講演情報
[27-O-M001-04]老健における心不全症例の検討心不全急性増悪症例の増加について
鳥取県 ○渡部 信之 (介護老人保健施設さかい幸朋苑)
【はじめに】
近年、生活習慣の欧米化に伴う虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)の増加や高齢化による高血圧や弁膜症の増加などにより、心不全患者が急増している。介護老人保健施設さかい幸朋苑(以下当苑とする)でも慢性心不全の急性増悪と考えられるケースが急激に増加している。施設では超高齢の方が多いこともあり、心不全の急性増悪であっても入院治療を希望されず、施設での治療を希望される方も多く、その対応に苦慮することも少なくない。
そこで、当苑における心不全の状況などについて検討して報告する。
【目的】
近年、高齢者の慢性心不全はとても増加しており、当苑でも慢性心不全の急性増悪と考えられる入所者が急増している。この原因究明と対策の一助とする目的で心不全症例の検討を行った。
【研究方法】
1.対象者・期間
2023年6月1日入所中であった36人、2023年6月1日から2024年11月30日までの期間に入所した108人、計144名。
平均年齢;87.9歳 男;53人、女;91人 平均観察期間;177日
2.方法
当苑は介護老人保健施設であり医療機関のような正確な診断はできない。そこで、対象(144人)を以下の4群に分類した。そして、1~4週間で体重が5%以上増加、これに浮腫、呼吸症状、NT-proBNPなどを考慮して急性増悪とした。
0群 心不全と診断されたことがない症例-----91人中、入所後急性増悪3人(3.3%)
1群 心不全の病名があるが無治療の症例-----18人中、入所後急性増悪2人(11.1%)
2群 心不全と診断され治療中の症例----------25人中、入所後急性増悪5人(20%)
3群 心不全急性増悪の既往のある症例-------10人中、入所後急性増悪1人(10%)
計144人中、入所後急性増悪11人(7.6%)
上記のごとく対象となった144人中、53人(37%)に心不全(既往含む)が疑われた。病名のみの症例を除いても35人(24%)が心不全と考えられた。そして入所中に急性増悪が認められた症例は11人であった。入所時に心不全治療中の症例では25人中、急性増悪は5人(20%)と多かったが、入所前に心不全の急性増悪のための治療を受けた既往があった症例では10人中1人(10%)と比較的少なかった。また、急性増悪はすべて入所後40日以内に起こっており、入所後40日を超えてからの急性増悪は1人もなかった。そして呼吸状態の悪化が見られ、酸素の投与を必要とした方も4人あったが、医療機関への救急搬送を希望された方はなく、11人全て苑内で治療を行った。
【考察】
高齢者施設などの脱水となるリスクの低い環境で水分摂取を強く勧めることが、心不全急性増悪のリスクを増大させる一因ではないかとの疑問もあり今回の研究を行った。従来より高齢者は水分摂取量が不足しがちであり、脱水になりやすいという考え方が浸透している。当苑でも食後はもとより、食間、おやつの際、希望時などにいろいろな飲み物を提供していることから、1日の水分摂取量が1000ml以上の方も少なくない。しかしながら、高齢者施設の入所者は年間を通して過ごしやすい室温で暮らしており、炎天下で作業をしたり、多量に汗をかくような激しい運動をすることもないことから、普通に食事を食べておられる方が脱水症となられることはほとんどないと考えられる。また、脳梗塞や心筋梗塞は水分摂取が少ないと起こりやすいと言われているが、当苑では最近の7年間で脳梗塞発症は2例のみ、心筋梗塞は1例もなかった。
高齢者が1日に必要な水分量(水の代謝回転量)は1.5~2.5L程度と考えられるが、これは飲水量ではなく、食事に含まれる水分や代謝水を含めた値である。我が国からも4施設が参加した23か国の国際共同調査から「ヒトの体の水の代謝回転量を予測する式」が作られている。今回の11症例の水分摂取推奨量(気温22℃、湿度60%)をこの式で計算すると1日507~869ml、平均690mlであった。
50床の介護老人保健施設である当苑で1年6か月の間に心不全の急性増悪が11例も見られたことは驚くべきことである。そして、心不全の急性増悪はすべて入所後40日以内に起こっていた。その原因は自宅や病院に比べて、施設入所後に水分摂取量が急に多くなったためではないかと推測された。そして、急性増悪が起こった症例では水分や塩分の制限をしていたため、繰り返し急性増悪が起こる頻度が少なかったのではないかと推測された。そして、今回の研究の終了後の6か月間では心不全の急性増悪は1例と少なかった。このことは水分の勧めすぎに注意をしたり、入所後1か月程度はこれまで以上に浮腫や体重などに注意をしたためではないかと考えられた。
今回調べた範囲では高齢者施設における心不全急性増悪についての多施設、多数例、長期間の信頼性の高い研究を見つけることはできなかった。今回の研究を契機として、今後のさらなる研究に期待したい。
【まとめ】
50床の老健で1年6か月の間に心不全の急性増悪が11例に見られた。そして、心不全の急性増悪は入所後40日以内に起こっていた。施設入所後に急に多量の水分を取るようになったことが、心不全の急性増悪の一因ではないかと推測された。
