマライゼーションにかなう組織との連携が必要であるとわかった。