講演情報

[27-O-O003-03]スピーチロックの認識向上と現場改善への取り組み啓発ポスターの効果検証

香川県 名越 映理子 (三豊総合病院企業団 介護老人保健施設 わたつみ苑)
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1. はじめに
介護老人保健施設において、利用者の尊厳と安全を守るためには、適切な声かけやコミュニケーションが不可欠である。中でも「スピーチロック」は、職員の発する言葉によって利用者の行動や意思表示を制限してしまう“言葉による身体拘束”であり、身体拘束の三要素(スリーロック:フィジカルロック、ドラッグロック、スピーチロック)の一つに数えられている。当施設では、これまでも看護や介護職員対象のアンケート調査や標語作成による啓発活動を行ってきた。しかし、看護・介護職員限定の取り組みであったため、今回はリスクマネジメント委員会の活動として、全職員がスピーチロックをどのように認識し、実際の現場でどのように対応しているかを把握し、改善へとつなげることを目的にアンケートを実施した。また、その結果をもとに啓発ポスターを作成・掲示し、認識度の向上と行動変容を促す取り組みを行った。本研究では、2回にわたるアンケート調査を比較し、啓発活動の効果を検証する。
2. 方法
(1) アンケート調査の実施施設内で働く全職員を対象に、スピーチロックに関する意識調査を実施した。対象者は介護職員、看護職員、リハビリ職員、事務職員、医師、管理栄養士、歯科衛生士、デイケア送迎運転手とした。アンケートは2回実施し、1回目の調査結果をもとに啓発活動を行った後、2回目の調査を行い認識度の変化を比較した。
(2) 1回目のアンケート結果1回目のアンケートでは、「スピーチロック」という言葉を知っている職員は65名(80.2%)、「十分理解している」と回答した職員は15名(18.5%)にとどまった。また、「過去にスピーチロックに該当する言葉を使ったことがある」と回答した職員は61名(75.3%)であった。さらに、現場でスピーチロックに該当する対応を「よく見かける」または「たまに見かける」と回答した職員は54名(66.7%)であり、多くの職員がスピーチロックの発生を認識しているものの、具体的な対応方法が十分に浸透していないことが示唆された。
(3) 啓発活動(ポスターの作製・掲示)1回目のアンケート結果を受け、スピーチロックの認識度を向上させ、実際の対応改善を促すために啓発ポスターを作成・掲示した。ポスターには、スピーチロックの定義、具体的な事例、代替表現の例を掲載し、全職員が日常的に意識できるよう施設内の目立つ場所に掲示した。また、朝礼やミーティングでポスターの内容を紹介し、職員同士で意識を高める機会を設けた。
(4) 2回目のアンケート調査の実施ポスター掲示後の一定期間を経て、2回目のアンケート調査を実施し、スピーチロックの認識度や対応の変化を検証した。
3. 結果
(1) 認識度の向上2回目のアンケートでは、「スピーチロックという言葉を知っている」と回答した職員は76名(96.2%)となり、1回目よりも16ポイント向上した。また、「十分理解している」と回答した職員は25名(31.6%)、「ある程度理解している」と回答した職員は50名(63.3%)であり、理解度の向上が確認された。「ほとんど理解していない」と回答した職員は4名(5.1%)に減少し、「全く理解していない」との回答は0名(0%)となった。
(2) スピーチロックの実際の使用状況「過去にスピーチロックに該当する言葉を使ったことがある」と回答した職員は65名(82.3%)と、1回目(61名)と比較して大きな変化は見られなかった。一方で、現場でスピーチロックに該当する対応を「よく見かける」または「たまに見かける」と回答した職員は69名(87.3%)となり、1回目(54名)よりも増加した。これは、スピーチロックに対する認識が向上したことにより、以前は気づかなかった場面でスピーチロックを意識する職員が増えた可能性を示唆している。
4. 考察今回の取り組みにより、スピーチロックの認識と理解は大幅に向上したが、行動の変化にはつながりにくいという課題が明らかとなった。スピーチロックは職員の意識の問題だけでなく、業務の忙しさや人員体制といった環境的要因とも深く関わっている。高橋らは、介護職員を対象とした研究において、スピーチロックの使用は職員のストレスや業務過多と関係があると報告しており、知識の習得だけでなく、職場環境そのものの改善が不可欠であると指摘している。また、厚生労働省が発行する「身体拘束ゼロへの手引き(改訂版)」においても、スピーチロックは精神的な拘束と位置づけられ、日常の声かけや関わり方の見直しの必要性が強調されている。今後は、実践的なロールプレイ研修や事例共有の場を設けるとともに、代替表現の一覧表を業務中にも確認できるようにするなど、日常業務に根付いた取り組みを継続していくことが求められる。また、職員同士がフィードバックし合える風通しの良い職場づくりや、利用者の声を取り入れた振り返りの仕組みも有効であると考えられる。
5. 結論本研究では、施設内のリスクマネジメント委員会の取り組みとして、スピーチロックの実態と意識を把握し、啓発ポスターを活用した認識向上への取り組みを行った。その結果、職員の認知と理解は着実に向上したが、現場での行動改善にはさらなる工夫が必要であると考えられた。今後は、知識の定着だけでなく、職場環境やコミュニケーション文化の整備を含めた多角的なアプローチにより、利用者の尊厳を守るケアを実現していきたい。