近年、生活習慣の欧米化に伴う虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)の増加や高齢化による高血圧や弁膜症の増加などにより、心不全患者が急増している。介護老人保健施設さかい幸朋苑(以下当苑とする)でも慢性心不全の急性増悪と考えられるケースが急激に増加している。施設では超高齢の方が多いこともあり、心不全の急性増悪であっても入院治療を希望されず、施設での治療を希望される方も多く、その対応に苦慮することも少なくない。
そこで、当苑における心不全の状況などについて検討して報告する。
【目的】
近年、高齢者の慢性心不全はとても増加しており、当苑でも慢性心不全の急性増悪と考えられる入所者が急増している。この原因究明と対策の一助とする目的で心不全症例の検討を行った。
【研究方法】
1.対象者・期間
2023年6月1日入所中であった36人、2023年6月1日から2024年11月30日までの期間に入所した108人、計144名。
平均年齢;87.9歳 男;53人、女;91人 平均観察期間;177日
2.方法
当苑は介護老人保健施設であり医療機関のような正確な診断はできない。そこで、対象(144人)を以下の4群に分類した。そして、1~4週間で体重が5%以上増加、これに浮腫、呼吸症状、NT-proBNPなどを考慮して急性増悪とした。
0群 心不全と診断されたことがない症例-----91人中、入所後急性増悪3人(3.3%)
1群 心不全の病名があるが無治療の症例-----18人中、入所後急性増悪2人(11.1%)
2群 心不全と診断され治療中の症例----------25人中、入所後急性増悪5人(20%)
3群 心不全急性増悪の既往のある症例-------10人中、入所後急性増悪1人(10%)
計144人中、入所後急性増悪11人(7.6%)
上記のごとく対象となった144人中、53人(37%)に心不全(既往含む)が疑われた。病名のみの症例を除いても35人(24%)が心不全と考えられた。そして入所中に急性増悪が認められた症例は11人であった。入所時に心不全治療中の症例では25人中、急性増悪は5人(20%)と多かったが、入所前に心不全の急性増悪のための治療を受けた既往があった症例では10人中1人(10%)と比較的少なかった。また、急性増悪はすべて入所後40日以内に起こっており、入所後40日を超えてからの急性増悪は1人もなかった。そして呼吸状態の悪化が見られ、酸素の投与を必要とした方も4人あったが、医療機関への救急搬送を希望された方はなく、11人全て苑内で治療を行った。
【考察】
高齢者施設などの脱水となるリスクの低い環境で水分摂取を強く勧めることが、心不全急性増悪のリスクを増大させる一因ではないかとの疑問もあり今回の研究を行った。従来より高齢者は水分摂取量が不足しがちであり、脱水になりやすいという考え方が浸透している。当苑でも食後はもとより、食間、おやつの際、希望時などにいろいろな飲み物を提供していることから、1日の水分摂取量が1000ml以上の方も少なくない。しかしながら、高齢者施設の入所者は年間を通して過ごしやすい室温で暮らしており、炎天下で作業をしたり、多量に汗をかくような激しい運動をすることもないことから、普通に食事を食べておられる方が脱水症となられることはほとんどないと考えられる。また、脳梗塞や心筋梗塞は水分摂取が少ないと起こりやすいと言われているが、当苑では最近の7年間で脳梗塞発症は2例のみ、心筋梗塞は1例もなかった。
高齢者が1日に必要な水分量(水の代謝回転量)は1.5~2.5L程度と考えられるが、これは飲水量ではなく、食事に含まれる水分や代謝水を含めた値である。我が国からも4施設が参加した23か国の国際共同調査から「ヒトの体の水の代謝回転量を予測する式」が作られている。今回の11症例の水分摂取推奨量(気温22℃、湿度60%)をこの式で計算すると1日507~869ml、平均690mlであった。
50床の介護老人保健施設である当苑で1年6か月の間に心不全の急性増悪が11例も見られたことは驚くべきことである。そして、心不全の急性増悪はすべて入所後40日以内に起こっていた。その原因は自宅や病院に比べて、施設入所後に水分摂取量が急に多くなったためではないかと推測された。そして、急性増悪が起こった症例では水分や塩分の制限をしていたため、繰り返し急性増悪が起こる頻度が少なかったのではないかと推測された。そして、今回の研究の終了後の6か月間では心不全の急性増悪は1例と少なかった。このことは水分の勧めすぎに注意をしたり、入所後1か月程度はこれまで以上に浮腫や体重などに注意をしたためではないかと考えられた。
今回調べた範囲では高齢者施設における心不全急性増悪についての多施設、多数例、長期間の信頼性の高い研究を見つけることはできなかった。今回の研究を契機として、今後のさらなる研究に期待したい。
【まとめ】
50床の老健で1年6か月の間に心不全の急性増悪が11例に見られた。そして、心不全の急性増悪は入所後40日以内に起こっていた。施設入所後に急に多量の水分を取るようになったことが、心不全の急性増悪の一因ではないかと推測された。

