講演情報

[27-O-MB02-03]一緒に見つけるあなたらしい暮らし

静岡県 酒井 美樹 (介護老人保健施設西山ウエルケア)
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(はじめに)
介護老人保健施設西山ウエルケアは、静岡県初の介護老人保健施設として1989年に開設した。入所定員148名。短期入所の利用も行っている。西山ウエルケアは加算型から在宅強化型の取得を目指している。家に戻りたいという本人や家族の想いを聞き、当施設職員や他事業所とともに家に戻るための検討を行った。事例を通して家に戻るための支援が適切であったか、適切なケアマネジメント手法を用いて見落としていた部分がなかったか確認し、本人らしく暮らすために必要なことは何か考えることが出来たので報告する。
(事例紹介)
A様76歳男性要介護4。妻と2人暮らし。2024.10仕事中に意識障害と左片麻痺を認め、救急搬送。心原性脳塞栓症と診断を受けた。2024.11リハビリ専門病院に転院。リハビリテーションで左片麻痺は中程度まで改善したが、端座位保持は介助が必要で実用的な歩行の獲得はできなかった。家の前の段差が13段あり、屋内も段差があり、施設での生活を検討。本人は家に戻りたいと希望したが、戻れないと知り意気消沈した。リハビリも消極的になってしまったため、老健ではゆっくりリハビリテーションを継続してほしいと本人家族から希望があった。老健から特養への入所に向け、今の状態を維持することを目的に2025.2.27西山ウエルケアに入所。HDS-R17点。ティルト機能付きリクライニング車いすを使用し、20分ほどの座位保持で尾てい骨部に痛みが生じてしまう状況。仰臥位から右側臥位への寝返りはベッド柵を持って自身で可能。起き上がることは困難。立位保持は掴まって30秒程度可能な状態であった。2025.5.19入所して3か月がたつ頃、妻に意向確認をすると「家に戻ることをずっと考えていて、今も家に戻したいと思っている。夫に私のご飯を食べさせてあげたいの」と話があった。本人も「家に戻りたい」と希望があり、家に戻ることを検討した。在宅生活では、1)家の前に段差が13段あること、2)本人が寝たきり状態で常に介助が必要だが介助者は妻しかいないこと、また、妻から「家に戻ったら毎日デイケアに行き、毎週ショートステイを1泊2日で利用したい。朝食と夕食は私が作った物を食べてもらいたい」と希望があり、1)2)の状態で毎日外出ができるか、対策を考えた。1)については、階段昇降用リフトを検討。着脱式の車いすを使用し、介護者が押して階段を上り下りするため、ウエルケアにデモを福祉用具事業所に持ってきてもらい確認した。しかし家のコーナーでは幅が足りず、使用できないことが判明した。家の構造上、車いす用電動昇降機が適切と工務店の意見があり設置することとなった。2)については、本人が寝たきり状態のため、介護方法を指導する必要があった。妻の面会を利用し、介護職員やリハビリテーション職員から指導してもらうこととした。その中で移乗サポートロボットHugを使用した方が、本人や妻の負担軽減になるとリハビリテーション職員より話があった。妻に移乗介助の指導をしていく中、スライディングボードが一番移乗しやすいことが分かり、スライディングボードを使用することとなった。3)については、デイケア、ショートステイを組み合わせ、毎日の利用を希望しているため、居宅ケアマネやデイケア、ショートステイ、福祉用具や介護タクシー等他事業所と退所後のサービス利用について確認をした。区分支給限度基準額が大幅に超えてしまうことが分かり、妻の予定を確認し、本当に毎日の利用が必要なのか、福祉用具はどのようなものが必要なのか、本人と妻を含め検討した。また、適切なケアマネジメント手法を用いて、聞いていなかった情報や、見落としているところがないか確認した。すると、望む生活・暮らしの意向の把握、将来の生活の見通しを立てることの支援、一週間の生活リズムに沿った生活・活動を支えることの支援、将来にわたり生活を継続できるようにすることの支援を見落としていたことが分かった。見落としていた部分が多く情報が不足していたため、課題が次々と出始め、予定していた日に退所することが出来なくなってしまった。
(まとめ)
A様のように、脳塞栓症を発症し、家に戻れないと判断される方は多く、本人も家族も家で暮らすことを諦めざるを得ない。しかし、どんな状態であっても家に戻りたいと思うことはごく自然なことで、突然突きつけられる家に戻れないという事実は、本人も家族も生きていく意味を見失ってしまうと思われる。A様は現時点では在宅復帰できておらず、調整している段階である。適切なケアマネジメント手法を使用することで、見落としていると感じた情報を聞き出し、言葉では表されない本人や家族の態度やしぐさを見て、自分なりに仮説を立てることで見落としていたものが見えてくるかもしれない。利用者には今までの人生があり、夫婦での思い出や生活習慣がある。妻の「家に戻したいとずっと思っていた。私が作ったご飯を食べさせてあげたいの」という言葉にはどういう想いがあるのか。利用者や家族の生活歴、夫婦関係等を知らなければ、どうして家に戻りたいのか、家に戻って何がしたいのか、今後の人生はどうしていきたいのか本人や本人を取り巻く環境を知らなければ、想像することは出来ない。このことに気づいていなければ、私は勝手にリスクのみを想像をし、家に戻ることはできないと判断していたかもしれない。また、多職種が考える課題を聞き、多職種からの視点をもらいながら情報を集めることで、想定される支援をより深く考えることが出来ると思う。今回の事例では情報が極端に不足していたと感じている。また、多職種との連携も不足していたと感じている。今後は、総合的に利用者を把握し、必要な視点、想定される支援を想像し整理した上で本人らしい暮らしが出来るよう本人や家族と一緒に考え、多職種の意見を聞きながら支援していきたいと思う。